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バカの問題は、自分がバカであることに気づいていないことだ|『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』

ちょっと意見を否定されただけで、物凄くムキになってくる人。

よくわからない理屈でマウントを取ってくる人。

絶え間なく報道される芸能人のスキャンダル。

何故、そんな行動になるのか。
本書は、私たちの集団生活における、ちょっとしたモヤモヤする人間関係を社会脳仮説をベースに紐解くものだ。

マキャヴェッリ的知性仮説(マキャヴェッリてきちせいかせつ、"Machiavellian intelligence" hypothesis)または社会脳仮説(しゃかいのうかせつ、"Social brain" hypothesis)とは、人間の持つ高度な知的能力は、複雑な社会的環境への適応として進化した、という仮説。

「マキャベリ的知性仮説」Wikipedia

私たちは、社会的な動物であり、単体では生き延びることが出来ず、集団に属さなければ生きていけない。

しかし、その集団の中で、秀で過ぎれば権力争いに巻き込まれ、集団から追放されてしまう可能性がある。

一方で、集団の最後尾にいればいいのかというとそうでもない。
序列が低ければ、異性から子孫を残す相手として選ばれないからだ。

目立ってはいけない。だが、目立たなくてもいけない。

噂話は、集団のなかで生き延びる強力なツールだ。面と向かって批判すれば紛争になり、最悪の場合、報 復されて殺されてしまう。だが噂(「たまたま聞いたんだけど……」)によって悪い風評を広めるのなら、報復を 避けつつ、ライバルにダメージを与えることができる。

『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』

見えない方法でライバルを蹴落とす。
とても良い方法だが、これにも問題はある。
それは、自分だけでなく、他人も同じことを考えている、ということだ。

こうして、「自分についての噂を気にしつつ、他人についての噂を流す」というきわめて高度なコミュニケ ーション能力(コミュ力)が必要とされるようになった。「社会脳」仮説では、ヒトの知能が極端に発達したのは、集団内の権謀術数に適応するためだとする。

『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』

現代の我々はその複雑なコミュニケーションを駆使して生き延びてきた者たちの子孫であり、その進化の痕跡がそこかしこに残っている。

そして、それは私たちにとって都合の良いことばかりではない――。

「もしかして、アレってこういうこと?」
と、思わず読み耽ってしまう1冊です。


元宝島社編集者でヒットメーカー

著者は 橘玲
元宝島社の編集者で、作家。
『言ってはいけない―残酷すぎる真実―』が50万部を突破する大ヒット。(すいません、私は未読です)

早稲田大学第一文学部卒業。元・宝島社の編集者で雑誌『宝島30』2代目編集長。日本経済新聞で連載を持っていた。海外投資を楽しむ会創設メンバーの一人。2006年『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補となる。デビュー作は経済小説の『マネーロンダリング』。投資や経済に関するフィクション・ノンフィクションの両方を手がける。2010年以降は社会批評や人生論の著作も執筆している。

「橘玲」Wikipedia

てっきり、何かの研究職の方かと思ったら、作家さんだったことに驚き。 
宝島社は付録付きファッション雑誌だったり、政治的メッセージの強い広告を打つイメージですが、その辺はこの方と関係があるのでしょうか。

出版社は新潮社

掲載誌・レーベルは新潮新書

発売は2022年10月


私たちは“そうするようになっている”

①目立ち過ぎて反感を買うと共同体から放逐されて死んでしまう。
②目立たないと性愛のパートナーを獲得できず、子孫を残せない。

『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』

この複雑なコミュニケーションを、我々の祖先がどうやって勝ち抜いてきたのか。

本書では、1999年に発表されたダニング=クルーガー効果というもので説明されている。

ダニング=クルーガー効果のもう一つの重要な発見は、認知能力の低い者が自分を過大評価する一方、認 知能力の高い者が一貫して自分を過小評価していることだった。なぜこんなことになるかは、人類の進化の 歴史から説明できるのではないか。

『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』

能力がない者についてはこのように考えられる。

自分に能力がないことを他者に知られるのは致命的だ。このようにして、能力を大幅に過大評価するようになった。

『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』

一方で能力がある者も安泰ではない。

すぐれた能力があることを他者に知られることもまたリスクだ。権力者が真っ先に排除しようとするのは、将来のライバルになりそうな有能な者だからだ。このようにして能力を過小評価し、共同体のなかで極端に目立つことを避けようとしたのではないだろうか。

『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』

能力のある者は、目立たないように。
能力のない者は、目立つように。

能ある鷹は爪を隠す、バカにつける薬はない、なんて言葉もあるくらいだから、昔から人間はそう行動するように設計されているんだろう。

能力がないことを周囲に悟られないように、振る舞うように設計されている。
だからこそ

「バカの問題は自分がバカであることに気づかないことだ。なぜならバカだから」

『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』

自ら意識して振る舞っている部分もあるかもしれないが、我々は“そうするようになっている”のだ。

ここで「あ、もしかしてあの人は……」なんて思っていると、そのあとの言葉が鋭く突き刺さる。

ここまで読んで、あなたは「バカってどうしようもないなあ」と嗤ったにちがいない。だがダニング=クル ーガー効果では、バカは原理的に自分がバカだと知ることはできない。私も、そしてあなたも。

『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』

他にも、差別や、正義など「何故こんなことになるのか?」という疑問にするどく切り込んでいる。

有頂天になりすぎず、きちんと距離を取って、楽しく読んで欲しい本です。

感情移入し過ぎると、毒っ気の強い本なので。 


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