あと3曲しか歌えないとしたら
岸部四郎さんが71歳で亡くなったとの報道を見て、60歳の私は、ちょっとした恐怖を覚える。えっ、自分も、もしかしたらあと10年しかないのか。
これは年齢を重ねるとしかたのないことで、数年前から私の母も、それまでは口にしなかった「もうすぐ死ぬから」みたいな発言をするようになった。
自分と近い年代の有名人が死去し、自分の同級生までもが何人か逝ってしまうことが続くと、命のある生き物である自分がとうてい避けては通れない運命を、じわじわと覚悟させられる。
歳を重ねることで、最もイヤなことがあるとすればそれだ。
だから、その恐怖からまだ遠い位置にいる、自分はまだ死なないと思っている(かつて私もそう思っていた)若い人を羨ましく思う。
いっぽう1日前、女優の芦名星さんが36歳で亡くなったとの報道もあった。これを書いている時点では、まだはっきりしないが自殺の可能性があると言う。自殺の報道が出るたびにテレビのワイドショーなどで死者を批判するコメントが飛び交うが、本人でなければ分からない事情があるのかも知れない。でも、歳を取った身からすれば「もったいない」というのが本音である。
人生は短いと言うが、それは1年があっと言う間だったのと同じく、過ぎてしまうと巻き戻しができないからそう思うだけ。実際には結構長い。ただ、締め切りが間近に迫ってきたときに、カラオケボックスのように、電話1本で延長はできない。もうあと3曲しか歌えないときに、いったい何を歌うのか。
でも、そういう私は、明日からも、自分は死なないと思って生きるのである。金を稼いで、美味しいものを食べて、誰かと話して、面白い映画を観て、行ったことのない場所に行く。
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