見出し画像

【Information】NISSAN Heritage Cars & Safe Driving Studio公開。ヘリテージカーと学ぶ交通安全の大切さ

 2024年3月7日、VRSNSであるVRChat上にて、日産自動車株式会社が「NISSAN Heritage Cars & Safe Driving Studio」という新ワールドを公開する。
日産の手掛けるワールドとしては5つ目となるこのワールドについて、3月4日に先行案内イベントが開催された。
本記事ではこの新ワールドの詳細に迫ってみる事にしよう。


豪勢な車両がお出迎えするエントランス

 NISSAN Heritage Cars & Safe Driving Studioに移動すると、何やらコンクリ造りのやや薄暗い通路と一台の車両が展示されたエントランスフロアへ降り立つ事になる。
ここに展示されている車両は日産自動車の車両を知らなくとも、特定の世代にはとあるワードでおなじみの名車である。
「ケンとメリーのスカイライン」で一躍時のクルマとまでなった「スカイラインハードトップ 2000GTX-E」である。


 同車両の内部は内装に至るまで精緻に作られており、外装の光沢から内装の革の質感や各種スイッチやメーターといったものまで妥協のないクオリティで仕上がっている。
その精細さたるや、通常ならばテクスチャが潰れて滲んでしまうであろうハザードのスイッチ表面の絵柄もくっきり見えるだけの高精細ぶりを見せつけている。
もちろん各種金属部の光沢も素晴らしく、その見事な造形は先行案内イベントで訪れた参加者一同が息を呑む程であった。
なお大興奮の参加者たちの熱気のお陰で、イベントの説明が少々遅れてしまう位に盛り上がったという補足も加えておく。

 このワールドはその名の通り、3種類の撮影スタジオが用意されているワールドとなっている。
いずれも日産の往年の名車、ヘリテージカーを用いて交通安全に関する様々な要素を体験する事が出来る構造となっている。
このワールドの製作にあたっては交通安全要素の監修元として「交通安全未来創造ラボ」の協力を受けている。
同団体は日産自動車主催のもと、多くの研究員が所属する団体となっており、交通安全教育や安全要素の研究活動を行っている。

深夜を彩るアートフォースの煌めき

 1つ目のスタジオは1980年代の湾岸、美しい夜景をバックにした風景がスクリーン上に展開される構造だ。
佇むのはバブル期を駆け抜けた「シルビア Q’s」。同車両は後輪駆動のFR車であり、発売当初予定されていたデートカーとしての需要以上に走りを追求するスタイリッシュさとタフさを両立した車両として通産省選定グッドデザインと日本カーオブザイヤーを受賞している。
そんな同車両を使ったトレンディドラマの様な美麗な背景で学べる要素は「歩行者の服装色に関するフィギアと実車による視認性評価実験」である。

 自動車の走行において一層の注意が必要となる夜間走行時において、歩行者の視認性というのは歩行者だけでなくドライバーの側にも存在をアピールし、その安全性を担保する要素となっている。
そんな中でシルビアが走り抜けた80年代は、バブルの空気が華やかなりし時代でもあった。
原色を中心としたきらびやかかつセクシーでタイトな服装が流行った時代、赤や黄色など強い原色を用いた服装は、ドライバーの目線から夜間走行中であっても女性を視認する事は比較的容易であった。


 時が移り変わって現代の2024年、令和のトレンドとしては余り主張しないカラーの服装が挙げられている。
特に黒や灰色といった暗色や抑えめのカラーを中心としたコーディネートが中心となっているが、このコーディネートには一つ大きな落とし穴がある。
夜間のドライビング時に、黒の服装がどう見えるのか。
このスタジオではシミュレーターを起動するとシルビアが回転、桟橋が現れシルビアのヘッドライトがオンになる。
投光先には3体のマネキンが立っており、80年代の真っ赤なスーツと、スーツの色を黒色に変えてみたモデルを切り替える事で夜間の視認性を比較できるのである。
そして結果は一目瞭然、夜間の黒色の服装は視認性を大きく損ないドライバー側が歩行者の接近に気づくのが遅れる可能性が高い状況となるのが分かるようになっている。

 しかし会社勤めなどで黒いスーツで出勤したりしなければいけないという状況のとき、どうすれば良いのかという疑問も当然ながら出てくる。
このワールドの要素を監修した相模女子大学 学芸学部 生活デザイン学科の角田 千枝教授が提案するのが「ワンポイント明るいアイテムを身につける」ことである。
ワールド内ではその一例として、現代の服装そのままに真っ白いカバンを手に持ったマネキンが同じように出てくる。
こちらは視認性の強いカバンが目立つように見え、服装はそのままに小物を変える事でドライバー側も歩行者の接近に気づきやすいという事を体験出来るのである。


 会場内にはポスターも掲示されているが、そこで取り上げられているのが日中・夜間時の服の見えやすさと共に加齢時の色の認識能力の低下という要素だ。
白色寄りの服装が日中・夜間ともに見えやすいというのはわかりやすいが、日中認識しやすい色であってもペールカラーやダークトーンの配色は若年層のドライバーですら「見えにくい」と回答するユーザーが増えている。
その上で高齢ドライバーは夜間に認識しやすい色が大幅に減り、大半の色味の服装が認識し辛い状態となってしまうとの結果が報告された。
そのため服装を楽しむ上で交通安全を意識するならば「ドライバーが見えやすい、白い小物などを身につける」という事で視認性を上げる工夫をしてみるのが、安全への近道となるという事であった。

アバターを纏った角田 千枝教授


意外と見落としがちな有効視野の認識

 次の撮影スタジオは、半円状にぐるりと車体を取り囲むスクリーンがお出迎えする。
そこに鎮座するのは、エントランスにも佇んでいた「スカイラインハードトップ 2000GTX-E」。ケンメリの愛称でも知られる同車は、スカイラインハードトップ 2000GTX-RのバージョンチェンジモデルとしてL20型エンジンの低公害化を進めたものであり、キャブレター(気化器)が電子制御燃料噴射(ニッサンEGI)に置き換えられたL20E型へと変更されている。
先述したキャッチコピーによる販売戦略は功を奏し、C110型スカイラインは累計販売台数と66万台という大ヒットとなったのである。

 そんな同車を使って学ぶことの出来る内容が「交通安全と有効視野計測システムの関連研究」だ。
運転時に気をつけなければならない要素として横断歩道を渡る歩行者が挙げられるが、横断者を視認した上できっちりとブレーキングをして渡れるように配慮をする必要がある。
このスタジオではスカイラインの前進・後退操作を行いながら横断する歩行者を視認し適切なブレーキングを行うミニゲームを遊ぶ事ができるのだ。
なお歩行者はファンシーな牛や馬であるので、歩行者というよりは歩行動物ではあるのだがいずれも礼儀正しく横断歩道を渡ってくれる。
交通ルールを守る事は動物の間でもブームなのかもしれない。

 とはいえここまでクオリティの高い要素に付随するミニゲームだけあって、その難易度は半端ではない。
北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科 視覚機能療法学 川守田 拓志准教授監修のこのミニゲームは、操作こそアクセルとブレーキだけの単純なものだが、適切なタイミングでブレーキングし車両を横断歩道前で止める際の判定はかなりシビアなものとなっている。
その上で走りきった後に出されるのが「走行時の風景に何が出てきていたか?」という四択のクイズ問題である。
これは走行中のシーンで何が出現していたかを問う問題ではあるが、いかんせんスカイラインの速度は割と速めである為か認識はやや困難となっている。
しかしこれは言い換えれば「ドライビング中に周辺に存在する事故等のリスク要因をどれだけ認識出来るか」という話となる。
事実、先行案内でドライビングの様子を見ていた多くの参加者から「こんなの居たっけ?」「覚えていない」といった声が次々と飛び出しており、正解が発表された際にはこの有効視野に対する認識を改めて実感する様子であった。
このゲームの結果については終了後にクイズの結果と合わせて表示されており、結果に関してもかなり厳し目の基準が設けられている。
だが実際の運転状況で事故を起こしてしまわないためにも、常日頃から安全運転の為にこのコンテンツを触れてみるのも良いだろう。

アバター姿の川守田 拓志准教授


いつでも楽しめるハンドルぐるぐる体操とおもいやりライトのほんのりした明かり

 3つ目の撮影スタジオは夜の星明かりの下に建つアメリカンなダイナーの「GURUGURU DINER」とそこに併設されたドライブインシアターが用意されている。
そこに停まるのは日産自動車が自動車産業盛んなアメリカへと売出しを掛けた意欲作「ダットサン・フェアレディ SPL213型」である。
同車両はSPL212型と共に北米市場へと投入されたモデルであり、合計して500台前後の販売台数となった。
そのため現存する車両は非常にレアとなっており、日産ヘリテージコレクションにも同車両が収められている。
なおこの名前を見てピンと来た方も居るだろうが、映画「マイ・フェア・レディ」を由来とするフェアレディという名は、後の日産自動車における名車種へと受け継がれている。
ダットサンフェアレディはその名がダットサンフェアレディ 1500へと継承。その後その名を持った名車種のフェアレディシリーズ初代となる「フェアレディ Z432」が生まれる事となったのだ。

 そんな貴重なダットサンフェアレディ SPL213であるが2台中1台は馴染みのあるカラーリングであるものの、もう一台の白にライトグリーンの独特な塗装の車両は見たことが無い人も多いのではないだろうか。
こちらの車両についてはダットサンフェアレディのカタログに掲載されていたイラストを参考にカラーリングを施したモデルであるとの事で、実際には製造されなかったある種幻のカラーリングとなっている。
こういった「実現したかもしれない要素」を実現させてしまえるのもVRChatの様な環境の大きな特徴と言えるだろう。

 こちらのスタジオでは、デフォルトの設定で「おもいやりライト運動」の動画がスクリーンに投影されている。
日産自動車が2010年から取り組んでいるこちらの運動は、交通事故の発生率が高まる夕方4時から6時の間にヘッドライト早期点灯をドライバーに促すものである。
「早めにつけよう おもいやりライト」の標語を掲げるこの運動を知ってもらう一環として、同社はコマ撮りのストップモーションアニメを製作。
可愛らしいアニメーションと共に、ライトを早めに点灯させる事の大切さを解いている内容であった。

 さてこのスタジオにはもう一つ放送可能な映像が用意されている。このダイナーの名前を見ておわかりの方もいるだろう。
新潟大学人文社会科学系教育学系列村山 敏夫准教授と共同創業した運動プログラム「ハンドルぐるぐる体操」が視聴できるようになっているのである。
同プログラムに初めて触れる読者の方々向けの説明となるが、ハンドルぐるぐる体操は「高齢ドライバーを中心に日常の中で運動習慣を付け、筋肉と認知力を向上させ安全走行を行える様に支援するもの」として開発が行われた。
実際にこのハンドルぐるぐる体操を高齢ドライバー(60代から80代)25名に対し、同プログラムを2ヶ月行わせた上で効果を検証した所、身体の柔軟性を測定する長座体前屈や筋力とバランス感覚を見る最大二歩幅において向上が見られたとの事であった。
これはドライビングの操作のみならず、日常生活においてもより生活しやすい身体能力を保つ為の運動として有意な結果が得られたと言えるだろう。


 そんなハンドルぐるぐる体操は2022年3月7日に、「ハンドルぐるぐる体操 体験会」としてVRChat上の日産自動車株式会社が手掛けるワールド「NISSAN CROSSING」でイベントが開催された事でVRChatユーザーにも浸透。ハンドルぐるぐる体操の熱心なファンが出る程であった。
そしてこの撮影スタジオの端には持ち運びが可能なオブジェクトとして3つのハンドルが用意されており、VR環境でワールドを遊ぶ際には全力でハンドルぐるぐる体操を行う事が可能となっている。
これまで恒常的にハンドルぐるぐる体操を表示できるワールドがなかった事もあってか、先行案内の参加者たちは大盛りあがり。
映像のタイミングに合わせて「ニュートラルポジション!」の掛け声が響く一大ハンドルぐるぐる体操体験会となった。

日産自動車の大きなマイルストーン

 今回のワールドを実装するにあたっては多くの意欲的なキャスティングが為された事も特徴である。
日産自動車株式会社が株式会社往来にプロデュースやマネジメントを依頼、ワールド制作スタッフとしてVRコンテンツ制作クリエイターチームであるQuick Brown Design Studioが参加。
他にも多くのクリエイターが合同でこのワールド製作に参加しており、まさに様々な領域のクリエイターの総力を結集して作り上げられている。
総制作期間は構想も含めて3ヶ月程と相応のスケジュールと規模となっており、クリエイターの参画事例として非常に良い例が生まれたと言えるだろう。

 その上で日産自動車株式会社のワールドとしては珍しく、ワールド内におけるリアル感を示すオブジェクトとしてゴミ箱等のオブジェクトも配置。
更にワールド内のライティングにおいても明暗をきっちりと分けつつ、過度に派手であったり暗色になりすぎないメリハリ感を持たせている。
ワールド全体がやや薄暗いイメージながらも背景となる小道具や照明も含めてそこにあるリアルさを追求し、更にスタジオやヘリテージカーの調整も極限まで最適化が行われている。
ヘリテージカーの美麗さを一層引き上げると共に、「こういう場所ってありそう!」という感覚を持たせる絶妙な塩梅といえるだろう。


 日産自動車株式会社は今年で創立から90周年を迎えるが、今回ヘリテージカーを主軸としたのはその美しさや印象深さを堪能してもらう為の立ち返りと共に、もう一つ大きな要素が含まれている。
それはヘリテージカーの「実際の車両に近い3Dモデルによる情報の継承」である。
ヘリテージカーの様な車歴の長い車両であればあるほど、製品の十全な情報を記している資料や実車そのものが消えていってしまうリスクに晒される。
これを実際の資料と突き合わせてできるだけ現存する車両に近い構造とする事で、どういった車両が存在していたのかという記録が残せるのである。
また、実車に触れられる機会はそうそう多いわけでもない。そういった中で実車に近似した物に擬似的に触れる事でクルマの良さが分かると共に、実車の質感をイメージし実際に触れられる機会の楽しみをふくらませる事が出来る。
特にヘリテージカーの様な車両は年々その姿を減らしつつある中で、いかにこれからの世代に車両の魅力を伝えていくかという手段の模索は非常に重要なセグメントと言っていいだろう。

 今回のワールドは日産自動車株式会社が手掛けるVRChat向けコンテンツの中でも特に「空気感」に重きを置いた、珠玉の逸品と見て良いだろう。
その上でMeta Quest向けの対応も施しており、Quest2ではなんとか動作するレベルにまで軽量化に成功している。
Meta Quest3での訪問であれば、スペック的には問題なく快適に動けるとの事であった。


 なお余談ではあるが、NISSAN CROSSINGでは現在1階部分にスカイラインハードトップ 2000GTX-Eと日産自動車初の電気自動車である「たま電気自動車」が鎮座している。
更に「NISSAN SAKURA Driving Island」では90周年特別仕様として、日産サクラとたま電気自動車を並走させてドライビングする事も可能となっている。


イベントにご招待頂いた日産自動車株式会社 日本事業広報渉外部の鵜飼氏

 VRChat内の企業提供のワールドの中でも特に継続的なアップデートを行い、新規コンテンツの提供を重ねてきた日産自動車株式会社。
これからも最先端を走る企業として、是非熱意を注ぎ続けて頂きたいものである。

活動継続の為、記事が面白ければ「サポート」をお願い致します。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?