【論文メモ】Biodiesel as alternative fuel for marine diesel engine applications: A review (Mohd Noor et al., 2018)

1. 概要

バイオディーゼル燃料は、有毒ガスの排出を削減し石油由来の燃料への依存から脱却するための環境に優しい代替燃料として選ばれた。本論文では、船舶エンジンの燃料としてのバイオディーゼルの包括的なレビューを行う。

2. メモ

・バイオ燃料やバイオガスは、代替エネルギーの一つの形であり、消費者の間で急速に注目を集めている。

・バイオディーゼルは、燃焼特性が既存のディーゼルとほとんど同じであるため、エンジンのシステムを改造することなく使用できる。

・バイオディーゼルは複数の原料からつくられる。欧州や米国では菜種や大豆の油が主に使われ、マレーシア・タイ・インドネシア・ナイジェリア・コロンビアなど熱帯地域ではパーム油から抽出している。

・パーム油はコストが低く、バイオディーゼル生産の原料として経済的な実現可能性が高い。

・様々な研究において、バイオディーゼルは既存のディーゼルと同等のエンジンパフォーマンスを示している。しかし、それらの多くは陸上機械での実験であり、船舶エンジンにおける研究は非常に少ない。

・船舶エンジンは2ストローク(全体の75%)と4ストローク(全体の25%)の2種類があり、4ストロークエンジンは主にコンテナ船やバルクキャリア、2ストロークエンジンは低速の船に搭載されている。

・低速エンジンは350rpm以下、中速エンジンは350~750rpm、高速エンジンは750rpm以上のものを指す。

・船舶用の内燃機関エンジンは、通常ターボチャージャーによって出力を再生産するシステムを搭載している。

・今日の海運業界では、重油は航海中の主機に使用され、ディーゼル油は補機や停泊中に使用される。

・船舶用燃料はブレンドや粘度によって以下の5種類に分類される。


1)船舶用ガスオイル(MGO):自動車用のディーゼル油と同様のもの。

2)船舶用ディーゼルオイル(MDO):粘度を落とし予熱の必要性をなくすため、重油とMGOを混ぜたもの。

3)船舶用重油(IFO):MDOとほぼ同等で、残渣燃料油もしくはHFOとMGOを混ぜたもの。

4)船舶用重油(MFO):HFOとほぼ同等で、HFOとMGOの混合だが、IFOと比べてガスの含有量が少ない。

5)船舶用重油(HFO):最もグレードの低い船舶用燃料。高粘度で使用前に予熱が必要。


・船舶用燃料は留出・残渣・ブレンドの3種類に大きく分類される。

・ほとんどの船舶用燃料はISO 8217に基づいて生産されている。バイオディーゼルの混合物は同基準に沿っていないが、将来的には適用される予定である。一方で、ASTM D975はバイオディーゼル5%のブレンド油(B5)を許可している。

・炭化水素あるいは化石燃料が全世界のエネルギー供給の80%以上を占めている。

・しかしながら、再生可能エネルギーは急速に成長すると予測されている。向こう20年間、再エネの成長率は年間7.1%にのぼると予想される。

・エネルギー政策ネットワークのレポートによれば、再エネは2015年のエネルギー消費の19.3%を占めており、この内9.1%が既存のバイオマス、10.2%がバイオディーゼルを含む新しい再エネからなる。

・バイオディーゼルの生産量は一位が米国(年間55億リットル)、二位がブラジル(年間38億リットル)、ドイツ・インドネシア・アルゼンチンが年間30億リットルで後に続いている。

・バイオディーゼルは野菜や獣脂などの再生可能な脂質からとれる脂肪酸油のモノアルキルエステルである。

・純粋なバイオディーゼル(100%)はB100と呼ばれ、石油ディーゼルとのブレンド油はBXX(XXはバイオディーゼルのパーセンテージを示す)と記載される。

・現在、350種類以上の植物がバイオディーゼルの原料として認識されている。

・原料は生産にかかる総コストの75%を占めるため、適切な原料の選定は非常に重要である。

・一般的に、バイオディーゼルの原料は以下の4種類に分けられる。


1)食用野菜:大豆、菜種、ひまわり、パーム(ヤシ)、オリーブ、米ぬか、トウモロコシ、ココナッツ、キャノーラ、小麦、大麦、落花生、紅花、ゴマなど

2)非食用野菜:藻類、綿実、麻黄、ツバキ、クマル、ホホバ、ニーム、亜麻仁、モリンガ、タバコ種など

3)リサイクル・廃油

4)獣脂


・バイオディーゼルの抽出プロセスは、原料がアルコール(メタノールあるいはエタノール)および触媒(水酸化カリウム)と混ざることで起きる化学反応を含んでいる。

・バイオディーゼルの生産方法にはエステル交換・マイクロエマルション・熱分解・希釈の4種類が存在する。

・燃料の引火点は、貯蔵や運搬の面で重要な特徴である。バイオディーゼルは石油ディーゼルよりも引火点が高く(150℃以上)、より安全と言える。

・自己着火のしやすさはセタン指数で表される。バイオディーゼルは石油ディーゼルよりセタン指数が高いため、燃焼効率が良い。

・バイオディーゼルは石油ディーゼルより発熱量が12%小さい。

・バイオディーゼルは既存のディーゼルより高い酸価を有しており、これは燃料供給システム(特に燃料噴射器)が腐食しやすいことを意味する。

・曇点とは液体の混合物が冷却により固体化が始まり半透明になる温度であり、流動点とは燃料が流動しなくなる温度である。バイオディーゼルは曇点・流動点共に石油ディーゼルより高く、低気温下でエンジンシステムがダメージを受けやすい。

・酸化安定性とは、燃料の酸化や劣化への耐性の指標だが、バイオディーゼルは石油ディーゼルより酸化安定性が低い。

・バイオディーゼルの利点は以下の通りである。


1)再生可能性:植物や動物由来のため、化石燃料のように枯渇しない。

2)多様性:広範な種類の原料から生産可能。

3)簡易性:エンジンを改造せず使用可能。

4)低排出量:78%ものGHG排出を削減可能。

5)分解性および無毒性:ユーザーフレンドリー(分解が早い、硫黄を含まない、可燃性低く安全など)。

6)高い潤滑性:エンジンの経年劣化を抑える。

7)エネルギー収支:(生産・輸送時に化石燃料を使用するものの)エネルギー収支がプラス。

8)化石燃料への依存度:バイオディーゼルの使用により化石燃料依存度を低下させることができる。


一方で、バイオディーゼルの欠点は以下の通りである。


1)高い粘度および密度:密度が高いことはより多くのエネルギーを有することを意味し、燃料の噴射のパターンやタイミング、量に影響する。粘度が高いと噴射ポンプの動きが邪魔されてエンジン出力が低下する。

2)低いエネルギー量:石油ディーゼルと比べ、燃費が2~10%高い。

3)NOx排出量:石油ディーゼルと比べ、NOx排出量が約10%多い。

4)材料の相性:ホースやシールなど天然ゴムでできた材料の劣化を引き起こす。

5)低気温下での使用:低気温下では特別な対応が必要。

6)品質のばらつき:原料により多様な最終製品が存在する。

7)原料の取り合い:人類の食糧を使用するため、食糧危機を引き起こす可能性がある。

8)高コスト:現時点では石油ディーゼルよりコストが高い。


・バイオディーゼルは10%の酸素を含有しており、それが完全な燃焼を助け、有毒ガスの排出を削減すると言われている。一方でNOxは1500℃を超える高温下で発生するため、バイオディーゼル使用により排出量が増加する。

・多くの文献においてバイオディーゼルのCO2削減効果は認められているが、Öztürk(2015)はバイオディーゼルの含有量が少ない(5~10%)ブレンド油では排出量に差は出ないと主張した。

・1988年に北米の五大湖でプレジャーボートの燃料として大豆由来燃料の使用検討が行われたのがバイオディーゼル燃料研究の始まりである。

・2015年にバルチラが複数の船舶燃料サプライヤーと協業して最適なバイオ燃料の開発に着手したことで、バイオディーゼルの研究は大きく進歩した。

・米国では、エンジンメーカーはASTM D6751(欧州ではEN 14214)に合致する仕様のバイオディーゼルの使用に対しても保証を提供する。

・MANは、大型4ストローク中速エンジンにおいて100%バイオディーゼル燃料の使用の実績がある。

・バルチラの6L20エンジンは、様々な種類のバイオディーゼルを使用でき、エンジンのオペレーションを止めることなく燃料の切り替えが可能である。

・バイオ燃料は生物付着に弱く、特別な対応が必要である。バイオディーゼルの貯蔵タンクの材質は鋼・アルミニウム・繊維ガラス・テフロン・フッ素化ポリエチレン・フッ素化ポリプロピレンなどが望ましい。

・バイオディーゼルの貯蔵においては、酸素や光、金属、高湿度などとの接触を防ぐ工夫が必要である。

・近年では、非食用の生物由来のバイオディーゼルの研究が進んでいる。

・廃食油は野菜油より2~3倍コストが低い。

・既存のバイオディーゼルの品質基準であるASTM D6751やEN 4214は自動車エンジンのためのものであり、船舶用の国際基準は未だ存在しない。

3. 出典

MOHD NOOR, C. W., NOOR, M. M. & MAMAT, R. 2018. Biodiesel as alternative fuel for marine diesel engine applications: A review. Renewable and Sustainable Energy Reviews, 94, 127-142.

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