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「かぞくのわ」二次創作掌編4

(※こちらは、先日上演されました「道楽息子」様の舞台「かぞくのわ」の二次創作掌編です。主宰である表情豊様の許可を得て執筆、掲載させていただいております)

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  元号が昭和から平成に代わる頃、俺達はまだ5歳だった。
  いわゆる"バブル景気"の真っ只中──今なら考えられないが、どうやら金を持て余した当時の政府は、後になって「ふるさと創生事業」とかいわれる政策を打ったらしい。
  まあ、つまりは全国津々浦々の町や村に1億円のカネをバラまいたんだと…。

『Covet-通称・店長の場合-』

  それにしても。
  俺と兄やんは、とっくのとうに絶縁しているというのに、何でまた……。
「え?死んだ?」
  …連絡がちゃんちゃんと来やがるんだろう? あークソ。
「あー、俺らもうカンケーないんで、無縁仏にでも何にでもしてやってください。葬式を出す義理も金もないんで」

  カオリを客の所に送り届けた帰りの車ん中で、世田谷区役所のケースワーカーとか言う役人の電話を受けた俺は、そう言おうとして、一瞬黙って考えを変えた。

「あ、分かりました。他でもない唯一の身内なんで、した…遺体は引き取りますよ」

  で、なんだかんだと、銀行やら、役所の手続きやら、一番安い値段の棺桶に"焼き代"なんかで10マン以上の金が、右から左に吹っ飛んだ。

  …春の天皇賞、手堅く賭けてて本当にヨカッタ。グッジョブ俺。
  そして俺は、兄やんが"コレ"に刺されて仲良くおっ死んだという部屋を借りると不動産屋に申し出た。
  そのままならカシ(瑕疵)物件になるところだから、不動産屋はドチャクソ喜んで、その部屋の契約をカイダクした。

  ところで、俺達の親父は(そして兄やんも)ドチャクソ女グセと酒グセが悪かった。
  俺達は、よく酔っ払った親父に、タダ目が合ったというだけで殴られ蹴られしたもんだが、親父の機嫌が良い時は、
『俺達の住んでいたド田舎の村から、忽然と消えた1億円の金塊』の話をした。
  その話のケツは決まって、
「その金の塊は今、ドコにあるんだろうなぁ? どこだと思う?」
  だった。
  俺も兄やんも、ヘタな答えを言えば殴られるから、その時は、ただ黙っていたが……。
  兄やんと親父は、どこまでもよく似た父子で、そして、俺と兄やんは一卵性の双子だった。
  親父の考えは兄やんには筒抜けで、そして、俺達はよく似たクズの双子だった。

  俺は、兄やんと兄やんのコレの愛の巣だった部屋に布団と枕、あと、ついでに骨箱を抱えて急ぎ引っ越した。
  他のモノは要らないし、必要ない。
  T電に連絡するのが遅れたので、日が暮れた部屋は真っ暗だ。
  深夜になって、フローリングの六畳に寝ていた俺は、スマホのライトを頼りに、隣の四畳半に移動した。
(早くしないとバッテリーも切れるし)
  茶色いシミが広がったままの畳を、俺は力任せに剥がしていった。

──「その金の塊はよ今、ドコにあるんだろうなぁ? どこだと思う?」
  親父の考えは兄やんには筒抜けで、そして、俺達はよく似たクズの双子……。

  バタン!

  畳の最後の一枚を剥がすと、チラシの紙がぴらりと置いてあった。
「……くっそおおー!!!」
  俺は思わず叫んで、その紙をクシャクシャに握りつぶした。

  マジックでチラシの裏に書かれた文字は、まちがいなく兄やんもので、

「阿保のダレかさんへ、
ご苦労さん」

  ……なんなら漢字を間違えていたのが余計にムカつく。
「阿呆はどっちやねん…」
  暗闇の中で、畳の剥がれた床に転がって吸ったセッタがドチャクソ苦かった。

(おわり)

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