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「ボクの穴、彼の穴」初日

9月17日、東京芸術劇場。

表現を求めにたくさんの人が集まる静かなパワーに溢れた場所。
広々と開放的な1階、少しレトロな椅子の具合がとても心地よい地下。秩序が保たれ凛としていて、でもこれから始まるものへの期待をみんなが持っている。


氷魚くんと佐助さんの舞台。
7月15日に発表されてから2ヵ月、大きな悲しみもあって、新しい楽しみを待って受け取ることが純粋に嬉しいだけでない思いも持ちながらの2ヵ月。
それでもこの舞台を救いだと言っていた二人と、私は客席からこの作品を共有できる日が来ることを待ちわびていた。

無事に幕が上がる確証がどこにもない中、作品にたくさんの思いを込めて創り上げている方達が今度こそ悲しい思いをしないでほしい、と毎日祈りながら。
予定していたことが予定通りに行われることがこんなにありがたいことだったんだと思いながら。


物語の舞台は戦時下。いくらでもセンセーショナルに描けるものを、二人は膝を折って目線を合わせてくれるような優しさを持って表現してくれた。
穴の中には自分だけ、外にはおそらくモンスターである彼だけ。心の中を全部さらけ出して、答えがない中迷って悩んで希望を抱いて恐怖に震えて。
1人だからこその、迷いも希望も含めて素の思考。戦争でも兵士でも学級委員もいじめられっ子も、一つしかない自分の命にしがみつく。

状況は戦時下でも、彼らのその様子はとても現代的。わかりやすくて現実的。
きっと、そういうことなんだ。
”異常事態”と思われる状況であっても、そこを生きる人にとってはそれが現実で、いろんな理不尽が自分の状況を勝手に振り回していくけど、そこに生きているのはいつもと変わらぬ命。
その状況を、彼らをそのものを、2人の関わりを、自然と自分の身近なところに重ねる。自然と重なる、どちらに寄せることもせずに。

自分の空間とそれ以外をわける大きな穴の開いた布が、より空間に柔らかさを与えてくれた。星空には感嘆の声が出てしまったかもしれない。リード楽器、ソプラノサックスかアルトサックスと、弦楽器、クラシックギターだろうか、が奏でる音楽もあたたかい。


心にしみて満たされて胸いっぱいになる。大袈裟なようだけど「あぁ、生きてきてよかったな」と思える。そんな出会いだった「ボクの穴、彼の穴」の初日。
観劇を取り上げられ、やっとだよーーと興奮を胸にしまって足を運んだのがこの作品で、本当によかった。
明日3日目からは1日2公演が続く。最後までどうか無事に。私はあと2回、楽しみをまだあたためている。


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