この551 砂嵐とよいこ

ネームが終わると心は砂嵐状態になる。
使えそうな部品はごっそり引っこ抜いてしまったような。
なにも映らないのにガーガーザーザーやかましいテレビみたいになる。
こういうときは寝るに限る。
編集さんに電話で起こされないよう、連絡は何時以降にお願いしますとメールしてさっさと布団に入る。
それで砂嵐が落ちついてから原稿作業に入るのがだいたいいつもの流れ。なのだけど。

ときどき、砂嵐がいっこうにおさまらず、むしろ増幅して気持ちを荒らしまくることがある。
こうなるととても作画なんてできない。
寝ることも起きて活動することもできず、石のようにうずくまったまま、凶暴な気持ちをかかえて1日半とか2日とかをふいにしてしまう。

ところで猫という装置は、飼い主のたいていの苦痛をうやむやにする機能を標準搭載している。
しかし、猛烈な砂嵐におけるうやむや効果はとても短い。
背中を撫でた手を浮かせた瞬間に愛着がかき消される気がして、焦燥感から少し手荒にわしづかんでしまったりする。ごめん。
廃人の殺伐荒涼とした精神状態、猫にも伝わるものはあるのだろうか。
伝わっていないのか、伝わったうえでとくに態度を変えないことにしているのかわからないけれど、猫はいつもとかわらず、手を伸ばせば簡単に触れられる距離で目やにをぶらさげて眠っている。

どうしてうちの猫の情緒はこんなに安定しているんだろう。
いつもと変わらず、寝て起きてひっくりかえって腹を見せたまま顔を洗い餌を催促し出そうならトイレに寄り爪を研ぎあくびをしてまた定位置で眠る。

観察して学びを得られるような心の安寧を持った飼い主ではないのである。ムラっ気の強さは家庭内で飼い主が突出している。
きみたちをこんな気立てのよい子に育てた覚えはない。
もうすこしくらい悪い子だって寒空に放り出したりなんかしないのに。

うちの猫は性格がいい。
生後3ヶ月までに相当高度な教育を親猫から受けたのかもしれない。
私も受けたい。
そして朝起きて日を浴びて真面目に家事をこなし誠実丁寧に漫画を描き酒は適量を超えることなく毎晩お風呂に入って髪を乾かしてから日付が変わるまえに床につく、そういうひとにわたしはなりたい。
希望はかなわないことはわかっている。
たぶんひとつもかなわない。
希望を持てるようになりさえすればまあよいのである。
ベーコンとたまごとチーズをパンにはさんで、作画の遅れを取り戻しにかかる。




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