【論文メモ】Ports’ role in shipping decarbonisation: A common port incentive scheme for shipping greenhouse gas emissions reduction (Alamoush et al., 2022)

1. 概要

海運業界は脱炭素化を加速させる一方、GHG排出削減(特にインセンティブ・スキームを通したもの)における港湾の役割には疑問が呈されてきた。

従って、本論文は現在存在しているインセンティブ・スキームへの詳細な調査を行い、海運業界の脱炭素化を促進する為に港湾がどのようにインセンティブ・スキームを導入すれば良いのかを分析する。

2. メモ

・2018年に出されたIMOのGHG戦略は、短期(技術的・運用的対策(2018~2023年))、中期(経済的手法(MBMs)(2023年~2030年))、長期(代替燃料(2030年以降))と時系列に沿った対策を提示している。

・またIMOは2019年に各国の港湾に対し、海運業界のGHG排出削減に自主的に協力をすることを要請している。

・港湾は陸上電力供給システム(OPS)やVirtual Arrivalのアレンジ、自動係船システムなどの技術的・運用的な対策を講じている。

・規則の施行の遅れと脱炭素化にかかる高コストによって、インセンティブ・スキームが新たな道として注目されている。

・先行研究によれば、技術的・運用的な対策により海運業界のGHG排出は40~70%は削減が可能だと推測される。

・船舶のGHG排出の15%は停止している(=港湾の係留地及び岸壁)状態で発生しているという研究もある。

・2017年にカリフォルニアの港湾は寄港した船舶に対しOPSへの接続を義務付ける規制を施行した。

・ロングビーチ港は、同港到着前に船舶を減速させる協定に署名した。

・各種の対策は海運業界をエコ・フレンドリーな方向へ導くものの、港湾の競争力低下を招かないようケース・バイ・ケースで慎重に実行されるべきである。

・MEPC 75で承認されたMARPOL Annex IV Chapter 4の改正案には、短期的なGHG排出削減目標の達成の為の方策として、EEDI Phase 3の早期施行とゴール・ベース・アプローチが含まれている。

・ゴール・ベース・アプローチは、EEXIに基づく技術的対策と燃費実績格付け制度(CII)に基づく運用的対策の組み合わせを指している。

・EU指令やアメリカのカリフォルニア州大気資源委員会(CARB)の規制など、様々な政府あるいは政府間の規制に関する枠組みが存在し、海運業界のGHG排出削減の為のアクションに影響を及ぼしている。

・港湾において最も一般的な対策は経済的手法(手数料及びインセンティブ)であり、世界の港湾が取り入れている海運の排出削減手法の48%を占めている。

・インセンティブ・スキームは業界主導型と政府主導型の2つに分類することができる。

・業界主導型の例として、Environmental Ship Index(ESI)、Green Award(GA)、Clean Shipping Index(CSI)、GHG Emissions Rating(GHG ER)などが存在する。

・欧州港湾協会(ESPO)によれば、EUの港の56%がインセンティブ・スキームを導入しており、その内34%がGHG排出削減に貢献している。

・2017年には、貨物取扱量トップ100の内、28の港湾がインセンティブ・スキームを導入した。一方で、インセンティブを享受する資格を持った船舶の数は依然少ない。

・港湾で採用されているインセンティブ・スキームの多くはCO2ではなくSOxやNOxの排出削減に重きを置いている。

・政府主導型のスキームは各国の政府や港湾当局により設計される為、船舶は限られたインセンティブ享受の為に様々な種類の申請フォーマットを準備しなければならない。

・一方で、業界主導型のスキームは手続きの煩雑さや登録の為のコストが港湾と船舶の両サイドにとって負担であると批判されている。

・どういったスキームが適しているかは、港湾の地理的位置、排出量、組織構造、規制の枠組み、寄港する船舶の種類などにより異なる。

・例えば、コンテナ船は不定期船より頻繁に寄港するが、それにより多くのインセンティブを享受してしまうと不公平が生じるかもしれない。

・インセンティブの金額が船舶をエコ・フレンドリーなものにする追加費用をカバーしているかどうかの検証が重要である。

・一般的に、港費は航海費の10%に過ぎず、入港税は港費の10%に過ぎない。一方で入港税は欧州の港湾の収益のほぼ半分を占めている。

・港湾当局によるインセンティブは、入港税だけでなく、水先案内、けん引、係船などの他の費用の割引も行われるべきである。

・また、費用の割引だけでなくブッキングやドックの優先順位などの他のインセンティブとの組み合わせも可能である。

・現在のインセンティブの効果(どのくらいGHG排出が削減されたのか、船舶にかかる追加費用、インセンティブ導入の際に港湾にかかる費用、何隻の船舶がインセンティブ・スキームを利用しているのか、など)については公的な情報がない為、殆ど知られていない。

・インセンティブ・スキーム導入の為の資金については、様々な調達方法が存在する。

・資金提供者を募るにはしっかりしたガバナンス、統一された基準、適切な監査、GHG削減のデータが必要である。

・発展途上国は機関や政策、資金が不足している為、IMOやEUのサポートが必要となるであろう。

・EEXIやCIIといったIMOの規制は各国の内航船や漁船には適用されていない一方、それらの船舶によるGHG排出は世界全体の排出量の約0.9%(国際海運のほぼ三分の一)を占めている。

・港湾のインセンティブ・スキームを設計する際には、船主、オペレーター、港湾当局、荷主、自治体、当該国の政府など様々なステークホルダーを意思決定プロセスに組み込むことが大切である。

3. 出典

ALAMOUSH, A. S., ÖLÇER, A. I. & BALLINI, F. 2022. Ports’ role in shipping decarbonisation: A common port incentive scheme for shipping greenhouse gas emissions reduction. Cleaner Logistics and Supply Chain, 3, 100021.

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2772390921000214

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