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『ディオールと私』

 クリスチャン・ディオールの本社にカメラが入ることが許されたのはこれが初めてだとか。オートクチュール(パリオートクチュール協会に加盟していないと名乗れない。現在は、シャネル、ディオール、ジバンシー、ジャン=ポール・ゴルチェ、フランク・ゾルビエの5社しかない)すべてが一点ものの高級注文服のこと。映画の中に出てくる話なのだけど、ディオール一社から1シーズンに5000万円注文する顧客がいるんだそうです。作品中、ドレス部門の職人のトップであるフロランス(写真の真ん中でドレスの丈の調整をしている人)を、この顧客のサイズ調整のためにニューヨークに派遣するか、コレクション作製に集中してもらうか社内でもめるシーンがあります。買う人も希有な存在なら作る人の腕も人間国宝並み。すごいエネルギーが飛び交う世界なのです。

 ディオール社内では、「今でもクリスチャン・ディオールの幽霊が出る」と信じられているそうです。「何人もの人が見た」と社員はまじめな顔で言います。このビルで作られる作品は彼が今でも守っている。スタッフはそう信じているのです。

 2012年秋冬コレクション、アーティスティック・ディレクターに突如抜擢された、女性服ではほぼ無名の存在、ラフ・シモンズ。なぜそうなったかは明らかではないのだけれど、通常半年かけてじっくり作り上げるコレクションに、彼のチームに与えられた時間は8週間。しかし、彼らは、ただちにチーム精神と個々の高い技術を発揮し、プロの仕事を存分に見せつけていきます。

 これらの服には一般でいう「パタンナー」が存在しないそうです。ディレクターのラフはイメージファイルを作成。それをアシスタントがデッサンにおこします。そして、「お針子」と日本語で訳してしまうとただの縫う専門職に聞こえてしまうのですが、トップクチュリエたちはそのデッサンを見ながら直接ドレーピングで形だしをしていくのです。ドレスの裾も、作ってモデルに着せてから写真のように10センチ以上切っちゃったりします。一点ものだからできる贅沢です。

 職人たちが実にチャーミングなんです。ストイックなラフと、彼の右腕のピーター、職長の、ちょっと和泉雅子を思い出させるフロランスと眉間のしわが深いナディンヌ。みんな陽気で真剣。定時になったらさっと引き上げるのが当たり前の国で、徹夜で仕事を仕上げる人たち。「誇り」というものについて圧倒的に考えさせられます。

3/14(土)より公開中。

公式サイト http://dior-and-i.com/info/


 

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