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思い出は溶けて、愛

23時。
リビングに一人。
テレビから小さく聞こえる郷愁メロディ。
膝の上で喉を鳴らす、猫。

今日は母の72回目の誕生日を祝うため、
両親と息子を連れて浅草を散策した。

天気が良くて、少し暑くて、スカイツリーまで歩いて、テラス席でケーキを食べた。

散りかけの桜は、初夏の訪れを匂わせる今日に似合っていて、母は何度も何度も足を止めて、楽しそうにスマホを景色にかざしていた。

造形作家を志していた私は、なかなか結果を出せず、社会生活にも馴染めず、つい数年前までひとり親で子供がいるくせに、食べるのが精一杯な生活をしていた。

そんな私でも、ようやく今は両親の表情が晴れるくらいのランチに連れて行く程には進歩した。

きっと、親孝行には全然足りないんだけど、例えば今年どこかで死んでも、ほんの僅かな思い出くらいは残せたのではないかと少し心をなでおろして、ワインをなめる。

そんな今日を思い返して、猫を撫でる。
息子とぶつかったまま寝室に送った今夜。
それでも家は、愛に溢れてる。

明日の朝、寝癖をつけてのそのそリビングに来る息子を、きっと私は抱きしめるんだ。

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