【論文メモ①】How to decarbonise international shipping: Options for fuels, technologies and policies (Balcombe et al., 2019)

1. 概要

2050年までにGHG排出を50%削減するという国際目標への道のりは不透明だが、有望な選択肢は多数存在する。本論文では、それぞれの選択肢の包括的な分析とそれらの組み合わせることによる国際海運の脱炭素化の可能性の研究を行う。

2. メモ

・海上輸送はトンマイル当たりのCO2排出量は他の輸送手段より少ないが、絶対量では環境へのインパクトは大きく、もし海運業界を一つの国と仮定すると、世界で6番目のCO2排出国となる。

・世界最大のコンテナ船社であるマースクは、2050年までにネットゼロを達成するため、2030年までにカーボンニュートラルの船舶を商業化すると宣言した。

・海運業界は、1920年代に石炭からディーゼル、1950年代にディーゼルからHFOという燃料のパラダイムシフトを経験している。

・Bouman et al.(2017)は、多くの排出削減に関する文献は燃費効率や船型、燃料の転換に関連したものであると総括した。

・GHG排出量が多い船型はコンテナ船、バルクキャリア、タンカーである。これらの船型は航行距離が長いためである。

・国際海運の2015年の燃料消費量(約3億トン)の内、72%が残渣燃料(HFOなど)、26%が留出燃料(MDOなど)、2%がLNGであった。

・2009年にガーディアンは、世界で最も巨大な15隻の船舶が、全世界の自動車(7億6,000万台)よりも深刻な硫黄汚染を引き起こしていると報じた。

・IMOの規則は加盟国の過半数に批准されなければならないが、便宜置籍船により手続きが複雑化している。

・天然ガスは氷点下162℃で液化し、容積が1/600となり貯蔵や輸送が可能となる。

・LNGは、LNG船の燃料として40年以上使用されている。

・天然ガスは化石燃料と比べて水素炭素比が高く、燃焼の際のCO2排出が20~30%少ない。しかし、メタンの排出によりCO2の削減効果が無効となる。

・メタンはCO2の36倍の地球温暖化係数を持つ。LNGエンジンは消費量の2~5%のメタンスリップを排出する(高圧2ストロークDFエンジンであれば排出はかなり抑えられる)。

・LNGは硫黄を含まないので、SOx排出は理論的にゼロとなる。PMもほとんど排出しない。NOx排出量は、低圧エンジンであれば従来の燃料よりもかなり少なくなるが、燃焼温度による(燃焼温度が低ければNOx排出を抑えられるが、メタンスリップが増加する)。

・現在の燃費性能(LNG:6.2 kWh/kg、HFO:5.0 kWh/kg、MDO:5.4 kWh/kg、メタノール:2.5 kWh/kg)を前提とした燃料コストは以下の通り。

・基本的にLNGはHFOより安い一方、MDOはHFOより5割以上高い。

・しかし、船舶燃料としてのLNG価格は、天然ガスの動向やインフラ構築コストに左右されるため未だ不透明である(ガス価格のインデックス+$50~630/tonと見込まれている)。

・MGOエンジンに改造するコストは比較的小さいが、LNGエンジンへの改造コストは20~25%高い。

・LNGは従来の燃料タンクの約2倍の容量を必要とするため、レトロフィットではなく新造船プロジェクトに採用されることが好ましい。

・ECAでの航行時間が全体の5%未満の場合は、LNG燃料に切り替えるインセンティブがほとんどない。

・一般的にバイオ燃料(バイオLNG、バイオメタノール、バイオ液化燃料)は低排出である一方で、従来のメタノール燃料は排出量が最も高い。

・バイオ燃料は大幅なGHG排出削減が可能であり、且つ既存エンジンの改造がほとんど必要ない。加えて、生物分解可能であることも化石燃料と比べて優位な点である。

・最も実用的で進歩したバイオ燃料はフィッシャー・トロプシュ・ディーゼル、熱分解油、LCエタノール、バイオメタノール、ジメチルエーテル、バイオLNGである。

・2016年のIEAの予測では、FAME:1,040 USD/ton、HVO:542 USD/tonで、化石燃料の約2倍の価格となっている(MDO:482 USD/ton、HFO:290 USD/ton)。

・進歩的でGHG排出量の少ないバイオ燃料の方がコストが高い。

・2018年時点で7隻のメタノール燃料船が運航中で、4隻の発注残がある。

・世界最初のメタノール燃料船(Stena Germanica)は、SOxを99%、NOxを60%、PMを95%、CO2を25%削減しているとされる。

・メタノールは多くの原料により生産される。バイオマス原料の場合、排出されるCO2は有機的でありディスカウントされる。

・天然ガス由来のメタノールは有毒ガスの排出量は少ないが、ライフ・サイクル全体でのGHG排出量はHFOやMDOより10%多い。

3. 出典

BALCOMBE, P., BRIERLEY, J., LEWIS, C., SKATVEDT, L., SPEIRS, J., HAWKES, A. & STAFFELL, I. 2019. How to decarbonise international shipping: Options for fuels, technologies and policies. Energy Conversion and Management, 182, 72-88.

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