【論文メモ】Corporate Governance and the Environmental Politics of Shipping (Alger et al., 2021)

1. 概要

世界の海運業界、特にコンテナ船セクターにおいては、少数の企業がマーケットを支配している。世界最大のコンテナ船社のマースクは、その影響力を利用し業界全体の環境基準の向上を後押ししている。それは環境問題の改善を促進する一方で、ただでさえ低い利益率に苦しむ中小の海運会社のコストを上昇させ、寡占状態を強化している。

2. メモ

・Strange(1976)は、海運業界は国際機関によるコントロールが難しく、結果としてどんどん非効率・不平等・不安定になっていくと述べた。

・環境に優しい海運業界を目指す政治的な努力は、国際的な自助的条約やガイドライン、各国政府により掲げられる一方的なターゲット、港湾のルールやインセンティブなどを生み出し、それらには一貫性がない。

・また、各企業はCSR(Corporate Social Responsibility)の名の下に自主規定的になっている。

・環境政治学の学者たちは、国際貿易の主な手段たる海運業界の国際経済におけるユニークな位置づけに関わらず、業界を放置してきた。

・マースクは、環境規制を嫌がるのではなく、マーケットを支配するための戦略として利用している。

・2019年に、TOP5のコンテナ船社が全世界のコンテナ輸送の67%を担うようになった。

・サプライチェーンは国際経済の発展を支えている一方で、巨大海運企業は社会的、政治的、またはマーケットでの力を利用して利益を手にし、国際間の格差は広がっている。

・大型船は最適化が進んでおり、新型の19,000TEU積みコンテナ船は従来の14,000~16,000TEU積みのものよりも燃費が良い。

・1970年以降の業界の統合および海運のガバナンスの自由度は、大手海運会社が環境ガバナンスに多大な影響力を持たせることとなった。

・コンテナ業界のSOx規制対応のためのコストは50~300億米ドルと言われている。

・厳しい環境規制に対し、大手海運会社は傍観するのではなく、自主規制を通してより良い環境ガバナンス実現のためにイニシアチブを取っている。

・大手コンテナ船社は、業界全体のためのベンチマークをつくることで政府主体の規制に影響を与え、彼らの自治権を強化している。自らが主導することで、政府主体の規制により生じるコストを抑えることができる。

・業界のリーダーが主導したCSRプログラム(Right Ship、Clean Cargo、Green Award、Green Ship of the Future、Environmental Ship Index、Clean Shipping Indexなど)は、船舶の環境パフォーマンスを測るベンチマークとなった。

・2012年、香港港は硫黄含有率が0.5%未満の燃料を使用する船舶の港湾料金を半額にした。

・大半の海運会社がメンテナンスの向上や減速運航などの対策を講じる中、大手の業界のリーダー達は新しい基本船型の開発を進めている。

・マースクなどの大手は、業界の状況や彼らのマーケットでの優位性を利用して環境ガバナンスの方向性やスコープを支配し、同時に競争力の向上を高めている。

・国際海運は世界のGHG排出の3%を占めているが、EUは、仮に何も規制が行われなければこの割合は2050年までに17%に上昇すると予測している。

3. 出典

ALGER, J., LISTER, J. & DAUVERGNE, P. 2021. Corporate Governance and the Environmental Politics of Shipping. Global Governance: A Review of Multilateralism and International Organizations, 27, 144-166.

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