研究者が注目する世界の環境系プロジェクト

森・里・海のつながりを総合的に研究する「RE:CONNECT(リコネクト)」は、日本財団と京都大学が共同で行うプロジェクトです。本プロジェクトのクリエイティブ部門を担当するコンサルティングファーム、Nue incからお題をいただき、研究者が記事を執筆する本企画も、はやくも4回目となりました。第4弾では、RE:CONNECTの研究者が注目している環境系プロジェクトを紹介いたします。情報収集などに役立てていただけましたら幸いです。

環境保全の試みとして僕が注目しているのは人工知能。日本財団-京都大学共同事業RE:CONNECTでも人工知能を活用したシチズンサイエンスを進めているわけだけど、もちろんこれ以外にも環境保全のために役立つことはたくさんある。今回は、僕が担当しているもう一つのプロジェクト、Deep Forestをご紹介しよう。

森林生態学をやっていて特に感じるのは、調査がたいへんだってこと。生物学のなかでも特に生態学の調査はたいへんだ。生物が生息しているフィールドに出かけて行って、自然のままの彼らの生きざまを調べなければならない。室内で実験を行うタイプの生物学にも相応の苦労は付きまとうのだが、生態学のたいへんさは独特である。そして、森林という場所の調査は特にきつい。日本のような国では、平地はあらかた都市や農地になっている。森林が残っているのは、都市や農地に向かない傾斜地だ。歩道や階段のない山のなかでの調査はきついし危険だし、蚊に刺されたり泥だらけになったりする。そんな場所に行って調査をする困難を、年齢を重ねるにしたがって強く感じている。

森林での調査が必要な仕事は、生態学者以外にもある。たとえば林業だ。山で木を育てて、手入れして、伐採して出荷してお金を稼ぐのが林業だが、どこにどのような木が何本生えているか、この基礎的な情報がなければ計画性を持った経営をすることはできない。しかし、森の樹木を調べることには、生態学者のような苦労がつきまとう。結果として、山の持ち主自身も、自分の山にどんな木が何本生えているのか把握できてなかったりする。それゆえに、効率的・効果的な経営というのがむずかしいのである。

Deep Forestという事業は、ドローン観測と人工知能で、このような森林の観測を革命しようというプロジェクトである。ドローン観測は、慣れてしまえばとても簡単だ。現地に行って見晴らしのいい場所でボタンを何回か押すだけで、ドローンは対象地の上空を自動飛行し、自動撮影してきてくれる。そして人工知能を使えば、森林の樹種・本数・サイズなどの情報を自動的に推定することが可能だ。これにより、従来より圧倒的なコスパで森林の調査が可能になるのである。

森林調査の目的は、林業だけではない。ただ木を伐って売るだけじゃなくて、どこにどんな木が生えているか調べる技術は、希少種の調査や生物多様性の保全に役立てることができる。さらには、森林全体に蓄積されている炭素の量を推定することも可能だ。これまでは、森林の価値といえば樹木を伐採して売った売上だけが注目されてきたが、これからは、樹木を伐採せずに残すことの価値が評価されるようになるだろう。世界じゅうで仕組みが運用され始めている炭素排出権の取引などがよい例だ。熱帯雨林などの森林を伐採しないことで地球温暖化を食い止めることができる。そのためにも、Deep Forestの技術で森の調査を行うことが環境保全に役立つと考えている。このプロジェクトの進捗についても、またぼちぼち共有していきます。

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