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司法試験平成20年(著作権)答案作成

 第1 設問1
  乙書籍に掲載された15編の小説(以下「本件小説」)は言語の著作物(10条1項1号)にあたる。その著作者(2条1項2号)はこれを執筆した甲である。
 本件小説を乙書籍に掲載して出版する行為は、複製権(21条)、譲渡権(26条の2第1項)、公表権(18条1項)の侵害になりえる。また、乙が上記小説に修正を施す行為は、同一性保持権(20条1項)の侵害になりえる。
 2 複製権・譲渡権の侵害について
(1)乙の上記行為が「引用」(32条1項)にあたるならば、著作者人格権は別として(50条)、著作権の侵害が否定される。
(2)「引用」といえるためには、少なくとも、引用部分が主、被引用部分が従という関係が必要である。乙書籍は、質的・量的に見て、被引用部分である本件小説が主となっている。よって、「引用」は成立しない。
(3)したがって、複製権、譲渡権の侵害が成立する。
 3 公表権の侵害について
(1)本件小説が「まだ公表されていないもの」(18条1項)にあたるか。
(2)「公表」(4条1項)は、「発行」(3条1項)等により「公衆」(2条5項)に提示された場合に認められる。
(3)甲は、本件小説を同人誌に掲載して、中学校・高校のクラスメートに配布した。クラスメートは「特定かつ多数の者」(2条5項)といえるから、「公衆」に提示されたと言える。また、「公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物」(3条1項)が配布されたと認められるから、「発行」されたといえる。
(4)よって、本件小説は「まだ公表されていないもの」(18条1項)にあたらず、公表権の侵害は成立しない。
 4 同一性保持権の侵害について
(1)乙は、乙書籍の出版にあたり、本件小説の誤記を修正したり(①)、当時の言葉を現代の言葉に置き換えている(②)。小説で使用する言葉には作者の創意工夫が強く現れるし、誤記もその作品を印象付けるものである。よって、①および②の変更は、甲の「意に反し」(20条1項)た変更といえる。
(2)では「やむを得ないと認められる改変」(20条2項4号)にあたるか。同号は、改変を適法化する一般条項である。よって、同1号ないし3号に規定する事項に準じる程度の事由があれば、同4号を適用してよいと解する。
(3)①については、読書の便宜を図るため必要かつ適切な改変にあたるため、同1号ないし3号に規定する事項に準じる程度の事由があるといってよい。
 これに対し、②については、甲がA市に住んでいた時代の風情や、甲のA市時代の文学的才能について、読者が感得しにくくなってしまう。よって、同4号の適用は否定されるべきである。
(4)したがって、②についてのみ、同一性保持権の侵害にあたる。
 5 結論
 甲は、乙に対して、乙書籍の出版の差止請求(112条1項)、作成済みの乙書籍の廃棄請求(同2項)、名誉回復等の措置請求(115条)、損害賠償請求(114条3項、民法709条)をすることができる。

 ★乙書籍が編集著作物(12条1項)であることは設問4で触れる。これを設問1の中で認定しても、本件小説の「著作者の権利に影響を及ぼさない」(同2項)から論じる意味はあまりない?
 ★二次的著作物の場合は原著作者の権利(28条)との関係で設問1のなかで認定しておいたほうが良い?

  第2 設問2
 1 みなし侵害(113条1項2号)について

(1)丙書籍は、乙書籍の本件小説の並べ方のみを変更して、そのまま掲載したものである。乙書籍収録小説は、甲の複製権・譲渡権・同一性保持権を侵害する行為によって作成されている。そこで、丙にみなし侵害が成立するか問題となる。
(2)丙は、乙が本件小説に変更等を施したことを知らなかったのであるから、「情を知って」という要件を満たさない。よって、同一性保持権との関係でみなし侵害は成立しない。
 しかし、乙書籍が本件小説を掲載していることは把握しており、この点について「情を知って」という要件を満たす。よって、複製権・譲渡権に関してみなし侵害が成立する。
 2 結論
 甲は、丙に対して、丙書籍の出版の差止請求、作成済みの丙書籍の廃棄請求、不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる。

 第3 設問3
 1 
A市立図書館が乙書籍および丙書籍をA市民に貸し出す行為は、甲の貸与権(26条の3)、同一性保持権の侵害となるか。
 2 貸与権について
(1)非営利目的による貸与(38条4項)が問題となる。
(2)本件小説は「公表された著作物」にあたる。また、市立図書館での書籍の貸出しであるから、「営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合」にあたる。よって、非営利目的による貸与といえ、貸与権の侵害は成立しない。
 3 同一性保持権について
(1)同一性保持権のみなし侵害(113条1項2号)が成立するか。
(2)公衆に複製物を無償で貸与することは「頒布」(113条1項2号、2条1項19号)にあたる。
 しかし、A市は、乙書籍・丙書籍が著作権・著作者人格権を侵害する行為で作成されたことを知らない。よって、「情を知って」という要件を満たさず、みなし侵害は成立しない。
 4 したがって、甲は著作権・著作者人格権の侵害に基づく請求をすることができない。

 第4 設問4
 1 乙書籍は編集著作物(12条1項)にあたるか。
 乙書籍は、乙が甲の文学的才能を示すものと評価した甲の小説15編を「選択」して掲載している。また、甲が作家になった後に執筆した各小説との関連性の観点から分類して、上記15編を「配列」している。この点に乙の「創作性」が認められるから、乙書籍は編集著作物にあたり、その著作者は乙である。
 2 (1)丙書籍には上記15編がそのまま掲載されている。よって、丙は「選択」に関して複製(2条1項15号)したうえで譲渡したといえる。よって、複製権・譲渡権の侵害となる。
(2)丙は、丙書籍を出版するにあたり上記15編の並べ方を変更した。乙は創意工夫してこのような並べ方にしているから、丙の変更は乙の「意に反し」(20条1項)ている。また、客観的に見て必要性の高い改変行為といえないため、「やむを得ない改変」(同2項4号)にあたらない。よって、同一性保持性の侵害となる。
 3 したがって、乙は、丙に対して、丙書籍の出版差止請求、作成済みの乙書籍の廃棄請求、名誉(←2022/9/6 修正)回復等の措置請求、損害賠償請求をすることができる。   以上

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