「広島ジャンゴ2022」に寄せて

観劇備忘録

先日、シアターコクーンにて上演中の「広島ジャンゴ2022」を観劇。
以下、少々のネタバレを含む自分用の備忘録を記しますので万が一観劇のご予定がある方はご注意ください。
そして私の演劇に対する好き嫌いをズバズバと書き記すので気分を悪くされる方がいらっしゃいましたら申し訳ございません🙇‍♀️
文章がオタク全開でめちゃくちゃキモいのでお許しを

かんたんなあらすじを公式サイトより引用

舞台は現代の広島の牡蠣工場。

周囲に合わせることをまったくしないシングルマザーのパートタイマー山本(天海祐希)に、シフト担当の木村(鈴木亮平)は、手を焼いていた。
ある日木村が目覚めると、そこはワンマンな町長(仲村トオル)が牛耳る西部の町「ヒロシマ」だった!
山本は、子連れガンマンの「ジャンゴ」として現れ、木村はなぜかジャンゴの愛馬「ディカプリオ」として、わけもわからぬまま、ともにこの町の騒動に巻き込まれていく―――!

https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/22_django/

鈴木亮平さんの生の芝居が観たくて観劇したのでまずは鈴木さんの感想から

肉体改造ばかりが先行しがちな印象だけど彼の芝居はそんな表向きなものだけでは語れない
人間性、知性、品性、全てが芝居に現れている
赤の他人の中で心から尊敬しているのはマツコデラックスさんと鈴木亮平さんくらい(突然のマツコ)

そしていよいよ訪れた生で鈴木さんの芝居を観れるまたとない機会
私は「孤狼の血LEVEL2」の上林成浩が好きすぎて、上林ありきなところがあるので、鈴木さん個人というよりも愛してやまない上林成浩という人間を生み出した俳優の芝居に興味があった、という方が正直なところかもしれない

第一声で驚く
テレビのスピーカーを通して聴くよりもずっと幼く透き通った声
役柄に合わせていることもあるだろうけど、あまりにも若々しい声に面食らった

鈴木さん演じる牡蠣工場勤務32歳独身木村良太
なよなよとした猫背の男
そこには喜多見チーフも上林成浩も鈴木亮平も居なくて、居るのはただの、弱者がいても他人事で自分さえ良ければいい、言い訳ばかりの頼りなく冴えない男だった
言いたいことがあってもゴム手袋をムニュムニュしながら視線を右往左往
もごもごぼそぼそ、その場にいる全員の顔色を窺い前髪をぐしゃ、ぐしゃ、と撫でつけながら「いやぁ〜」「でも〜」
言われるがまま、周りの空気に流されるがまま、自分を持たず出さず生きている男
自分だけの空間になると言いたいことがべらべらと出てくるのに、一歩外の世界に出ればまた強い者に従い課せられた職務をこなすだけ


馬となって(馬になるんです、何故か)西部の町ヒロシマへと迷い込んでしまってからの戸惑いの表情、声、木村として迷い込むも段々と馬らしくなっていく僅かな仕草の変化、身のこなしの変化、どれも本当に絶妙

そして圧倒的にコメディシーンが達者
間の使い方、声の音、重い作品のトーンにしっかりと照準を合わせていた
持論だけどコメディが上手い役者は何をやらせても上手い(気がする)

ラップ、歌、これもまた圧巻
リズム感が素晴らしい、耳がいいのかな
ラストシーンで歌われるORIGINAL LOVEの「LOVE SONG」
もともと音程が分かりづらい、歌とも語りとも言えるような曲ではあるけれど、完璧だった
原曲を完コピしているというわけではない、牡蠣工場の木村良太が歌うLOVE SONGとして完璧だった

細胞ごとその役に入れ替えて演じる役者にあそこまで歌い上げられると、一流のミュージカルスターも、もう誰も何も敵わない
ましてや小手先の技術だけの歌唱力を武器にして舞台に立っているような役者はけちょんけちょんだろう
月並みな表現にはなるが、魂の叫びだった
喉を潰すとか潰さないとか、あんなに動きながら歌えるのすごいな〜とか、そういう次元を超えている
あれは、あの時点の木村良太だから歌えるのだ
一瞬でも鈴木亮平が顔を出せばあのタイミングで歌い切るのは難しいと思う

良い意味で、物凄く芝居をしていた
役者なんだから芝居をするのは当たり前だけど、その当たり前が出来ない自称役者が蔓延る作品も少なくない中で、鈴木亮平は芝居をしていた
「役を愛する」という役者は多いけれど、その役者の普段の行い、SNSの様子などで「ああ、この人は役を愛している(風の)自分を愛していて且つそれをアピールしたいだけなのだな」と思う人ばかりだ
そしてそんな人が舞台に立つと全く芝居をしていない
役としての台詞はそれらしく吐いているけれど、ただ目立ちたい、自分を見てほしい、そんな役者自身の気持ちが前面に出ているのが素人目にも分かる
正直興醒めだ
もちろんその気持ちが悪いわけではない
役者にとって注目され売れることは大事なことだから
だけどそれは「作品」を観に来た観客には関係ないし、与えられた位置で与えられた仕事を誠実にこなせば見ている人には伝わるはずなのだ
芝居に誠実な役者は、どこに居ても気になるし印象に残る
集客目当てでアイドル役者や顔だけの役者がメインキャストに据えられることも多い
だけど集まるのはその役者のファンばかりで、評価もファンによる好評価ばかり
本当に届けたい人の元に作品は届かない
「作品」目当てに観に来た客は、メインの役者が自分先行の芝居で全く役として生きていないもんだからつまらない、響かない
だけど制作側の苦しみも分かるから、演劇界って難しい世界だなあとつくづく思う

めちゃくちゃ脱線してしまった
何が言いたいかというと、鈴木亮平は自分を完全に消し去るのだ
鈴木亮平という人格を奥深くに沈め、芝居が終わり暗転するその瞬間まで微塵も出さない
だから、まるでオーラが無い
牡蠣工場勤務の木村良太が居るだけ
最初こそ、これだけのキャストを使っていながらあまりにも簡素な舞台セットだという印象を受けたが、なるほどここまで役として存在されると華美なセットはかえって不釣り合いだ
木村良太という人間が生きる世界を表すのであれば、むしろあれくらいがギリギリなのかもしれない

とにかく、つい先日見たばかりのタキシードを着こなしレッドカーペットを颯爽と歩く実力派俳優はどこにもいなかった

あそこまでのキャリアがあれば目立ちたいだの売れたいだの今さらそんな気持ちがないのはそうなんだろうけど。
作品を観客に届ける、観せる、残す、役者として当たり前の"仕事"をただ誠実にこなす
これが出来る役者が一体どれくらい居るだろうか
私は観客として観た作品も役者として出た作品もそう多くはないけれど、芝居をしているなあと思える役者に出会えた機会は少なかった(自分のことは棚に上げていますごめんなさい)


鈴木亮平さんの役の中で特に好きな役は
上林成浩(孤狼の血LEVEL2)
喜多見幸太(TOKYO MER)
秋山周太郎(天皇の料理番)
佐野文吾(テセウスの船)

上林成浩は超番外編として置いておいて、やはり鈴木亮平さんのパブリックイメージは優しい、強い、賢い、明るいというのがほとんどであり、私が好きな役もそういう役が多かった

だけど広島ジャンゴの演出家、蓬莱竜太さんはどうやら世間とは一味違う視点で鈴木さんを見ているようだ
これは鈴木亮平の芝居ファンとしてはありがたい
世間が求める鈴木亮平像をそんなこたぁ知らねーよと真っ向から無視した配役、痺れるゥ───!
そんな演出家からの挑戦状とも言える配役を受けて立つと言わんばかりに真正面から喰らい付き100倍返しにして作品に昇華させる鈴木さん
そして普段見れない鈴木さんの芝居を観れる我々ファン
win-winどころの話ではない。win-win-win-win-winくらいだ。

現実世界でも架空都市ヒロシマでもあらゆる不条理に振り回され悪と弱者の板挟みとなり自分自身の弱さと立ち向かうことを強いられる木村良太
勧善懲悪、悪い者だけが死に弱き者が助かる物語に耽る木村良太
だけどそれはあくまで物語の世界
現実はそうはいかない
弱き者は透明人間かのように扱われ、意見など言えず、言ったとしても悪の声に掻き消される
誰も悪を悪と言えず立ち上がれない
誰もがお互いを見て見ぬ振りをする
間違いを正さないまま積み上げたかりそめの平穏の中で着実に心を削られている人がいる

ラス立ち前のジャンゴ(天海祐希さん)の台詞
「私を見て。それだけで充分」

悪しき指導者ティム(仲村トオルさん)の台詞
「ティムはどこにでもいる」

対するジャンゴの台詞
「ジャンゴだって、どこにでもいる!」

私は走馬灯のようにこれまで自分が属してきたあらゆる集団の中に確かにいた"ジャンゴ達"の顔が頭によぎった
たんぽぽ組でいつも隅にいたあの子も、2年C組で毎日1人で下校していたあの子も、3年A組で明らかにいじめられていたのに笑顔でやり過ごしていたあの子も、みんなジャンゴだ
きっとあの子たちも、声をかけて欲しかったわけじゃない、お節介に仲間に入れて欲しかったわけじゃない、ただ見てあげるだけでよかったんだ
その子の生活を、人生の歩みを知ろうとするだけでよかった
そして私はいつだって木村だった
見て見ぬふりをして、自分だけ平穏に過ごせればそれでいい木村だった

だけど作中の木村は立ち上がる
悪の声だけが響き渡る世界に、頑なに染まらず声無き声で闘うジャンゴ、いや山本さんと向き合う
私を見て。それだけで充分
そんな山本さんに木村は歌う、叫ぶ
倒れないでくれ 倒れないでほしい

現実世界に戻った木村は、山本さん(ジャンゴ)と話す
少しだけ、ほんの少しだけの会話で山本さんという1人の人間の人生の営みが木村に流れ込んでくる
他愛もない会話
それだけで山本さんは牡蠣工場の山本さんとして、一児の母の山本さんとしてどんどん肉付けされていき透明人間ではなくなる
木村の中で山本さんは1人の同僚として立体化する
山本さんは、ちゃんと居る
ジャンゴは、どこにだって居る

観劇していない人にとっては何を言っているのかさっぱりだと思うけど、備忘録なのでご容赦下さい

声無き者たちは殺されていく
私達が作り上げた脆い平和の中で誰にも気付かれず死んでいく
大丈夫です、大丈夫ですと笑いながら死んでいく
誰も気付かない
あんなに明るかったのに、大丈夫と言っていたのにと、かりそめの平穏から見たその人を哀れむ

見るだけでいい
応援するだけでいい

心に一頭の馬を飼おう

倒れないでくれ 倒れないでほしい
倒れないでくれ 倒れないでほしい

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