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中村佳穂さんに浮かぶ奄美の夜

ゆうべ、テレビで7月に公開される「竜とそばかすの姫」というアニメ映画の話題がながれていて、私は夕飯の食器を片付けつつ、なんの気になしにナレーターが引っ張りぎみに語る「主演の声優は......」という声を聞いていた。

それでナレーターが「中村佳穂」といったものだから、思わず、うおぉっ!と叫んでしまった。

叫んだことには訳がある。中村佳穂さんというミュージシャンはものすごいのだが、私のなかでは加えて島がひもづく。

5年前。リトケイ島酒担当のみどりさんとの共著で奄美群島の奄美黒糖焼酎本を出したとき、鹿児島県では天文館に次いでにぎわう飲み屋街として知られる、奄美大島は名瀬のASIVI(ライブハウス)でお礼参りイベントを開いたときにさかのぼる。

その夜、遊びにきてくれた奄美市役所職員であまみエフエムのレギュラーDJもしていた「ゆーきゃん」こと深佐雄一郎さんが、姪っ子がすごいんだといいながらお土産にくれたDVDがあって、そのDVDに登場するのが中村佳穂さんだったのだ。

中村佳穂さんのプロフィールには京都出身とあるけど、奄美にもルーツがあって、ゆーきゃんは叔父さん。

ゆーきゃんは私に奄美大島の真髄にある「笑い」の存在を知らしめてくれた人のひとりである。

知ってる人は知っているけど、知らない人はまったく知らない奄美大島。最近は、世界自然遺産に選ばれた話が話題になっているが、私のなかで奄美大島は笑いの天国であり、「芸達者な島」としてのインプットが強い。

理由はいくつかあるが、それを衝撃的に体感した事件のひとつに「余興」がある。

私が初めて奄美大島に渡ったのは2012年頃。同じ奄美群島の喜界島出身で当時リトケイのインターンだったタムリスと奄美大島を訪れた時、ASIVIで開かれる島の方々との酒宴に招いてもらった。

その飲み会はただの飲み会ではなかった。いや、最初はただの飲み会と思っていたけど、そのうちステージで映像が流れはじめ、ただごとでないことに気づいた。

その映像は、奄美大島の結婚式の余興があまりに面白いからと、島内でひっぱりだこの余興芸人を集めて「余興で一番おもしろいやつを決める」(当時のチラシのコピーより)という「Y-1グランプリ(※Y=余興)」の映像だった。

ナニソレ?と思いつつ、島人(奄美大島ではシマンチュではなくシマッチュという)らが披露する余興芸の達者さに笑い転げ、映像のあとにはテーブルについていた役場職員とおっしゃる島の方々がステージにあがって唄いはじめ、島人の芸達者さと笑いのセンスに脱帽しつづけた。

「Y-1グランプリ」など詳しくはYoutube検索をしてもらえたらと思うが、Y-1レギュラーのゆーきゃんをはじめ、奄美大島には笑いのツワモノが多く存在することを知らしめられた夜だった。

そして、ゆーきゃんが「夜分にすいません」という番組名でDJをつとめていたあまみエフエムもただものではない。

ゆーきゃんの番組はもちろん、奄美の島口(しまぐち ※方言のこと)でめちゃくちゃニッチな島の話題を、都会のラジオではありえないトーンで放送されているのがおもしろくて、温かくて、愛おしくもある。

知ればわかる、聞けばわかる、芸達者な島。奄美大島に行くことがある人は、88.8MHzのあまみエフエム ディ!ウェイヴをぜひとも聞いてもらいたい(ネットラジオでも聞けます)。

そんな芸達者な島で、芸達者なゆーきゃんにもらったDVDで、中村佳穂さんのことを知ったのが5年前。家に帰ってみたDVDで、すげーー!と感動し、ゆーきゃんにメッセージを送ると、当時住んでた那覇の家まで追加の DVDを届けてくださった。

中村佳穂さんはその後、実力のとおり、どんどんどんどんメジャーになってていった。その姿を見るたびに、ゆーきゃんが奄美大島の口調で「いさもとさぁ〜ん」といいながらDVDを手渡してくれたときの光景が蘇っていた。

姪っ子のすごさをにこにこ顔で語りながら「いつか取材してやってくださぁ〜い!」と言ってたゆーきゃんは、それから2年後に急逝してしまった。

その前日までSNSでライブ情報をつぶやいていたのに。芸達者な島が誇るすごい若手の、突然すぎるさよならだった。

中村佳穂さんの活躍を見るたび、神がかった唄声を聴くたび、にこにこしながら喜んでいるだろうゆーきゃんの姿と彼への感謝が浮かぶ。

映画の主演だなんてすごいでしょぉ〜〜〜!って、天国から自慢している気がしてならない。映画、見に行かねば。

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