花と化け物

あの時の歌だ。
今聞こえて来た。
雨が降って来て、窓硝子に模様を描いてゆくのを見ていた。
期待なら少しもしていなかった。
マスクの中で呟いたら、咽せた。

流れていく、オレンジの光。
私たちが動くのか、光のほうが動くのかわからなくなって来る。
ネオンの看板達。
気付いたら全部滲んでしまって、絵の具みたいにめちゃくちゃに混ざっていた。

生贄になっただけだったかもしれない。
いっそ心臓を抉り出して、マヤの心臓壺の中に入れて捧げてしまって欲しかった。
体は檻。私は罰を受け続けているのだ。
ここからはどうやっても、この世では抜け出せない。
檻から解き放たれたい。儘ならないこの檻から。
だから、心臓を抉り出してしまって欲しかった。

これではいけない。
これではどうしてもだめだ。
このままにはならない。
このままではいるものか。
化け物が嘆く。
化け物が叫ぶ。
檻から力づくで出ようと藻搔く。
チャンスは来ない。
明日からもこの体で。
明日からもこの儘ならない体で。
どうかそれでも楽しいことがたくさん待っていますように。
どうかそれでも愛してくれる人が待っていますように。
明日には。どうか明日には。

花よ咲け、この恐ろしい世に。
花よ咲け、咒をその手に。
花よ咲け、その体で。
花よ咲け、風などに散らされない花よ。
花よ咲け、そして一枚ずつ花弁を散らすな。
最後には、一思いに泥の中へ落ちて行け。
落ちて行け。
咒を手に。

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