【論文メモ】Assessment of full life-cycle air emissions of alternative shipping fuels (Gilbert, 2018)

1. 概要

海運業界においては、局地的な汚染物質の削減、並びに温室効果ガス(GHG)削減による気候変動の抑制という2つのモチベーションにより、代替燃料の需要が発生している。

本論文では既存燃料としてLSHFO及びMDO、代替燃料としてLNG、LH2、メタノール、バイオ燃料(大豆・セイヨウアブラナ)及びバイオLNGを取り上げ、ライフ・サイクル・アセスメント(生産から回収再利用までの過程で環境に対する影響度を評価する手法)を行う。

検出する排出物質は、NOx、SOx、PM、CO2、CH4、N2Oの計6種類となっている。

2. メモ

・EEDI及びSEEMP規制では海上荷動きの増加によるGHG排出量増加に対応できていない。

・燃料はそのライフ・サイクルの様々な過程(例:精製、輸送、栽培など)で排出を引き起こしていると考えられる。

・LNGは既存燃料と比べCO2の排出量は減るが、GHG排出量全体(CO2e)の数値ではほぼ同等である。これはメタンスリップ(LNG燃焼時に未燃のまま排気されるメタン)によるところが大きい。

・従って、メタンスリップを削減する方法がなければ、LNGのGHG排出削減効果は非常に限定的であると言える。

・一方でバイオLNGは大幅な削減効果の可能性がある。既存燃料比で40-41%のGHG排出量であった。しかし、原料が極めて限定的であることに加え、上流工程及び航行中におけるメタン排出には同様に注視が必要である。

・今回検証した燃料の中ではLH2(CCSを行わない前提)が最もGHGの排出が多かった。CCSを行う前提であっても既存燃料(LSHFO、MDO)とほぼ同等の排出量であった。

・LH2は航行中はCO2を一切排出しないが、上流工程での排出量が非常に多かった。一方で、発電方法が炭素集約型から再エネ由来に切り替われば大幅なCO2削減が可能となることが示された。

・既存燃料比で、メタノールはGHG排出量が12-15%多かった。

・従って、メタノールは、代替燃料としてのポテンシャルは非常に低い。但しバイオマス由来のものであれば排出量は削減可能であると考えられる。

・再エネ由来のLH2を除けば、バイオ燃料が最もCO2削減効果が見込まれる。

・既存燃料比で、バイオ燃料は57-59%の排出量であった。

・バイオ燃料のGHG排出の主な原因は土地利用変化によるものである。土地利用変化を考慮すると、排出削減効果は大幅に減少する。

・土地利用変化は不確実な要素が大きく、また原料の製造方法に大きく依存する。

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・SOx排出量はLSHFOが他の燃料と比べて33%以上も多かった。

・SOx規制は航行時の排出のみに適用され、上流工程での排出を考慮していない。

・NOx排出量については、既存燃料(15-17 g/kWh)及びバイオ燃料(18-19 g/kWh)と、LNG(1-2 g/kWh)、水素(1g /kWh)及びメタノール(3 g/kWh)との間で明確な差が見られた。

・PM排出量はLSHFO(0.78 g/kWh)が最も多かった。

・LSHFO比で、MDOが23%、LH2(水蒸気改質メタン由来)が18%、LH2(再エネ由来)が78%、生物由来が41-45%、LNGが4%のPM排出量であった。

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・本論文にて浮き彫りとなった課題については、海運業界と直接関係しないものも存在する。

・海運業界の中長期的な持続性を担保するには、業界の垣根を超えた、また政策側を巻き込んだアクションが必要とされる。

3. 出典

GILBERT, P. 2018. Assessment of full life-cycle air emissions of alternative shipping fuels. Journal of cleaner production., 172, 855.

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