見出し画像

『ブルックリン』7/1公開

最後にnote に映画紹介書いたの今年の1月だったんですね。はい、いっぱいいっぱいでした。でも、この作品は書かなきゃ、と思わせてくれた作品がこの『ブルックリン』。それにしても日本は公開が遅い(アメリカじゃすでにDVDが出ている)。アカデミー(作品賞他)にノミネートされなかったら、公開されなかったのかもしれないね。


 ちなみにシアーシャ(町山智弘さんは「ショーシャ」と発音してた)は両親がアイルランド人のニューヨーク生まれで、現在はアイルランド在住である。この「シアーシャ」はアイルランド語で「自由」という意味だとwikiに出てるけど、これも町山さんによると、このつづりで「ショーシャ」と読めるアメリカ人はほぼいない、と、彼女が語っているそうだ。

 このシーン、最後まで出てこなくてどこに出てくるんだろう? と思ったら最後のクライマックスだった。上半分のブルックリン橋は合成(映画見たけどこうはなってなかったと思う)だと思うけど、いい構図だ。橋は世界を「こっち」と「あっち」に分ける。ブルックリンは、マンハッタンだと違うところなのだ、と、宣言するような構図。映画の中ではブルックリン・ドジャース(LAに本拠を移したのは1958年)も効果的に使われている。

 というわけで1950年代。主人公で二十歳の女性エイリッシュはアイルランドの小さな町に年老いた母親とあまり歳の離れていない姉と暮らしている。仕事は意地悪な女店主が経営する食料品店の売り子で、もっといい仕事につきたいが、パートタイムのこの仕事が、彼女が見つけるのにはやっとなのだ。姉の知人の神父から、仕事の紹介が入る。ニューヨーク、ブルックリンのデパートで働かないのかというのだ。ビザも下宿も用意してくれるという。エイリッシュはそのことを母と姉に告げ(とくに賛成も反対もされない。本当はいてほしいけど仕事が無いから自活してもらわないとしょうがない?)荷物をまとめてニューヨーク行きの船に乗る。当時の渡航はまだ船だったのだね。

この展開が不自然といえば不自然で、職はあるけど恋のチャンスもなく母の面倒を見ることが運命づけられた姉、女性がひとりで身よりもなくアメリカに渡っていく妹、どっちがうらやましいのかよくわからない。何がストーリーの核なのかも。例の神父さんが「私が費用を出すから夜は簿記の学校で勉強しなさい」と言ってくれるんだけど、そんなにうまい話あるか、いつこの神父さんが悪いやつに変身するんじゃないかとドキドキしてしまうぐらい。

 だんだんと現地にとけ込み、仕事でも能力を発揮し、恋人ができて求婚され、しかし突然ある事件が起きてアイルランドに帰ってみると、手に職があるのでここに残ってぜひ働いてほしいと頼まれ、真剣に求婚してくる男性まで現れ……と、前の彼女に対する扱いとはえらい違い。彼女もニューヨークで首を長くしている男性がいるのにアイルランドの男性にも心ひかれたり、え? なんで? でも最後はニューヨークの恋人ともとさやしそうなものだけど、でもここはふるさとなんだしNYに帰るモチベーションがどんどんすたれていくように見える…と話が展開する……最後のどんでん返しまでは。そして「ああ、そうだったのか」と深く納得するのだ。この映画がいったい何を語りたかったのか、ということに。

 あんなに愛し合った男性がニューヨークで待っているのに、どうしてアイルランドの男性にひかれてしまったんだろう? と、ここがよくわからなかったのだけれど、彼女にも、ちょっとした「溜飲を下げる」ような気持ちがあったのかな、と思った。ここで私の居場所はなかったのに、今じゃあるのよ、という、ささやかな自分へのお祝い。

 最後まで見てみると、プロットとキャラクターにいかに無駄が無いかがよくわかる。最初に出てくる食料品店の女主人、そこで優遇されるちょっと金持ち風の女性客(ベーコンを買う)、神父(カトリックの導きだったからアイリッシュはニューヨークに出て行こうという気になったのだ)、船の中で助けてくれる女性、姉、母、イタリア系の恋人トニーと役所を訪れたときにそこで出会うアイルランド系の親子、どうしてニューヨークでできる恋人がイタリア系なのか(アイルランド人じゃないけどカトリック)、etc,etc 全部覚えておいたほうがいい。

 そして、「ブルックリン」と聞いたら「移民でいっぱいの下町」という想像ができるかどうかも、この映画への感動の深さに関わっているのかも。でも、わからなくても、エイリッシュがクリスマスにチャリティをする場に集まってくるホームレスの人たち、50年アメリカで肉体労働力として働いて、歳をとっておっ放りだされた人たちのシーンを見たら、これがアメリカの歴史の重要な曲がり角の中で展開しているドラマなんだってわかるだろう。

 この映画を見て感想をちゃんと書こうと思って、そういえば先週フランスの映画3本見たけどこっちも書かなくっちゃ、最近フランス映画というと愛の映画というより移民の映画が専売特許みたいになっちゃったなあ、と思っていたのだけれど、どうして、アメリカの映画もやはり、「移民」は大きなテーマであるのでした。

この映画と「移民」についてもっと深く知りたい方は、上記で参考にさせていただいた町山智宏さんの解説もぜひ聞いてください。あと、町山さんの解説で、アイリッシュの衣装にはいつもグリーンが効果的に使われているという指摘があった(とくに水着がめちゃめちゃかわいい)。なるほど確かにグリーンはアイルランドの色だ。

https://youtu.be/YcurSfZ8zR4

『ブルックリン』公式サイト http://www.foxmovies-jp.com/brooklyn-movie/

youtube 予告 https://youtu.be/nsdOJQmCaXs




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?