見出し画像

魔女の家

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
*この記事は2024年8月2日から9月3日まで開催の個展「Majonokutsurogi(魔女のくつろぎ)に合わせて書いたものです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

森の中の小さな家は、魔女の家だった。
「ちょっと待っていてね」と庭の草をぶちぶちとむしってそのままポットに入れてお湯を注いだ。
雑に淹れた草の入ったお茶を、シュッとしたシンプルなカップに注ぎながら
「で?なんの用?」と聞いてきた。
招き入れたのは自分なのに。
おそらくハーブの香りがするカップを目の前にトン、と置かれる。
コースターやソーサーは使わないのだろうか。
テーブルにはたくさんのカップの跡がついている。
自分用のカップは、キャラクターものなんだ。

わたしは用事があってここを訪れたわけではない。森を散歩していたら、小さな家があったので人が住んでいるのだろうかと興味本位にちょっと窓を覗いてみただけなのだ。
家の中で編み物をしていた魔女が窓の外のわたしに気がつき、パッと笑顔になった。
そして編み棒をほっぽり出してドアを開けて、わたしの腕をぐいとつかみ
「お茶でも!」と家の中に引っ張り込んだのだ。
唖然とするわたしをガタガタする椅子に座らせ、鼻歌を歌いながらお湯を沸かし始めた。
話し相手が欲しかったのだろうか。

「この森に来たってことは、何かあったのかしら?」

別に「こういうことに悩んでいるのです」と他人に話すことはないのだけど。
ただ、いつものように暮らしているし、いつものように楽しいこともストレスもある。
いつものように。

「森を散歩することっていうのはね、心の中の散歩なのよ」

何が始まっちゃったんだろう。何かの勧誘だったら早めに切り上げて帰ろう。

「お伽話の中には森がよく出てくるでしょ?例えば、赤ずきんちゃんは、森の中へおつかいに出かけたりするじゃない。あれって、自分の内側に入っていくってことなんですって。子どもの時に読んでいたお話も、大人になってみると奥が深いわね。森で出会う動物や魔女、妖怪は自分の中にある、恐れや希望をあらわすんですって。あなたは、ここまで来るのに誰に出会ったの?」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?