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会社法 演習3(支配人)

 第1 小問1
 1 「支配人」該当性
 DがA社に対して手形金を請求するためには、手形振出しの効果がA社に帰属しなければならない。そこで、手形振出人BがA社の「支配人」(10条)にあたるか問題となる。
(1)「支配人」とは、会社に代わってその事業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限(包括的代表権)を有する者(11条1項参照)をいう。 
(2)Bは、A社E支店の支店長として、その支店に関する一切の事務を任されていた。よって、BはA社の「支配人」にあたる。
 2 「善意の第三者」該当性
 A社には「5000万円以上の手形の振出しについてはA社の代表取締役の承認を得なければならない」との本件内規がある。Bの手形振出しは本件内規に違反するが、それでもA社にその効果が帰属するか。
(1)支配人の代理権に加えた制限は、「善意の第三者」に対抗することができない(11条3項)。ここで、重過失は悪意と同視できるから、善意無重過失の第三者であれば、同項が適用される。
 また、一度でも善意無重過失の第三者が登場したら、それ以降に登場した者についてはその主観によらず代表権の制限を対抗できないと解する(絶対的構成)。なぜなら、このように解することで法律関係の早期安定化を期待できるからである。
(2)Cは、本件内規による代表権の制限について知らず、重過失があったともいえない。よって、Cは善意無重過失であるから「善意の第三者」にあたる。そして、絶対的構成により、A社はDに対しても代表権の制限を対抗できない。
 3 代表権の濫用
 しかし、Bは自己の借金を返済するために手形振出しを行っている。このような代表権の濫用においても、A社にその効果が帰属するか。
(1)Bは手形振出しに及んでいるのに対し、代表取締役の承認はなされていない。これは、表示内容に対応した内心的効果意思が欠けていると把握することができる。そこで、民法93条1項ただし書の類推適用により、相手方が代表権の制限について悪意・無過失であれば無効と解する。また、ここでも、上記の絶対的構成をとるべきである。
(2)Cは、A社の代表取締役による承認の欠缺について善意であり、過失があったという事情もない。よって、本件振出しは有効であり、絶対的構成によってCも保護される。
 3 したがって、DはA社に対して手形金を請求できる。

 第2 小問2
 1 Bが営業禁止義務(12条1項1号)、競業避止義務(同2号)に違反するか検討する。
 2 検討
(1)BはA社の許可なく営業をしているため、営業禁止義務違反は認められる。
(2)これに対して、競業避止義務違反は認められない。なぜなら、A社による和菓子の製造販売業務と、Bによる衣料品の製造販売業務は、市場での取引競合が認めず、Bの業務がA社の「事業の部類に属する取引」にあたらないからである。
 3 したがって、A社は、Bに対して、営業禁止義務に違反するとして、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条1項本文)をすると考えられる。


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