【カフェのバイトを辞めた話】


この短い人生。せっかくならたくさんの経験がしたいと(続けられないだけ)、過去のアルバイト経験は10社以上ある。その中で思い入れがある“良い”バイトなんてものはあまり無いのだけど、先日辞めてきたカフェのバイトは間違えなくワースト1位である。

【前提】

このカフェは今年の8月にオープンしたばかりでオーナーであり店長の40代男性と私を含む23人の女性のオープニングスタッフが勤めている。
「カフェ」であるとタイトルから説明しているが、実はそこも怪しいところであるのだが、それはまた後で。

【シフトの話】

このバイトを初めて一番最初に疑問を抱いたのはシフトである。
アルバイト全員が面接時にシフトについてある程度の希望を提出していて、私は週四日〜三日で希望を出して採用してもらえていたのだが、蓋を開けると週ゼロも珍しくなく、平均して週1.2回の出勤だったのだ。コロナだから仕方がないよね〜〜、なんてことを私たちアルバイトが言えなかったのは、1日に出勤する人数が最大で3人しかいなかったからである。先述した通りオープニングスタッフは23人採用されているのだから、そりゃ週ゼロもありますわなあ!!と思いながら私は家賃を2ヶ月滞納した。

【お金の話】

こっちは少々コロナウイルスと関係がある。この情勢でやはり飲食店の運営は厳しい。ランチタイムもディナータイムも中々お客様はいらっしゃらない。(そもそも料理が美味しく無いのでコロナだけのせいだとは思わないが。おっと口が滑った)そんな中店長が使った手はとにかくアルバイトを削ることだった。きっとどこもそうなのだろうなあと思いながら、とにかく早上がりをさせられた。2時間も3時間も早く上がる時もあれば、たった30分だけでもとにかく早く早く帰らされた。お陰様で夕飯抜きの生活も長く続いた。

【仕事内容の話】

何度も言うが、このお店は8月にオープンしたばかりで、店長以外はこのお店のことを何も知らずにいるのだが、店長はとにかく何も教えてくれない。これがもう大問題。その割に私達に任された仕事内容にはキッチンで料理をすることもある。もちろん店長も悪魔では無いので聞けば教えてくれるのだが、大概はお店にいない。無知のバイトだけを店に置いてどこかへ行ってしまうので、もはや凄いなと感心してしまうくらいではあるが残された私達はてんやわんやである。
オーダーを受けて急いで店長に電話をかけ「これってどう作るんですか!!」ってこともあれば、変なノートの切れ端にある『コチュジャン大さじ2 みりん大さじ2 砂糖大さじ1 ごま油大さじ1』と言う何ともお粗末な、それから先を知りたいんだよ!と思わせるメモを見て何となくで作って提供ということがほとんどであった。それでいて、出勤する度にメニューが変わってしまうので(よくある店長の“きまぐれ”ってやつ)それはそれはストレスであった。

【情報共有禁止法】

メニューが変わるのにも前触れなんてものは無い。出勤してメニュー表を見て初めて気がつくのだ。(だから出勤時のルーティンはメニュー表を眺めて変化が無いかチェックすること)
それほどに情報が無いのには、店長が定めた【情報共有禁止法】(命名私)に基づいている。
店がオープンしてから1ヶ月も経たないとある日、初めて来店の予約を受けたのだが、予約の管理をするシステムがこの店にはなかったため、予約日にシフトが入っている人たちに向けて、LINEグループにて
『◯日、◯時から予約受けました。対応をお願い致します』
というメッセージを送信した。そのメッセージに続けて何件かアルバイトからアルバイトに向けてお願い事だったり確認ごとなど、ごく普通の情報共有がなされたが、それが事件へと繋がる。
私がまた出勤すると店長から私だけが呼び出され、
「ああいうの辞めてくれない?」
というセリフから始まった。
「LINEグループでああいう情報流しちゃうといいこと起こらないんだよ。みんな好き勝手にルール作り出すんだから」
「でも、私はみんなからの情報共有、ありがたかったですけど」
「いいやダメ。そういうのは俺がやるから」
とのことで、その日からバイトからの情報共有が禁止されたものの、店長もLINEを全く活用しないので私達はお店についての最新情報を受け取れなくなった。

【きんぴらごぼう事件】

相変わらず作り方を教えてくれないので、アルバイト各々でやり方生み出して行った。
たとえば私が作るきんぴらごぼうは、ごぼうを斜めに切るという無難な方法だったのだが、店長の頭の中には「きんぴらごぼうのごぼうは必ずささがき!!」という鉄の掟があったらしく、私のきんぴらごぼうを見るやいなやものすごく腹を立てていた。
「そんなもの誰が食うんだよ!」
「ささがきだから味が染みて美味いんだろう!!」
「斜め切りは最後の最後、ささがきできなくなったらやるんだよ!!」
とのこと。私はこれ以上ないくらいの鋭さで店長を睨みつけた。

【地獄のGo to eat】

よくシステムを分かっておりませんが、皆さんご存知、Go to eat 。これは私達にとって地獄とか恐怖とか、とにかく最上級のネガティヴな言葉で言い表したくなるものであった。
きっと上手いこと取り組めば、国も経営者もお客様もwin-winな素敵なシステムだとは思うのだけど、この店のこの店長がそんな器用にできるわけもない。Go to eatのおかげで集客は約10倍くらいにはなっていた。(元々は0と等しい)しかしアルバイトを雇う人数、早上がり、情報共有禁止法は変わらなかったので当たり前に手が回らなかった。
ほぼ毎日予約だけで満席になっているので、予約制限や予約以外の来店を断ろうと提案しても却下されてしまい、予約者が席につけなかったり、予約者が1時間以上待たされるという言語道断な問題を起こしてしまい、お客様を怒らせずにいられた日は無かった。
私達は泣きたくなるほどしんどい日々だったが、最小限までバイトを切って、限界までお客様を入れてるんだから多少なり儲けたらしく、店長の機嫌はそこそこ良かった。それがまた腹立たしいのだが。

【ダイニング】


話は遡り、私達がこのお店を求人で見た時、間違えなくそこには「カフェ」と書かれていた。コーヒーや紅茶、小洒落たケーキなどを提供する「カフェ」という認識だったし、面接時にもそのような説明だった。しかし、オープンしてから1ヶ月後、いつものごとく突然に夕方16時以降の営業は“ダイニング”と呼ばれるようになり、甘いケーキなんて概念も無くなり、生ハム、チーズ、パスタ、ワインなどの多種類のお酒が取り扱われるようになりいわゆるイタリアンバルへと変わってしまった。カフェのアルバイトがしたかったはずの私達は必死になってお酒の作り方を覚えようとしたが、あまりにも突然のことでオープンまでに覚えられるわけもなく、案の定、お客様を怒らせ、店長にも怒られる始末。次第にダイニング営業を希望してシフトを出す子は1人を除いていなくなった。

【あかりちゃん】


そんなダイニング営業に唯一アルバイトで入っているのがあかりちゃんというアルバイトの中で最年少、18歳の女の子だ。あかりちゃんは18歳という若さにも関わらずあかりちゃん自身が稼いでいかなければならない家庭の事情があった。それに感銘を受けてか、おっとりして優しい雰囲気のあかりちゃんを舐めてるのか分からないが、店長はこのあかりちゃんをだいぶ気に入っていた。(お気に入りという言葉が正しいかわからないが)
とにかくあかりちゃんをバイトリーダーにさせようと必死だった店長は、かなりあかりちゃんに無理をさせた。例えば、今でもダイニング営業時のお食事の調理の仕方はあかりちゃんと店長しか知らないし(あかりちゃんにしか教えなかった)、平気でダイニング営業時にあかりちゃん、たった1人に店を任せることも多かった。あかりちゃんが目を回しながら必死に営業をしている中、店長は酔っ払って店に戻ってくる始末。私はとにかく、店長のあかりちゃんへの扱いが嫌いだった。

「バイトの皆さん優しいですし、仕事も覚えてきたし不満は無いはずなのに、なんでこのバイト嫌いなんだろうって考えたんですけど、店長のことがめちゃくちゃ嫌いなんだと思います」

私はカフェ営業、あかりちゃんはダイニング営業なのですれ違うことしかなかったのだが、その少しの時間であかりちゃんはよく愚痴をこぼすようになった。

【最後の日】


店長は在庫の管理ができないアルバイトに心底ご立腹だったのだが、メニューがコロコロ変わるこの店で、アルバイトが在庫の管理をするなんて無謀だった。
「在庫の管理をして欲しいなら、メニューを固定化させるか、在庫管理の表を作ってください。それならできます」
(捨てられた過去があるので自ら表を作ることはできなかった。)
店長が素直に意見を受け入れてくれることを期待して、生意気にも私が大声を上げると、
「そんなもの作ってられるかよ!俺は忙しいんだよ!」
とのこと。私は、だったらこんなお店閉めちゃえばいいのにー、と思いながら
「じゃあ、私は辞めますね」
と制服を脱いでそのまま店を出てきた。


【カフェのバイトを辞めた話】


良い職場なんてそうそうない。不満なく働けている人の方がごく僅かなこの現代社会。
1日のほとんどの時間を仕事に費やし、家にはただ寝に帰るだけの人も数多くいるはず。
だからこそ、店長や社長と呼ばれる雇い主は、一人一人を大切にしてくれたらいいのに、とつくづく思う。そして、雇われている方ももっと自由に働ける社会になればいいのに。
私の様に辞めて行ったアルバイトも少なくはないが、店長に不満を持ちながらもなんとか自分達の中で解消させ続け、今も仕事を続けてる方もいる。ある程度妥協しながらも自分の生活を守り抜く術を持ったそんな人達の姿はそれはそれでかっこいいと思ったし私にはできなかったことだった。


ここにあることは全て生意気で不満も文句もぶつけて喧嘩して仕事を辞めることしかできない社会不適合者の戯言である。

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