【論文メモ】A Literature Survey on Market-Based Measures for the Decarbonization of Shipping (Lagouvardou et al., 2020)

1. 概要

本論文では、船からのGHG排出削減のための費用対効果の高い対策として、IMOの加盟国や機関から提案された様々な経済的手法(Market-Based Measures, MBMs)についての最新の文献のレビューを行っている。

2. メモ

・伝統的に、GHG排出削減の手法としては「命令・管理」とMBMsの二種類が存在する。

・"Goal-based"と呼ばれる手法は、排出削減目標が示されるだけで具体的な削減方法は各船主に委ねられるのが特徴で「命令・管理」手法に分類される。

・一方で、MBMsとは、価格もしくはその他の経済的変数を使って排出者に金銭的インセンティブを与えるという、より柔軟性の高い手法である。

・MBMsの例としては、環境税、助成金の付与、様々なオフセット制度、排出権取引(Emission Trading Systems, ETS)などが挙げられる。

・排出にかかるコストを低減もしくは補填するための「コストの組み込み」というアイデアが最初にIMOで提起されたのは1995年である。

・IMOにおいて、GHG排出削減のためのMBMsの将来的な利用についてのアセスメントが最初に行われたのは2000年だが、2010年まで本格的な議論は行われなかった。そして、最終的に議論は2013年に中断した。

・その一方で、2011年にEEDIの適用が新造船に、SEEMPの適用が400総トン以上の全ての船舶に義務付けられた。

・2013年にはEUが、同地域に寄港する500総トン以上の全ての船舶に実燃費データ報告(Monitoring, Reporting, and Verification/MRV)を義務付けた。

・DNV GL(2019)によれば、世界の貿易は2050年までに39%成長すると予測されている。また、仮に船の燃費や航海の効率が劇的に向上したとしても、同年までに2008年比で27%しかCO2が削減できことが示されている。

・従って、カーボンニュートラル燃料が既存燃料と比べて競争力のある価格にならない限り、現在の規則で2050年の目標を達成することは不可能とされる。

・Shi et al.(2018)は、EEDIとSEEMPの義務化のみだと、国際貿易の成長を考慮すればGHGの排出量は将来的にむしろ増加すると予測した。

・MBMsは、燃料価格が高ければオペレーターは減速運航を行うという仮説を前提としているが、Lindstad et al.(2011)のデータは船速と燃料価格の相関関係はより複雑で、その影響は過大評価されていることを示唆している。

・2020年にICSおよびBIMCOより提出された案は、購入した燃料の数量に応じてファンドへの支払いを義務付けるものであった。2030年代前半までに収入は50億米ドルになると予測され、その資金はゼロエミッション船の開発や研究に充てることを企図している。

・また、年間の燃料消費が2億5千万トンと仮定すると、ファンドへの支払いはトン当たり2米ドルになるとされている。

・法的観点では、EU発着の全ての航海のGHG排出を制限するスキームは国際法に沿っていないという懸念がある。

・Devanney(2010)の研究によれば、USD 465/トンのHFOに対しUSD 50/トンのバンカー課税を行った場合、VLCC換算で6%の排出削減が可能である。

・Balcombe(2019)は、Maritime Emission Trading System(METS)の導入は、排出枠の取引、管理、検証のコストが急増するとしている。

・Zis and Psaraftis(2019)は、燃料価格が高くなり、(船会社が)航海速度を落とし港湾での係留時間を短縮すれば、節約された燃料代の方が収入のロスを上回るため、新技術への投資には長い期間を要すると結論付けた。

・Chai et al.(2019)は、各船で燃費のバラつきがあるため排出枠の設定が複雑な上、METSとバンカー課税により生み出される資金は同等額となるため、バンカー課税の方がより効果的な方法だと結論付けた。

・Psaraftis and Lagouvardou(2020)は、これまでの導入実績から、ETSは排出証明書の過剰供給により炭素価格の軟化を招き、一方で課税の場合は炭素価格は安定すると主張した。

・Tanaka et al.(2019)の研究は課税と助成金の掛け合わせが最適な政策であることを示した。

・Miola et al.(2011)は、例えば欧州など地域ごとの政策は、排出枠の割り当てやカーボンリーケージ、船型・サイズ・燃費の多様性、予想不能な取引コストなどの課題に直面すると述べた。

・Wang et al.(2015)は、地域ごとの政策は競争の歪みを招くと述べた。例えば、EUでの支払いを避けるために、ドバイでの積み替えを行う船が増えるなどの現象が起きるだろうと予測した。

・Koesler et al.(2015)の研究は、EU ETSの海運業界への導入は、EU海域への負担を過度に増やし、規則に適用した船舶の利益を損なうと示した。

・BHPのレポート(2019)によれば、ETSよりもバンカー課税の方がより体系的で透明性のある制度である。

・IMFのレポート(2018)によれば、2030年にCO2トン当たり75米ドルの課税から初めて、2040年に150米ドルまで上げれば、2030年までに15%、2040年までに25%の排出削減ができる。

・WBGのレポート(2019)によれば、炭素価格が燃料に適用された場合(USD 10-50/ton of CO2)、輸送コストは0.4%から16%上昇する。しかし、輸入品の価格上昇は1%未満にしかならないと予測される。

・New Climate Instituteのレポート(2019)は、METSを導入すれば、6つの大手船会社が50%のシェアを持っているため、取引コストに大きな影響を及ぼし、市場操作に繋がる可能性を指摘している。 

・UMASのレポート(2016)は、既存燃料での超減速運航の方がバイオ燃料や水素などの代替燃料よりも好ましいことを示している。激しい価格変動がむしろ排出量の増加を招く可能性もあるため、オフセット制度が全て解決すると考えるのは危険であると述べた。

・Abbasov(2020)の研究は、コンテナ船オペレーターのMSCが2018年に1,100万トンのCO2を排出し、EU内で10番目の排出者になったと明らかにした。また、EU ETSが海運業界に導入されれば、同社はEUで8番目の排出者になる。

・COVID-19による予期せぬ燃料価格の下落は航海速度の上昇を招き、GHG排出削減の重しとなっている。大型コンテナ船はアフリカ大陸を回った方がスエズ運河を通るより公開コストが安くなっている。

3. 出典

LAGOUVARDOU, S., PSARAFTIS, H. N. & ZIS, T. 2020. A Literature Survey on Market-Based Measures for the Decarbonization of Shipping. Sustainability, 12, 3953.

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