たのしいMRE その1
過日、大したわけもなくただ飛んでいる飛行機が見たくなって、山口県は防府市の航空自衛隊防府北基地の航空祭へ足を運んだ。
同地はかつて帝国海軍通信学校として開設され、陸軍航空部隊の飛行場として開発された。戦後はイギリス軍が接収。自衛隊発足後は飛行訓練に使用され始め、現在は航空学生教育隊が置かれており、未来の航空自衛隊の操縦要員を育成する場となっている。
ちなみに北があるなら南もあるというわけで、こちらは航空教育隊が自衛官候補生や一般曹候補生といった新入隊員らの教育を行っている。飯が美味い。
航空祭には様々な出店が開かれ、ただの焼鳥屋や唐揚げ屋、自衛隊グッズの販売から識別表の作成など様々である。その中には米軍払い下げ品その他諸々を取り扱う、いかにも自衛隊のイベントに来たがるような御仁が好きそうな物を売る店もある。ジッポライターもあればベルトや金具もあるしコンパスに手錠、水筒、小銃の弾倉っぽい何かまで。
そこで調達したのが、米軍が現在戦闘糧食として使用しているMREであるそこそこ高かった。
MREってなんやねん
Materials Resembling Edibles(食べ物に似た何か)。
というのはMREの名称に絡めたジョークの一つで、正式名はMeal Ready to Eat(調理済みの食料)。そのまんまである。
1945年頃から1980年頃まで米軍で支給されていたCレーションの後継にあたり、携行性や処分に難のあった缶詰主体のものから、フリーズドライとレトルトパウチによる大幅な軽量化と合理化を果たしており、重さは一食分わずか600-800g程度にまで低減された(Cレーションは一日分まとめて2.5㎏)。缶切りも不要となった。
その味の評判は芳しくない。
作戦行動に必要なカロリーと各栄養を備え、過酷な環境にも耐え得る保存性を付与することが大前提である以上、現代人の食において宗教や信条を除いて最優先される「味」なる概念は二の次にされる。戦場という極限環境において食事とは、自らに科された使命を全うし生存するための必須手段でしかないのである。知らんけど。
しかしあまりにクソ不味いと言うのは開発初期の風聞による部分もあるそうで、導入以後も改良を重ねた事で現在はそこまでひどいものではないという。とはいえメニューは24種類あるのであたり外れもあるし、普段のちゃんとした食事などとは比べるべくもないレベルだが。
Meal, Ready to eat, Individual No.15
そんなこんなで今回入手したのはMREのMENU15 Mexican style chicken stew。メキシコ風チキンシチューとかそういう感じか。
画像右側のビニールに包装されており、更にその中身も左側のようにさらに袋に包まれており、しっかり防水がなされている。特に外袋はかなり丈夫で手で引っ張った程度ではびくともしない。しかし上部の接着部分は容易に開封できるようになっており、いちいちナイフで切り開いたりする必要はない。
内袋は真空パックされている と思いきゃそこまでしっかり真空状態ではない。ただし少し古いブツなので、時間とともに空気が入ってしまった部分もあるかもしれない。こちらの袋も手で簡単に開けられる。
中身はこんな具合。
MREは色んな人が実食レポを書いているのでそっちを見た方が早いと思うが、まあ折角なので付き合ってもらう。
地味な色合いとシンプルな文字書きがいかにも軍用と言った風情を醸す。右半分の茶色い袋や箱が食品で、食べられないものは違う色に分けられている。
メキシカンスタイルチキンシチュー
メインディッシュとなるメキシカン中略シチュー。
茶色い箱の中に更にレトルトパウチが入っている構成。
箱の裏には食事を摂って栄養を取る事の意味が淡々と書かれている。とにかく食えみたいな感じではなく、淡々と理由を書いてあるところが合理主義的な米軍らしくもある。
サンタフェスタイル・ライス・アンド・ビーンズ。
主食にあたるサンタフェスタイル・ライス・アンド・ビーンズ。。
穀物とマメ科の組み合わせの食事は世界中どこにでも見られるもので、米と豆の組み合わせはでんぷんとたんぱく質を多く含み、互いの不足を補い合い、人体が合成できない必須アミノ酸を供給できるというように栄養に富んだ料理であるそうな。
ベジタブルクラッカー
読んで字のごとく野菜クラッカー。その辺の店で市販されている奴とほぼ同じもので、タマネギやニンジン、パセリなどの野菜が練り込まれている。
これだけやたらガッツリ真空パックされているのは、やはり中身の性質上湿気を特に避ける為だろうか。
チーズ・フィルド・プレッツェル
チーズ入りのプレッツェル。デザートというかおやつに相当する。
包装は地味だが、手触りは市販のスナック菓子と似た雰囲気を感じる。
チーズスプレッド・ウィズ・ハラペーニョ
ハラペーニョ入りチーズスプレッド。
上述のベジタブルクラッカーにつけて食べる為のもの。日本の感覚だとクラッカー二枚に対して明らかに量が多い(43g)のだが、これもアメリカ式という奴か。
メニューや時期によってはピーナッツパターやジャムだったりもするそうな。ただのチーズスプレッドではなくハラペーニョ入りなのがメキシカン。 印刷の仕方からどういう風に製造されているかがうかがえる。
ベバレッジ・ベースパウダー トロピカルパンチ
beverageは水以外の飲み物のことで、紅茶やコーヒー、清涼飲料、酒類などのこと。MREのこれは主にジュース類で、水に溶かして作る。
ちゃんと作り方も書いてくれているが、水の量などは当然の如くヤード・ポンド法。米軍用品だからね。
グラウンド・レッドペッパー
レーションには調味料がいくつか入っており、味付けを変えられる。
毎日似たようなものを食わされる兵士への配慮か、味がどうしようもないのを承知した上での気付けか。涙ぐましい努力だと思う。
M&M`S ミルクチョコレート
地味ーな袋の山の中で一際異彩を放つM&M`Sのチョコレート。
誤梱包か? と思いきゃちゃんとこういう仕様。疲れを癒すデザートこそ食べなれた味をという奴か。メニューによってはエナジーバーだったりするとか。
現代のレーションはほとんどが民間企業で製造されており、保存性能や栄養バランスなど必要な部分が軍需用に調整されている他は、そこまで特別な技術が使われている事はあんまり無いらしい。昔のように国や政府に技術が集約されいるわけではなく、むしろ民間の方にこそ優れた専門的な技術が溢れたりしているのである。
ちなみにM&M`Sはもともとアメリカ陸軍兵士の「口の中で溶けて、手で溶けないチョコレートが欲しい」という要望から生まれたもの。南太平洋では暑さで溶けてしまってテンションがダダ下がりするという事で、砂糖菓子でコーティングしたこいつが生まれた。
NASAのSTS-1にも積み込まれたすごい奴だったりする。
スプーン
曲がっていない。
全国14万8千人の自衛官を苦しめる「熱でグニャグニャ曲がったスプーン」ではなく、ちゃんとまっすぐなスプーン。もっとも、自衛官のそれは無理矢理パッキングされている事より、袋ごと湯煎するせいで曲がってしまっている部分もあるらしいが。
MREはパウチに入った状態のまま食べることを想定しているため、スプーンの柄が少し長く設計されている。現実の戦場にお上品な食器なんてものは無いのである。
アクセサリー
他にもこまごまとした物が透明な袋に一まとめにされている。これもいくつか種類があるが基本的にどのメニューにも共通して入っている。
画像の上段左から、ウェットティッシュ、ティッシュ、ブックマッチ(紙マッチ)、インスタントコーヒー。下段左から、ガム、砂糖、塩、コーヒークリーム。
レーションとは本来、配給品という意味で、こういった物品も含まれている。濡れタオルは土や遺体に触れる機会の多い戦場では大事な衛生用品。
昔はこういった支給品にはタバコなどがつきものだったが、時代の流れと言うべきか、健康のために煙草は除かれるようになった。
フレイムレス・レーション・ヒーター
Flameless Ration Heater FRH。
マグネシウムの酸化還元反応によって発熱し、レーションを加熱するための装置。中の白い袋の中に粉末状のマグネシウムと少量の鉄、食塩が入っており、薄緑色の袋に水を「DO NOT OVERFILL」の線まで注ぐことでマグネシウムを酸化させ熱を発する。加熱能力はなかなかで、温めた食事から湯気が出るくらいだとか。
火を使わないので暗闇で敵に視認されるおそれが無く、後片付けなども非常に簡単であるというのがメリット。
使用時は上部の切りこみから封を切るようになっており、うっかり使用前に濡らしてしまっても中に水が入ってしまう心配はない。
ベバレッジバッグ
上述のベバレッジ・ベースパウダーやココア粉末で飲み物を作る為の袋。
コップとかではなく袋というのが何とも味気ないが、コップはかさばるので仕方がない。この中にパウダーと水を入れ、チャックをしっかり閉めた状態で振って混ぜる。
一見薄っぺらいビニールのようだが実際はかなり頑丈らしく、ちゃんと封を閉じておけば落としてもそうそう破れないし、FRHでココアを温めることが出来るよう耐熱性もあるんだとか。
実食編はまた後ほど
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