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位相と論理と私6:ブール環(pp.11-13)

前回はブール代数を学びましたが,今回はブール環をやります.この2つの概念って異なるものだったのですね(?)

ブール代数とは何だったか

順序集合において任意の有限集合にjoinとmeet(最小上界と最大下界)が存在するとき,その順序集合をといいました.

束が分配律$${a\land (b\lor c)=(a\land b)\lor (a\land c)}$$を満たすとき,その束のことを分配束といいました.

そしてすべての元が補元をもつ分配束をブール代数といいました.$${a}$$の補元とは$${a\land x=0, a\lor x=1}$$を満たすような元$${x}$$です.

以上がブール代数の定義でした.

ブール環とは何ですか

一方,ブール環というものもあって,上で見たブール代数と「ブール」の部分は共通ですが,「環」と「代数」の部分が異なります.ブール環とブール代数について,私はこれまで意識していませんでしたが(というかちゃんと定義を知りませんでしたが),異なる概念なのですね?

ブール環の定義は以下です:
すべての元$${a}$$が$${a^2=a}$$を満たす環をブール環という.(☆)
(ただし環は1をもつとする)

ここで環という用語をことわりなしに使用していますが,詳しい説明は省略して,足し算・引き算・掛け算ができる集合,とだけ言っておきます.割り算はできなくてもいいです.例として,整数$${\Z}$$があります.$${\mathbb{Q}, \R, \mathbb{C}}$$(有理数,実数,複素数)も環ですが0以外で割り算ができるので特殊です.$${\N}$$は環ではありません.引き算ができない場合があるので.

ということで,ブール代数とブール環はその出自が異なるので違う概念のように思われます.ブール代数は順序集合にいろいろ条件が付加されたもの,ブール環は足し算などの演算がある集合です.前者は大小関係から定められたもの,後者は演算で定められたもの,ということで性質が異なる気がします.

そういう意味では異なる概念ですが,実は見方が異なるだけで本質的には同じものと捉えることもできるようです.次にそのことを説明します.

ブール代数とブール環は同一視できる

二つの概念が同一視できることを示していきます.道筋としては,

  1. ブール代数に足し算と掛け算を定めてブール環となることを示す.

  2. ブール環にjoinとmeetを定めてブール代数となることを示す.

  3. 上記の2で定めたブール代数に1と同じ方法で演算を定めると,もとのブール環が得られることを示す.

ダイアグラムで示すと以下のようになります.

ブール代数とブール環の同一視

1. ブール代数に演算をいれる

ブール代数$${(B,\lor,\land,0,1)}$$において,

$${a+b:=(a\land \lnot b)\lor (b\land \lnot a)}$$

$${a\cdot b:=a\land b}$$

によって和と積を定義することでなんとブール代数からブール環を定めることができます.+の方は対象差というそうです.論理回路でいうところの排他的論理和XORです.・の方はmeetをそのまま流用でよいということ.

これでブール環になっていることを確かめるために示すべきことは以下の1〜4です.

  1. $${(B,+,0)}$$が加法群であること

  2. ・が積の条件を満たすこと

  3. +と・が分配律を満たすこと

  4.  $${a^2=a}$$(上記の☆)

たくさん示すべきことがあって大変ですが,2と4は簡単です.$${(a\land b)\land c=a\land (b\land c)}$$は半束の性質として既に示していました.また$${1\land a=a}$$などは自明です.よって2はOK.$${a\land a=a}$$も自明なので4もOK.

1について考えてみます.+が加法群の条件を満たすことを見るために,まず結合律を満たすのかを見ます.すなわち$${(a+b)+c=a+(b+c)}$$であることです.+の定義にしたがって見ていきます.

$$
(a+b)+c\\
=((a+b)\land\lnot c)\lor(c\land\lnot(a+b))\\
=(((a\land\lnot b)\lor(b\land\lnot a))\land\lnot c)\lor(c\land\lnot(a+b))\\
=((a\land\lnot b\land\lnot c)\lor(b\land\lnot a\land\lnot c))\lor(c\land\lnot(a+b))
$$

ここで$${\lnot(a+b)=(a\land b)\lor(\lnot a\land\lnot b)}$$であることが直感でも直接計算でもわかります.$${a}$$と$${b}$$に$${\lnot}$$を付けたり付けなかったりして$${\land}$$で結ぶやり方は4通りありますが,片側だけに付けるものは対称差$${a+b}$$に用い,両方に付けるor両方に付けないは$${\lnot(a+b)}$$に入るわけです.補元の定義が何だったかを思い出すとこうなることは納得できると思います.または+の定義に素直にしたがって直接計算でも示せます.よって上の計算の続きをやって,

$$
(a+b)+c=((a\land\lnot b\land\lnot c)\lor(b\land\lnot a\land\lnot c))\lor(c\land((a\land b)\lor(\lnot a\land\lnot b)))\\
=(a\land\lnot b\land\lnot c)\lor(b\land\lnot a\land\lnot c)\lor(c\land a\land b)\lor(c\land\lnot a\land\lnot b)
$$

となります.そして$${a+(b+c)}$$も同様に計算すると同じ結果になることがわかります.これで結合律を満たすことが示せました.

加法群であることを示すために,あとは零元の存在と逆元の存在を言えばいいのですが,$${a+0=0+a=a, a+a=0}$$は簡単に示せるのでこれでOKです.これで1の加法群であることは示せました.

そして3の分配律ですが,これも定義にしたがって計算すれば示せるタイプのものです.ここでは省略します.

以上で,ブール代数からブール環を定められることが示せました.

2. ブール環にjoinとmeetをいれる

さて今度は,最初にブール環があったとして,そこへjoinとmeetをいれてみたいと思います.

$${a\land b:=a\cdot b}$$

$${a\lor b:=a+b+a\land b}$$

joinの定義にmeetを使うのでmeetを先に書きました.これらがちゃんとjoinとmeetになっていることを確かめないといけません.

meetの方だけ示します.確認すべきことは以下です.

  1. $${a\cdot b}$$は$${\{a,b\}}$$の下界である.

  2. $${\{a,b\}}$$の任意の下界$${c}$$に対して$${c\le a\cdot b}$$となる.

(要は最大下界であることを示すということ)

1について.以前,半束について説明した際,$${x\le y\iff x\land y=x}$$であることを書きました.


よって$${ab\le a}$$であることを見るために$${(ab)a=ab}$$を示せばよいです(積のドットを省略しました).これはブール環が積について可換であり,かつ冪等性があることより$${(ab)a=a^2b=ab}$$とすればOKです(ブール環が積について可換であることは言ってませんでしたが頑張れば示せます).

2について.$${c(ab)=c}$$を示せばよいです.

$${c(ab)=(ca)b=cb=c}$$です.ここで$${c}$$が$${\{a,b\}}$$の下界であることを2回使っています.

以上でmeetであることが示せました.

joinの方も同様です.

よってブール環にjoinとmeetをいれることができました.これで束であることは示せたのですが,分配束を示すこともでき,補元の存在もいえるので,実はこれでブール代数になっているのです.なお$${\lnot a=1+a}$$です.

これでブール環からブール代数を定めることができました.

3. ブール環にjoinとmeetをいれてブール代数を作り,そこへ対称差をいれたら,もとのブール環の和はどうなっているか

これを見ます.

ブール環$${(B,+,\cdot,0,1)}$$があるとします.$${a\land b:=a\cdot b}$$と$${a\lor b:=a+b+a\land b}$$によってjoinとmeetをいれます.

さらに,対称差$${a\oplus b=(a\land \lnot b)\lor(b\land\lnot a)}$$を定めます.現時点ではブール環$${B}$$の和+と,この対称差は同じかわからないので,違う記号$${\oplus}$$を使っています.

定義にしたがって対称差を書き直してみます.(以下ではブール環で$${a+a=0}$$が成り立つことを使っています.このことは頑張れば示せます.)

$$
a\oplus b\\
=(a\land \lnot b)\lor(b\land\lnot a)\\
=(a(1+b))\lor(b(1+a))\\
=(a+ab)\lor(b+ab)\\
=(a+ab)+(b+ab)+(a+ab)(b+ab)\\
=a+b+ab+a(ab)+(ab)b+(ab)(ab)\quad\\
=a+b+ab+ab+ab+ab\\
=a+b
$$

これで対称差がもとの和と同じものであることが示せました.

まとめ

ブール代数の定義を復習しました.ブール環の定義を学びました.定義の仕方は異なりますが,本質的には同じものであることを見ました.

次回は環論で登場するイデアルという概念が,順序集合上にも拡張できることを見たいと思います.

(つづく)

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