サザエさんにおける同時代性

サザエさんはそもそも、新聞に掲載される四コマ漫画であった。だから、我々一般市民の生活やニュースを題材としたリアルタイム時事漫画としての側面が色濃かったのである。ところが令和の現在、サザエさんは古き良き昭和の香りを持つ「近過去」的な時代アニメとして認知されている。このような変化はどこで起こったのだろうか。

昭和47年生まれの筆者が小学校高学年のころ、家のテレビを買い替えた。それは東芝のテレビであった。そのころ、アニメのサザエさん一家もテレビを買い替えたようだ。東芝といえばそのころサザエさんのアニメに一社提供をしていた縁があり、サザエさん一家の居間のテレビは、我が家の居間のテレビとそっくりの機種であった。それは当時の最新機種だったのである。このことから、昭和50年代後半まではサザエさんは同時代性を持つ現代劇だったこと、ささやかながらスポンサーの販促すら兼ねていたことが推察できる。

テレビはわりと長寿命な家電である。我が家でもそのテレビ、10年以上も使っていた。家庭によっては20年以上も使う場合もあっただろう。しかし、テレビの地デジ化は大きなインパクトを持っていた。アナログテレビが映らなくなるんだから、各家庭はほとんど強制的に買い替えを迫られることになる。いや、どうしてもブラウン管のアナログテレビを使い続けたいと思うならデジタルチューナーをつなぐという手もあるのだが、そこまでするならテレビ本体を買い替える人が大半であったろう。

しかしサザエさん一家のテレビは、地デジ化以降も買い換えられることはなかった。これがサザエさんのアニメが同時代性を決定的に喪失し、昭和のなつかしい文化を伝えるアニメに変容したタイミングなのかもしれない。まさかサザエさん一家がアナログテレビにデジタルチューナーをつないでいるわけではあるまい。

しかし例外的に、放送回によっては、サザエさんに携帯電話やデジカメなど平成以降の電子機器が登場することがあるらしい。これは、現代劇であったむかしのサザエさんの残り香であると言えなくもない。しかし携帯電話が常用される世界になってしまうと、傘を持って駅に迎えに行ったけどすれ違って・・・、みたいなエピソードが全滅することになってしまう。苦渋の結果、基本的にサザエさんは近過去を扱う時代アニメということで落ち着いたと言えるのではないだろうか。

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