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社会に溶け込むことば (しみこませる英語力 vol.050)

 こんにちは。
 5月21日に「野菜くだもの通信」メルマガで、語学学習の記事を書きました。(そのときの記事はこちら https://rawbeauty.seesaa.net/article/503402198.html  )
 主旨は
・語学は優先順位の高い順に学習する(それ以外の順位では覚えられない)
・意味がわからない「小さなもやもや」がその語学から自分を遠ざけている。そのもやもやをなくしていく
 というものでした。
 その例として、日常の身の回り~スーパーでの商品表示や、洗剤など生活用品の取り扱い方法表示、さらにその一例として、卵のケースに書いてあるたった1語の単語(calibre =カリブル=元は「直径」とか銃の「口径」の意味、ここでは卵のサイズ)の意味がわからないともやもやしてしまう、という例を書きました。

 この卵の表示が読めるようになってからの、後日談です。

ちなみに卵の写真

余談ですがケースの内側。数字の意味として
0=オーガニック
1=屋外平飼い
2= 平飼い(屋外でなくてもよい、てことは室内)
3=ケージ
の表示があります。

 

 その件で頭がすっきりして以来、街なかで、人に話しかけられる機会が突然増えたのです。偶然なのか関係あるかどうかは、調べる方法もありませんが。
 どういうシチュエーションかというと、
・パン屋さんのイートインスペースでコーヒーを飲んでいたら、その場で「ここのパンはおいしいですよね」とか話しかけてくるムッシュがいて、もうひとり、その場でキッシュを食べていたマダムと三人でパンに関して他愛もない会話。(どういうパンが好きか、とか、うちでホームベーカリーを買った話とか)
・通りで道を聞かれたり、バスを待っていたら「このバスは〇〇に止まりますか」と聞かれたり

 などです。

 つまり、なんとなく「その共同体の一員」として話しかけられることが増えたんです。
 繰り返しますが、関係あるかどうかはわかりません。でも、服装がその時地元の人っぽくなったとかいうわけじゃないですし、以下のような仮説は成り立つんじゃないかと思うのです。

「calibre(カリーブル) は卵のサイズを表す」、というレベルのフランス語がわかると、社会に対するベールがかかったようなもやもや感がなくなり、街なかにいても、「見えてるんだけど見えない」ことに対する不安感がなくなる → なんとなく、態度が落ち着いているように見える、もしくは、その街に溶け込んでいるように見える → その結果、「地元民的な話をしてもいい人」のように、他者から見える

 街なかで、大きなスーツケースを持って、ガイドブックやスマホ(マップ)を見ている人を見かけたら、間違いなくその人は「この土地の人」ではなく、その人と地元のパン屋さんの味の話をしたり、バスの行き先を尋ねたりしようとは思わないですよね。なぜならその人とは「地元のパン屋さんのパン」や「地元のバス」の情報を共有できる相手には見えないから。それと反対のことが起きたんじゃないか、という仮説は立てられます。

 「ナチュラルな表現」「ネイティブに近い表現」などという言葉を聞くことがありますが、「calibre が卵のサイズを表す」ってまさにナチュラルな表現です。ほかに「サイズ」という言葉で言っても通じるかもしれません。でもそれは、日本語で、たとえば箸を「一組、二組」と言うのと「一膳、二膳」というのと同じ種類の違いだと思うのです。「一組、二組」でも通じる。でも、「一膳、二膳」は、その共同体に属している人だけが使える言葉。

 たとえ卵の話を直接するわけでなくても、「そういう言葉がわかってる」という落ち着きが、自分をその共同体に溶け込ませたのではないか、と思うのです。

 で、こういう言葉の違いは試験に出るのか、というと、実は試験にも出ます。

 フランス語では、着るものの「サイズ」を表す言葉が二つあります。「taille タイユ」と「pointure ポワンチュール」です。タイユは洋服に、ポワンチュールは靴、手袋、帽子などに使うサイズ用語です。
 tailleの原義は「ウエスト=胴回り」という意味で、pointure はこれらの差サイズを表すときにしか使わない言葉ですが、「ポワント」というぐらいだから何か尖ったものの「長さ」を表す言葉じゃないかと想像できます。着るものは胴回りで表し、靴や手袋や帽子みたいに「胴」にかからないものは長さで表すのは理にかなってるかと思います。

  このpointure をフランス語能力試験で見たことあるのですよ。
しかもその試験は、TCF(テーセーエフ)といって、国に住んだり働いたり国籍をとることを希望する人が語学能力証明のために合格が必要な試験で、まさに「社会に溶けこむ言葉を使えるか」をチェックする語学能力の試験だったんです。
 
「靴屋さんで、『もう1サイズ下の靴を試したいです』みたいに言いたいとき、どの語を使いますか?」というような質問。

 TCFはTOEICと同じで四択です。しかし、pointure がわかっていないと、taille とか引っ掛け選択肢がきたときに誤答してしまいます。

 英語では洋服も靴も「サイズ」、着るもの以外(部屋の大きさとかポスターとか)にも「サイズ」使いますよね。「size 」という言葉は「規模」という意味だから、文脈上OK。だから、英語から入って、taille サイズをsize と置き換えてしまうと、「size=taille だからなんでもtaille でいいじゃん!」と思いがち。
 だけど、taille がウエストという意味から来ているとすると、「部屋の胴回り」という表現は変だというのが、日本語にしてみるとわかりますね。(フランス語では部屋のサイズ感にはまた別の言葉があり、taille は使えません)

  「二つは違うってこと、ちゃんとわかってる? この違いを使い分けるのが、フランス語圏という社会で話されるフランス語なんだよ」ということが、試されるわけです。

 今回のcalibre =卵のサイズがわかるまで、わたしは、不動産屋さんと話すときに「アパートのサイズ感」なんて言うときに「taille 」を使ってたので、今になって「あーこりゃダメだった~ 」って痛感している次第です。

 語学を学ぶときに「どういう意味で上達したいのか?」「どういう姿を目指したいのか?」というイメージ像は大事です。
 まったくの初心者が、旅行のときに使える会話を学びたい、ということであれば、卵のサイズを表す言葉を覚える必要はないかもしれません。
 でもそれを知っている「落ち着き」があると、文字通り会話を落ち着いてできたり、相手も耳を傾けてくれる可能性がある、そういう方向を目指したほうが、せっかく学ぶ意味がある、とは思うのです。

 語学学習のモチベーション確認のために、役に立つかな、と思うことを書いてみました。

 

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