20200728-日本企業のマネジメント(京都リモートワークより)

一応、人事系中心にコンサルタントしているので、勤め先のニュースに書きました(抜粋です)

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私事で恐縮ですが6月下旬から1ヵ月間、京都のシェアオフィスからリモートワークしました。もともと私は社内業務が主体である上、新型コロナ以降お客様との打合せもONLINE中心になって東京にとどまる必然性が減りましたし、知り合いがやっている宿泊機能付きシェアオフィスの空きが増えてマンスリープランの募集を開始したとのことで、その経営サポートの意味も兼ね、政府の定額給付金を使いました。場所は清水五条、高瀬川の近く。建物は築100年を超える元遊郭を快適な機能を取り入れて昨年秋に現代的にリノベートしたものでした。


京都は5~6回、短期間訪れただけなので、この機会に関西に住んでみたいと思ったのもひとつの大きな理由です。
テレワークしながら、日本企業が根本的に抱えて来た課題について改めて考えましたので、経営に携わる皆様にもお伝えしたいと思い、雑記風でとりとめないですが、まとめました。


これまでテレワークがほとんど進んでいなかった日本でも、新型コロナで「否応なしに」舵を切った企業が多かったようです。そもそもテレワークに「向いている職種」と「向いていない職種」があるので一概に論ずる事はできません。
そもそもテレワークに向かない職種、たとえば
・医療
・小売業、飲食店や理容業
・運送業や清掃業
等に従事されている方々や、製造ラインそのものに直接関与される方々の中には、このような状況下でも従来のような働き方で国民生活の根幹を支えていただいているEssential Workerも多く、頭が下がる思いです。

一方、「向いている職種」に限った場合、日本企業においては業務内容や職務分担が不明確であることが多く、テレワークが進みにくい理由になっていると思います。誤解を恐れずに一言で言えば、「マネジメント層の仕事のやり方・与え方に大いに改善の余地がある」ということです。
テレワークで、「仕事は会社でするもの」という考え方に変化が表れました。
巷でもよく言われているように、テレワークを実現するためにはマネジメントが変わらないといけません。具体的には、業務内容の明確化と評価の仕方です。定時に出社して職場で周りのみんなと協調してやっていれば評価が高まるというのは、テレワークとは全く相容れません。要するに、上司が部下一人ひとりに対してどういう仕事をどのような進め方で実行して欲しいのかを明確に指示し、その達成をサポートし、達成の度合いで評価する仕組みがないとうまくいかない訳です。
業務内容は「職務記述書」(Job Description)にきちんと整備される必要があります。従来のやり方ではうまくいかないことに大企業中心に気づき始め、中には制度の根本的改革を決めた企業もあります。端的な例は、従来から長く検討を進めていた日立です。同社は「週2~3日の在宅勤務を収束後も続ける。働き方の新常態(ニューノーマル)を作っていく(執行役専務)」と宣言し、リーマンショック直後の製造業過去最大赤字(7873億円:08年度)以来取り組んで来た、「日本型雇用」という壁に対する改革を現実化する方針を示しました。
(2020年7月14日日経新聞「日立『もう元には戻さない』在宅定着へジョブ型雇用」)

今後このような動きが日本全体で進むと、企業の競争力、そして日本の競争力が確実に強まると思います。高度成長期に結果的にうまく回っていた、「新卒一括採用」「年功序列」「あいまいな業務分担」などの日本型雇用自体は、バブル崩壊後、崩れつつありました。一方、日本企業のマネジメントの意識はあまり変わっていないので、従業員の意識の変化は遅々としています。一度待遇の良い会社に入ってしまえばある程度の生活の保障は得られて安泰、といった意識がまだまだ残っているように思います。
また、日本の法律は、経営者にとって改革を図る制約の一つになっていると思います。
日本の雇用は、異動を含む人事権について会社が握っている無限定雇用であることが多く、この場合に適用される労働法制は労働者保護の色彩が強く、「解雇要件」が諸外国に比べて厳しいと言われています。これは「整理解雇」「指名解雇」の両方について言えます。さらに「過重労働」に対する運用も極めて労働者寄りであり、適切な管理をしていないと会社に在席していたり PC等業務用機器に触れているだけで業務中と解釈されるケースさえあります。
強い企業にしていくためには、労働法制を守りつつ、「能力があって成果を出す社員はきちんと報いられる、一方甘い社員にとってはある意味で厳しい経営」に変えていく必要があります。本来、給与等の報酬は労働の対価であり、報酬と労働成果が見合っているのかどうかは、契約期間(雇用期間)を通じて厳しくチェックされ続けるべきものだと思います。企業が期待するパフォーマンスを出せない社員は人事評価・指導の上改善を図り、何度指導してもそれが改善されないようであれば処遇変更をするか雇用契約を打ち切るのが当然です。

また、人事評価・報酬制度においては労働者に厳しくするのが目的ではなく、能力を活かして重要な業務を担う社員、あるいは大きな成果を挙げた社員に正当に報いることが重要です。これにより、社員のモチベーションアップ、ひいては会社の業績向上に結びつきます。
これが充分にできていない会社がまだまだ多いように感じます。
モチベーションが高く、会社にコミットしている優秀な社員は、適切な仕事を与えさえすれば「時間」などにこだわらず、やるべき時には集中して身を粉にして働きます。それが自己実現であることを知っているからです。もちろん、会社の経営理念が適切であり、それに対する自分の関与の意義を見出していることが大前提ですが。
会社が「評価」するのはもちろん「業務成果の部分」のみですが、「セルフ・マネジメント」能力は結果的に必ず「いい仕事」として表れてきます。そのような能力を高いレベルで身に付けさせ、あるいは身に付けている人材を社内外で見出す。そしてそのような人材に適切でチャレンジングな業務を与えて成果を挙げてもらい、「勤務時間」とは全く別の、「成果」で正当に評価して報いる、という良い循環サイクルを是非日本全体に作って行きたいと思います。

日本経済がバブル崩壊後30年近くにわたって一向に浮上することができず、長らく低迷している要因のひとつとして、そもそも企業のマネジメントや人材活用(社内だけでなく、社会としての人材活用)に大きな問題があると、常々思っています。適材適所ということです。日本人そのものが劣っているということでは決してなく、逆に(少なくとも卒業時には)平均的に極めて優秀なはずですから、マネジメントをきちんとできる人材が日本の企業に広く育っていない、あるいは育つような環境を作り出して来なかったことに大きな原因があるように思います。
典型的なのは役人の年功序列・事なかれ主義で、改善が評価されにくい仕組みになっていること、これが民間経営者の意識にも影響を与え、国全体の活力を削いでしまっていると言ったら言い過ぎでしょうか?
近年、一部の省庁ではだいぶ民間との人材交流が進み、それに伴って役人の意識も変わりつつあるようですが、彼らが「自らの仕事の改善」を図れないと日本は浮上しないと思います。

もう一つ、テレワークを進めながら改めて感ずることは、「IT」と「コミュニケーション」の重要性です。時間・空間の距離を埋めるためにITを使いこなすこと、そして並行してコミュニケーションの質を高めること、この2点は経営の高度化に欠かせません。後者に関しては、話し言葉であっても書き言葉であっても、要点を簡潔にかつ正しく相手に届ける能力、これが特に経営者やマネジメント層には必須です。

会社の業績は、短期的な「まぐれ」は別として、基本的に経営者の器以上に伸びませんし、部下の能力発揮度も上司の制約を受けます。経営者の皆様は、まずは企業理念と経営計画を明確に持つこと、それを実行するための戦術を具体的アクションにまで落とし込み、「by name で責任者と期限を決め、フォローアップしていく」こと、これが肝要です。日本の企業は、上司が部下の具体的アクションにまで切り込めていないことが多いように見受けます。企業ごとに、企業理念の明確化・その浸透・社員の意識改革・経営計画立案・リスク管理・IT化・セキュリティ強化・人事評価制度・報酬制度・業務効率化・優秀な人材の採用・労務管理等 、それぞれ様々な各々別の分野で課題を抱え、お悩みであること思いますが、「戦略の具体的アクションへの落とし込み」はどの会社でも効果を実感できる取り組みだと思います。
マネジメントの改革、適切な人事・報酬制度の適用が日本の会社全体に浸透すると、自ずと人材の流動化・日本経済全体としての適材適所が進むように思います。今後の日本企業が世界で強くなれるよう、次世代に続く企業とそこで働く方々たちを少しでも強くできないものか?
・・・自分が微力ながらもどのように貢献できるのか、そしてそのために身の回りの喫緊の課題に具体的に少しでもお役に立てないものか、と思いながら、高瀬川近くのシェアオフィスでの1ケ月のテレワークを終えました。

もちろん、せっかくの良い機会ですから、週末の空き時間にはマスクと検温で守り守られながら桂離宮・修学院離宮・龍安寺など、観光客の激減した静かな京都を散策したことは言うまでもありません。滞在中、私はシェアオフィスにおいて、生物学的に最高年齢でしたが、同じ空間を共有し、ともすると年齢半分以下の若いITコンサルタントやベンチャー関係者と極めて緩くつながりながら空き時間に良い刺激を受け、得るものも多かったと思います。

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