【論文メモ②】How to decarbonise international shipping: Options for fuels, technologies and policies (Balcombe et al., 2019)

1. 概要

2050年までにGHG排出を50%削減するという国際目標への道のりは不透明だが、有望な選択肢は多数存在する。本論文では、それぞれの選択肢の包括的な分析とそれらの組み合わせることによる国際海運の脱炭素化の可能性の研究を行う。

2. メモ

・燃料電池は騒音や振動がほとんど出ないことは、海洋生態系に音響的影響を与えている海運業界にとっては良い点である。

・主機がLNG燃料で、世界で初めて補助推進として燃料電池(水素もしくはメタノール)を使った商船であるViking Ladyは、SOxが100%、NOxが85%、CO2は20%削減されている。

・液体水素はHFOの8倍(圧力水素は30倍)の燃料タンクの容積が必要となる。

・貨物船は、液化ガスのばら積み運送のための船舶の構造及び設備に関する国際規則(IGCコード)に従わなければならないが、現状IGCコードは液体水素の輸送を認めていない。

・水素の予想小売原価は0.06~0.24 USD/kWh(平均:0.12 USD/kWh)とバラつきがあるが、これは原料の種類と変換工程の多さを反映している。

・一方で、MDOのコストは0.04 USD/kWhであるため、水素の導入には強い金銭的インセンティブが必要なことが分かる。

・大型船を動かす出力を満たす燃料電池の開発は現在の技術では非現実的である。

・原子力燃料は価格が安く安定的でGHG排出削減効果も非常に高く、また燃料補給をせず長い期間航行できる。

・原子力燃料は軍用の戦艦や潜水艦で広く使用されているが、商業的な使用には多くの障壁が存在するため(法律、トレーニング、最悪の事態への備え、テロや拡散防止など)、2050年までの導入の可能性は低い。

・風力推進は減速時(16 knots未満)や小型船(3,000~10,000トン)でより効果を発揮する。

・風力推進の燃費削減効果は様々な文献が測定している(シングル・フラットナー・ローター:2~24%、曳航凧(towing kite):1~32%、eConowind sails:1~25%)

・船上の太陽光発電によるCO2削減効果は0.2~12%と言われており、風力とのハイブリッドにより10~40%の燃費削減効果を発揮できる。

・通常、コンテナ船の速力は最大が23~25 knots(44 km/h)で、減速航行は22~22 knots(39 km/h)、超減速(extra slow)は17~19 knots(33 km/h)、超々減速(super slow)は15 knots(28 km/h)である。

・減速航行により往復の航行時間が10~20%増えるが、燃費やCO2排出は削減される。

・船速を10%落とすと、19%の排出削減が可能である。

・Cariou(2011)の測定では、減速航行により2008~2010年の間でコンテナ船からの排出が11%削減された。

・IMOの示唆によれば、減速航行により2007~2012年の間でコンテナ船、タンカー、バルクキャリアの燃費が30%削減された。

・減速航行は、市況低迷時の船腹過多を吸収する効果もある。2010年には減速航行により船腹過多の40%が吸収される。

・燃料コスト(温暖化対策により更なる値上げが懸念される)が節約できる点も減速航行するインセンティブとなり得る。

・一方で、減速航行は付着物や腐食が増えるというデメリットもある。一般的に船殻のでこぼこは年間40 μm増加し、1~1.2%の燃費悪化に繋がる。

・パワートレインでつくられたエネルギーの約半分が排熱として失われているが、排熱回収システム(WHRS)は排気や冷却剤を機械的・電気的に変換することができる。

・LNGはGHG排出削減効果がHFO比で10%と比較的小さいが、費用対効果やインフラを考慮すると最も現実的な短期的対策である。

・生物由来の燃料は70%以上の削減効果があるが、LNGとバイオ燃料技術を組み合わせること(バイオLNG)で90%もの削減効果が見込める(バイオLNGのサプライチェーンの環境的・社会的インパクトが小さいという前提)。

・燃費効率の向上により、5~30%の削減効果が実現可能。数ある対策の中で最もインパクトが大きいのは減速航行(最大60%)。

・風力・太陽光によるアシスト(最大32%)や船型の改善(最大24%)と組み合わせることで相当な削減効果がある。

・米国ワシントン州は、州の河川の改善を促進するために船舶燃料に環境燃料税を課した。

・ベンチマーキング方式は、業種・製品に係る望ましい標準の排出量を定め、それをもとに無償で配分する方式である。

・キャップ&トレード制度は、排出量の上限を決め、排出者が自らの排出枠を自由に取引する。高い取引コストがかかり、また途上国への経済的負担が大きい。

・ハンブルグ港は、排出量の基準を満たした船舶に対する入港税のディスカウントを期間限定で実施した。

・炭素税は理論上経済的・環境的な効率が高いものの、技術発展を妨げ、より高炭素の輸送手段(航空・陸運)への転換を促す可能性がある。

・競争の歪みを是正するためには、海上輸送への経済的手法(MBMs)が全世界的に導入される必要がある。

・ETSは、カーボンクレジットに対する借入が排出の削減ではなく単なる相殺になってしまうリスクがあるため、制度導入の際には借入の量や期間を制限する必要があるかもしれない。

・MBMsは短期的施策にはなり得ず、長期的施策として考えるべきと言う向きもある。

・LNGのGHG排出削減効果はHFO・MDO比で8~20%であり、単体で50%削減はできないため、減速運航や風力推進、バイオLNGなどの対策と組み合わせる必要がある。

・減速運航は燃費やCO2排出を20~30%(極端な例では最大60%)削減する。

3. 出典

BALCOMBE, P., BRIERLEY, J., LEWIS, C., SKATVEDT, L., SPEIRS, J., HAWKES, A. & STAFFELL, I. 2019. How to decarbonise international shipping: Options for fuels, technologies and policies. Energy Conversion and Management, 182, 72-88.

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