クソIRオブザイヤー2019 大賞発表!

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クソIRオブザイヤー2019の大賞を発表したいと思います。

今回は2019年12月8日からわずか2週間足らずの募集にもかかわらず、なんと56作品もの投稿が寄せられました。(ご協力くださった皆さまありがとうございました)

栄えある大賞はどこなのか!?


なお、本記事は夢中で書いていたら1.5万字をゆうに超えてしまいました笑
投稿自体のおもしろさに加えて、ユニークな委員による評がたくさん集まったためです。読みごたえはあると思うのでお楽しみください。

クソIRオブザイヤーとは?

発表の前に、クソIRオブザイヤーをご存じない方のために会の趣旨を説明させてください。

日本版コーポレートガバナンスコード、フェア・ディスクロージャー、インベスターリレーションシップ...。昨今投資家と企業との対話は年々重要度を増しています。

そしてそんな株式市場からの要求に応えようと、経営者そしてIR担当者の尽力により、毎日数えきれない数の開示資料が発表されては消えていきます。

とりわけ適時開示は無味乾燥なテキスト、統一的なフォーマットもあいまって、右から左に一瞬で流れていってしまいます。

しかしその一枚一枚には悲喜こもごも、物語があります。様々な関係者によって、幾重もの意思決定を経てきた産物が開示資料なのです。

IR資料は、良いことも悪いことも適時適切に投資家に開示をすることで期待値調整をし、資本コストを下げ、ひいては企業価値の適正化をもたらすための触媒です。

ところが中にはその本分から逸脱する開示も混じっており、ときには株式市場に混乱をもたらします。そこで、そうした株式市場の「悲哀」、すなわちIR「やっちゃった」企業の開示を集めてみようというのが本企画です。

もっとも、そう肩ひじ張らずに
「あーあったなそんなヘンテコ資料」
「このときのIR対応はひどかった笑」
「創業経営者のSNSは可燃性が高くて冷えた体が温まるなぁ」
といった気楽な感じで見ていただければ幸いです。

困難な状況に置かれた企業はこれを見て元気を出してほしいですし、
似たような境遇に陥りそうな企業は同じ轍を踏まないように参考にしてほしいですし、
損をした投資家は同じく損をした他の投資家のポエムを読んで心の洗濯をしてほしいなぁと願っています。

もちろんほとんどの企業ではIR上の失敗は起こっておりません。法令・開示要領に従って適時適切に対応されています。したがってIR全体を貶めたり批判を強める趣旨はないということを強調しておきたいです。それどころか、むしろIRは花形の職業であると強く信じています。全社一丸となって前期比10%増の売上を作るのはどの会社でもとてもチャレンジングですが、優秀なIR担当がひとり入社するだけでそれ以上の企業価値を顕在化させられ得る、それくらいインパクトのあるポジションだと信じています。
本件で少しでもIRに興味・関心を持つ人が増え、今後のさらなる市場の健全な発展に寄与できれば望外の喜びです。


なお、本オブザイヤーで対象とするIRの定義は以下になります。

決算資料のみならず、IR上のかじ取りの失敗や、期せず炎上してしまったこと、経営者によるSNSやブログでの失言なども含み、広く企業と投資家のコミュニケーション全体を指します。


選考はここまでの本旨に照らし、下記要領をよく吟味して複数名からなる選考委員が行いました。

■指定の投稿フォーマットに沿っているか(ハッシュタグ、募集期間など)
■経営者や経営判断、株価にスポットが当たるのではなく、あくまでIRのコンテキストで説明ができるか
■「ただただ面白い」ももちろん歓迎だが、そこからIRとしての姿勢や反面教師としての学びがあるとポイントが高い


企画・運営および選考は下記メンバーで実施しています。
(リンクはTwitterに飛びます)

バフェット・コード
大手町のランダムウォーカー
加瀬谷真一
上原@外銀→投資家
𝔼ℂ𝕆ℕ𝕆ℙ𝕌ℕ𝕂

部門は3つに分けました

今回フォロワーのみなさんから投稿作品を集め、選考をすすめる過程でわかったことは、クソIRと一言で言っても実に多様なカテゴリーがあるということ。

そこで今回は以下の3カテゴリーに分類してノミネート候補を出しました。

・本戦(IRがやらかした部門)
・経営者がやらかした部門
・ユニークIR部門

1が本旨のクソIRオブザイヤーです。

2は、やらかしたのがIRではなく経営者であるパターン。ただし経営者の経営判断のミスや株主軽視の姿勢が結果的にIRに表出してしまった案件を指します。経営の失敗にスポットライトが当たるのではなく、あくまでもIRの文脈で勝負している案件です。こちらは1とは区別して別部門として選出することにしました。

また、3は1にも2にも当てはまらない案件です。こちらも1や2とは区別し、別部門として選出します。

1のノミネート→1の大賞発表→1の副賞発表→2のノミネート発表→・・・→3の副賞発表という順番で進めていきます。


ちなみにノミネート作品ですが、投稿作品全体の中から選考に際して受賞にふさわしいと思われる案件を委員会が選出しました。大賞や副賞は、その中でも際立った案件を選出します。

また、別々の投稿者が同じ案件に言及している場合は日時の早かった方のツイートを採用します。ただし後から出たツイートの方が圧倒的に内容が良いと判断される場合はこの限りではありません。さらに、同じ会社でもスポットライトを当てている箇所が異なる場合には別案件として取り扱うこととします。

【ノミネート】本戦

本戦のノミネート作品は以下の10作品。投稿日時順に掲載。

■LIXIL

■イグニス

■スカラ

■福島銀行

■パナソニック

■MonotaRO

■アパマン

■ZOZO

■日産

■ブランジスタ

クソIRオブザイヤー2019大賞発表

さてそれではクソIRオブザイヤー2019大賞を発表します。

大賞に輝いたのは....



MonotaROです!

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★案件の背景

2019年7月6日、大阪府高槻市で産廃運搬会社の倉庫が燃え、4人が死傷する火災が発生した。MonotaROから事前に機械部品の洗浄用のスプレー缶約3千本が同社に持ち込まれており、火災当日はMonotaRO社員を含む4人がそのスプレー缶のガス抜きをしていたとみられる。

捜査関係者によると、モノタロウから数週間前に機械部品の洗浄用のスプレー缶約3千本が今村産業に持ち込まれ、毎週土曜日に処分していたとの情報もあり府警が調べを進めている

その後、安全対策を怠ったままスプレー缶の処分をさせて爆発を引き起こしたとしてMonotaRO本社は家宅捜索を受けた。

さて、今回ノミネート対象となったのはこの火災それ自体ではなくそのIRである。

本事件に関連してMonotaRO側が正式に文書を出したのはなんと7月25日。事件発生から実に3週間も経過したあとだった。

当時のリリース:高槻市爆発事故で被害に遭われた方々へご連絡のお願い

さらに、現在はMonotaROホームページからこのリリースへはたどり着けない。え?/root/press/のURLってどこにリンクあるの?状態。Google検索で能動的に探さない限り見つからず、インターネットデブリと化している。

■選出理由(抜粋)

事件後しばらく後にこっそり告知しただけではなく、「現在HPからたどり着けない」で極まった感ある
日本中のあらゆる現場が「安全第一」「ご安全に」の標語を掲げているのは先人の失敗、犠牲を稀有な経験とすることにある。そうした業界を主要顧客とするにも関わらず、人命軽視ととられかねない公表態度は企業価値を著しく毀損しかねない。
5つのステークホルダー(従業員、顧客、地域社会、政府、株主)のすべてをないがしろにしたとも取れる開示姿勢は大賞にふさわしい
人命被害が出ているにも関わらず、不誠実な開示を行いステークホルダーからの不信に繋がるIRを行った。現在はHPから該当のIR情報は削除されていることからも、外部からは会社の中で無かったことにしようとしている意図すら邪推してしまう
アパマンのヘヤシュ事件を上回る大規模な爆発火災を引き起こし、ステークホルダーとの信頼関係も爆破炎上させたポイントの高い一作。
某大手ブログサービスで、
『【仲間由紀恵が敵由紀恵に寝返ったらおまえらどうするの?】という有名なネタスレがあるが、敵とうまくやるために憲法が必要なのだ』
とルールの大切さを説いた人がいたが、現場の味方が自社の現場の敵になってしまった時の右往左往っぷりを見るに、仲間由紀恵が敵由紀恵になったときのルールや対策は特に考えられていなかったようだ。
人が亡くなっているにもかかわらず開示が遅れたこと、そして故意か否かは定かではないが、外形的には意図的に広まらないよう開示しているように感じられること(ニュースリリースやIRページからアクセスできない)、の2点から弁明の難しいIRだと思う
IRの性質上、開示すべき情報を遅らせる、または隠そうとするというのは悪質性が高い。不祥事はある程度早期に開示して対策まで公表するのを基本姿勢としたい

クソIRオブザイヤー2019副賞発表

さてクソIRオブザイヤー副賞の発表です。

クソIRオブザイヤー2019副賞は...



福島銀行です!

福島銀行

★案件の背景

2019年11月11日午前7時33分、日経新聞から大きなリーク報道が飛び込んできた。SBIホールディングスがその2か月前に発表した島根銀行との資本・業務提携に続き、今度は福島銀行との資本・業務提携を発表したのである。

日経報道:SBI、福島銀行に出資 資本・業務提携

1つあれば2つ目もあるはず、と次のSBIの提携先を注視してきた資本市場はこのビッグニュースに沸き立った。そして9時5分、福島銀行から公式リリースが出される。耳目の集まっていたそのリリース文を見て多くの人が目を丸くした。

本日、一部報道機関において、当行とSBIホールディングス株式会社との資本業務提携に関する報道がありましたが、当行として発表したものではございません。本件、概ね報道の通りでございますが、本日開催の取締役会に付議する予定です。決定次第、速やかにお知らせいたします。

_人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 本件、概ね報道の通りでございます <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

■選考理由(抜粋)

審議予定とはいえ事実上の決定内容を、機関決定の事実がない段階で自社サイトにお漏らしするの、フェア・ディスクロージャーの原則から許容するのは難しい。また内容も極めて簡素で、必ずしも投資家に伝わるべき本意が伝えられているとは思えない。これを赦すと福島銀だけの問題ではなく、市場全体の公平性を棄損することに繋がりかねない行為と考えられる
そもそもリークされるような内部体制から問題提起したい。リークされた時点でイエローカード一枚。ただしここまではままあること。しかし報道追認のチョンボでさらにイエローカード、併せて2枚でレッドカード
公平なディスクロージャーにより公正な価格形成を促す、というIRの本分にもとる開示。リーク記事が発生する内部情報管理体制しかり、追認するIRしかり、市場を軽視していると言わざるを得ない
報道機関による観測記事は体感で半分程度しか当たらず、そもそも情報強度が弱い。一方で、ノイズ情報であっても株価は素直に反応してしまい、市場の効率性を損ねている側面を否定できない。IRがエンカレッジされることでこうしたリーク自体が減っていって欲しいと切に願う


なお、福島銀行の開示について法的な面と開示ルールの観点からも触れておきたいのですが、少々長くなるので巻末にございます。「開示」を巡る論点整理となり示唆に富む内容かと思います。興味のある方だけそちらも読んでもらえたら幸いです。(読まなくても支障なく続きを読み進められます)


なお、副賞の選出にあたって実は福島銀と拮抗して日産が熾烈に競っていました。選考委員の中でも意見が割れるほど。

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日産については、

▲情報が流出してしまう情報管理の甘さ。事実無根だと日経報道に強弁。その後に流出情報の内容の上を行く業績下方修正リリースのオチ付きはポイント高い
▼業績予想のリークはよくあること。否定の仕方はまずいにせよ、予想が出た時には否定するのが様式美だから日産はそこまで悪質ではない


また福島銀との差についてはこのような意見も。

実に悩ましい
福島銀と悩むが、オチがある分日産の方がぶっ刺さった
福島銀行は倫理的にまずいが、報道内容の追認はもともと報道によって形成された期待株価を維持するだけ。必ずしも投資家を混乱させたわけではないため実害はさほどではないのではと思料(すなわち否決される可能性があるのなら大問題だが、実質ないという考えでのIRなら混乱は招いてない)


そのほかZOZO票もなかなかありました。

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以下、コメント抜粋。

表現の自由は最大限尊重されるべきではあるものの、だからといって取締役ないし高度な経営の意思決定に携わるポジションの者が天真爛漫にユニークな発言を展開することで株主価値を棄損する事態は戒めるべき。
また、組織高位の者のSNS上の行動規範を作り、それを関係各所に順守させるのもこれからのSNS社会でのIRの担うべき重要な役割であると考える。
新しい役割のために戸惑うのも理解ができるが、対外的なメッセージについて職責を担うのがIRであると広義にとらえることがこれからの時代には必要になってくると思われる。SNSを良い方向に活用し、これからのIRがアップデートされていくことに期待したい
彼の役職が「コーポレート・コミュニケーション室長」だったことを思えばあわせてイッポン

【ノミネート】経営者がやらかした部門

さて続きましては経営者がやらかした部門のノミネート発表です。

経営者がやらかした部門は、経営者自身の素行や意思決定上の失敗がIRに表出しちゃった案件を取り扱います。あくまで経営者や経営判断ではなく、IRのコンテキストで語ることのできる案件を選出しました。

今回のノミネートは7作品です。

■インパクトHD

■オウケイウェイブ

■JDI

■さくら総合リート

■ユニゾ

■スペースバリュー

■レッド・プラネット・ジャパン

経営者がやっちゃった部門 大賞発表

それでは経営者がやっちゃった部門の大賞発表です。

経営者がやっちゃった部門 大賞は...



スペースバリューです!

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★案件の背景

2019年2月12日、スペースバリューから「決算発表の延期のお知らせ」という寝耳に水の開示がなされた。監査人のあずさ監査法人より、マレーシア子会社における建設コスト等に係る使途の適正性等について確認せよ、それなしでは監査報告書にサインしない、と通達があったためである。急遽、特別調査委員会が設置され、調査が開始された。

3月11日、特別調査委員会での調査対象であった1件について、

当初の当社の見込みである子会社の特定の支店において実施されていたとの予測とは大きく異なり、当社の子会社において全国的規模で実施され、更にそれは支社長、支店長及び営業所長という権限者の関与のもとで組織的に実施されている実態が明らかになりつつある

ことから、調査対象を拡大する必要が生じ、第三者委員会へ発展。

192ページにわたる超大作の調査報告書により、創業家出身で代表取締役会長 兼 社長であった森岡代表は辞任に追い込まれ、さらに2名の社外取締役が定時株主総会で退任し、会計監査人の交代という結末で幕を閉じた。

報告書内では森岡代表の交遊関係、特に多数の女性との時間帯別メールの受発信履歴や女性関係などまで克明に記し、あまつさえ図表化までして報告する必要があったのかという話題が出るなど、なにかと取り沙汰されることとなった。

報告書自体も読みごたえがあり、ときに辛辣、ときに表現に苦労したっぽい箇所、そして調査妨害に対する調査員の苦悩などが読み取れる。

森岡代表には、上場企業のトップとしての自覚に欠け、内部統制に関する問題意識が著しく低いと評価せざるを得ない。接待交際、反社会的勢力ないし密接交際者との交遊、クラブでの破廉恥行為などの状況も不見識であり、社員や株主に対する責任という観点が欠落している。
当委員会の想定を超える新たな問題―経営トップにかかる問題―が明らかになった。山下町案件における事実上の粉飾指示問題や、複数の執行役員の任命責任のほか、理性の箍が外れているともいい得る夜の課外活動―経営トップの交際・交「遊」問題、接待交際費等の私的流用問題、東京本社の地下バーなる不適切施設設置問題に加えて、資産管理会社利益相反取引等問題、他の役員への暴力行為など数多く発見ないし認識するに至り、経営トップにおいては、規範意識が著しく鈍磨している、公私混同をしていると評価せざるを得なかった。

>理性の箍が外れているともいい得る夜の課外活動ぇ...

経営トップはそのヒアリングの席上、「地方銀行の経営側からの指摘があっ
た」旨を添えつつ、「金融機関側からの説明として、当委員会の公正性中立性や選任経緯について、疑義が呈されている。当委員会が経営トップの首を取ろうとしていることを問題視している。」といった伝聞的な発言を当委員会に対して行った(地方銀行の経営側が、そのような話を経営トップにしたとは俄かにはおよそ信じがたいが、敢えて裏取りはしない。)。

>敢えて裏取りはしない(怒


また、本件を契機としてあずさ監査法人は同社の監査人を退任した。退任理由は下記の通りだ。

当該再発防止策の実行途上の状況では、相当な監査工数の増加が見込まれ、監査人員の確保に不確実性が伴うことから、契約更新を差し控えたい

なるほど至極もっともだ。だが下記の通り第三者報告書にて監査人としての職業的懐疑心の不足等を厳しく指摘されており、心が折れてしまったのかもしれない(そんなことはない)。

また、過年度の不適切会計をあずさ監査法人において、資料の確認やヒアリングを十分に行わず、企業環境の理解が不十分なままにリスク評価を行った点は、職業的懐疑心が欠けていると評価せざるを得ず、NBK において不適切な会計処理が行われていることに気付き得る契機が多分にあったにもかかわらず、その機会を逸していたと評価せざるを得ない。

■選出理由(抜粋)

反社や女性関係は経営者による会社の私物化の結果ということで経営適正を問われる内容であり、またそれが第三者報告書で赤裸々に描かれたという点ですごくセクシーな案件。女性への時間帯別メール送信数のグラフ化や、10名にものぼる女性へのヒアリング結果などを掲出するのは実にクリエイティビティを求められるタスクで、若手弁護士がノリノリで書いているさまが想像に難くない
公私混同の放埓ぶりもさることながら、時間帯別メール送信数等、読んでいて変な笑いが出る図表のポイントが高い
会社の私物化はもちろん悪質だが、こんな意味のわからないグラフを作らされた担当者に心底同情する。黒塗りのマスキングが外されたのは、不快なグラフを作らされた担当者のせめてもの反撃だと考えてもお釣りが出る
本第三者委員会等の調査費用が総計324百万円であったことに鑑みると、ここまで真面目に経営してたら浮いたであろうこの調査費用で自分以外に会員のいない会員制バーでも開業して自由によろしくやっていれば良かったのではないかと思うと涙なしには読むことができない

経営者がやっちゃった部門 副賞発表

では続いて副賞です!

副賞に輝いたのは...



オウケイウェイブです!

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★案件の背景

2019年10月7日、オウケイウェイブは、同じく東証に上場しているビートHD(旧:新華ファイナンス)のレンCEOから、同氏が保有する同社株式のすべて(3.16%)を取得すると発表。

ビート社は、香港に事業本部を構えシンガポール等に子会社を有する企業である。同社は、所有する知的財産権及びブロックチェーン技術に基づいたアプリケーション開発等の事業を行っている。

市場をざわつかせたのはその取得価格。リリース当時のビートの株価を振り返ってみると、東証2部にてリリースが出るまでの直前1か月の終値平均は83円、前営業日終値(10月4日)は95円であった。

ではオウケイウェイブはそれをいったいいくらで買ったのか。

リリースによると総額で15億円。1株あたりでなんと1,814円で取得するという内容だった。労せず市場で買える金額のなぜか10倍以上の金額で取得する、という前代未聞の内容であった。

■選出理由(抜粋)

そもそもの内容が悪質。差止請求の仮処分申立したら通るんじゃないかと思う
株価83円の会社を買うのに、比率は大きくないとはいえ1,800円以上出すのはあかん
株価83円の会社を買うのに1,800円以上も支払うのはさすがに裏に何かあるんじゃないかと疑ってしまう。これほど異常値なプレミアムをシレっと開示してくるあたりがポイント高かった
IR的にダメかというとやや議論の余地はあるが、とはいえ平気で平均100円以下で買えるものを10倍以上の価格で買うなどと開示できるツラの厚さを亀の子たわしでゴシゴシしたい
いっそのこと「181円と間違えた」とかIRで言って欲しかった
この価格での買取は流石に法外。エースターはいったいどんな算定をしたのか...
フェアネスオピニオンなんて「一応とっとくか」くらいのテンションで取得するやつなので、クオリティはお察し。受託側も大してお金にならないので深いインプリとかない。依頼側も「こういう数字になるようにしてほしい」って暗に伝えることもあるが、受託側にそれを否定するインセンティブが働きづらいので「独自に算出したらこうなりました。たまたま御社の言うレンジに収まってますね(ニッコリ」って感じになる。で、そういう空気の読めない業者があったとしてもそんなの切って、言うこと聞く、つまり案件に困っててNOって言わない業者を使うだけなので無名コンサルが挙がってくる。でもそれがエースターだとは思わない、ホントだって
第三者からオピニオンとったとはいえ、アナリスト説明会や株主総会で根拠を聞かれるはず。どう答えるのか気になって夜も9時間ほどしか眠れない。権利確定日だけ株主になりたい


そのほか、惜しくも賞を逃しましたが熾烈な争いをした各社の選考委員のコメントを抜粋します。

■ユニゾ

企業価値向上を唱える伊藤レポートに真っ向から中指立てて、ひたすら保身に走る経営陣が、複数提案受けた瞬間に上から目線になるあたり、オタサーの姫みを感じる

■レッドプラネットジャパン

「300%までなら許されるんだよ!」と言わんばかりの超絶希薄化、親会社からの事業譲渡、代取親族に優先株割当等々、ガバナンス上の懸念を具現化して余りある
重大な背信行為さでいけばスペースバリューやユニゾもさることながら、レッドプラネットジャパンもラスボス感ある。いくらなんでも80%超の希薄化はあかん

■インパクトHD

インド事業の闇と、事前に経営者が自社株売り抜けてた点でポイント高い
ビジネスにリスクはつきものとはいえ、資金を持ち逃げされ、あまつさえ借金を返済してからの不審死は、横溝正史が存命なら、これをモデルに長編ミステリを一本書いたのではと思わせる闇の深さ。事前にインパクトHDの経営者が自社株を売り抜けていたことや、シッダールタ会長の死をいともあっさりと片付けてしまう福井社長のサイコパスっぷりも加点要素。最後はアリアに監査法人交替して限定付き適正意見をもらう等と、ウォッチャー的に至れり尽くせりで高い満腹感を得られる
資金を持ち逃げした人(シッダールタ会長)はなぜか自分の事業の借金を返済して自殺。スッテンテンだ、もう死ぬしかない!みたいな人間がどう考えても借金返さないだろ闇深

【ノミネート】ユニークIR部門

では最後にユニークIR部門です。

ユニークIR部門は、本戦や経営者がやっちゃった系には分類できないものをすべてまとめて、そこからきらりと光る案件を表彰しようというそういう部門です。

ノミネートは全部で5作品。

■ソリトンシステムズ

■リソー教育

■中央可鍛工業

■すららネット

■テンポスHD

ユニークIR部門 大賞発表

ではユニークIR部門の大賞発表です!

ユニークIR部門 大賞は...



ソリトンシステムズです!

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もう満場一致でした笑

★案件の背景

2019年2年14日、ソリトンシステムズから発表された短信に市場がざわついた。

異変があったのは「経営成績等の概況」である。

いつの時代も、熟慮と慎重さに欠けた人間が、本気と思えないセリフを発し、そのセリフは何故か光り輝く日の出のように聞こえ、賛同する叫びの渦をもたらします。ここで思考停止が始まり、何十年もかけて人間が学んだこ
とから一挙に逆戻り、Regressの世を出現させます。英国のEU脱退、米国のAmerica Firstがその例でしょう。
この事態が企業経営にどの程度のインパクトで現れるか、当社のITセキュリティや映像技術ベースのビジネスには未だ影響は出ていません。
AIや地球スケールの高度なネットワークと情報網、つまり、サイエンスとIT技術が融合して今、人間の存在そのものに、課題を突きつけた人類史上初の時代です。我々は極めてユニークな時に生きていることを強く認識せざる
を得ないのです。
このような環境下、(略)

なんというか、そう。その、とっても、ポエミー...なのである。

ソリトンと言えば

インテル社に在籍した鎌田信夫(現社長)が、その関連業務や応用研究活動で知り合ったジャーナリスト、大学教授、メーカーの研究員など、11人の博士を含む37人の出資により設立されました。

という、どちらかと言わなくともお堅いイメージの企業である。社長も質実剛健、実に真面目そうな方である。

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市場参加者もなにかの間違いではないかと次第に冷静さを取り戻し、ほとぼとりの冷めだした3か月後の5月に出た短信がこう。

(1)経営成績に関する説明
言うまでもない。もの造りであれ、サービスであれ、ビジネスにも一定のdignity(品格)が求められます。国家も同様なはずです。エゴがぶつかりあい、世界経済を不安に陥れかねないのが、昨今の世界情勢です。
IT Security、特にサイバーセキュリティは、(体温のある人間でないが)したたかに人間臭い相手を追い詰める仕事です。こちら、ふーっふーと息しながら、我慢して取り組むのです。奇妙な時代、そして役割です。円(Circle)を計算するとき、必ずπと言う数字が出てくる宇宙の真理に出くわした時の驚きと感動とはまさに真逆の時間なのです。
ビジネスは、温もりのある人間がやるから面白いのでしょう。その時代が、IT技術のさらなる円熟によって到来すると予想されます。
当社の主たるビジネスであるセキュリティ分野では、ご存知のとおり、世界的にサイバー攻撃の頻度が増し、高度化、大規模化も進み、セキュリティの脅威に対する専門サービスの需要が拡大しつつあります。
このような環境下、(略)

もう確信犯である。

なお、異変が起こった前四半期の短信がこう。

(1)経営成績に関する説明
当第3四半期連結累計期間について、国内は、大型台風や豪雨、地震の災害がありましたが、良好な企業収益や雇用環境の改善による堅調な個人消費等により、緩やかな回復基調を維持しております。海外は、米中の保護主義的な通商政策による貿易摩擦で、景気の下振れリスクが高まり、先行きの不透明感が増しております。
当社の主たるビジネスであるセキュリティ分野では、働き方改革の導入もありネットワークの複雑化、利用機器の多様化が進み、情報管理が一段と難しくなってきております。同時にサイバー攻撃も高度化しており、これらをカバーするセキュリティ対策にも高度化・専門化が加速度的に求められており、通常の民間企業では運用/管理、障害発生時の対応に限界を迎え、「物の販売」から「サービスの提供」への要望が増加するパラダイムシフトが起きております。

極めて普通の開示なのである。いったいどのような心境の変化があったのか。

ちなみにこうしたユニークな開示方針はその後の8月と11月(最新)にも継続している。

■選出理由(抜粋)

無味乾燥な短信砂漠に放り込まれた一握のオアシス。ユニークな感性で以って、一生懸命現状を株主に表現しようという心意気に感銘を受けました。ポエムになったのは努力の方向音痴なだけ。願わくば、属人的な体制に依存して文才がいなくなったあとの後釜がいない、なんていう悲しいことにだけはならなければ良いなぁ
マンネリを打破せんとする独特すぎるセンスと筆致、やけに壮大な世界観、なのに業績は凡庸と、笑いどころが多い。これは語るのは野暮ですね。読めばわかる
短信の説明でこんなオリジナリティ出してる会社は他に見たことないです。社長の想い(?)が伝わってくるとってもユニークな短信
デファクトスタンダードな開示例から積極的にはみ出して自分の言葉に置き換えたところを称賛したい

ユニークIR部門 副賞発表

それでは本当に最後、ユニークIR部門の副賞発表です!

ユニークIR部門の副賞は...



テンポスHDです!

テンポス

★案件の背景

2019年12月10日、テンポスホールディングスから「2020年4月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」が発表された。しかし一部金額表記に誤りがあったため訂正リリースを出す。

そのタイトルがこちら。

(訂正・数値データ訂正) 「2020年4月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について

しかしなんとこちらの訂正書でも誤記が。本文中で「訂正後」と書きたかったところを「訂正前」と記載してしまったために訂正書の訂正書を出す事態に。

そのタイトルがこちら。

(再訂正)「(訂正・数値データ訂正) 「2020年4月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について」の一部訂正について

本文でも訂正の文字が躍る躍る。その本文がこちら。

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■選出理由(抜粋)

純粋に面白い
お前は懐かしのゲーメストか!?と言いたくなるような誤植
声に出して読みたい適時開示2019にもノミネートしたい
わずか255文字の簡潔な本文の中に「訂正」の文字を贅沢に20個もちりばめている。その技術力やハイレベルな構成の素晴らしさはもちろんのこと、息の上がる後半にも難しい「訂正」を盛り込むことに成功した点は特筆に値する。開示クラスタ界隈でも歴代最高得点と呼び声高い
1秒ごとに世界線を越えてちゃんとした適時開示を出せたβ世界線に飛んで欲しい

まとめ

ということでクソIRオブザイヤー2019の受賞作品の発表でした。

まとめますと、

クソIRオブザイヤー2019大賞:MonotaRO
クソIRオブザイヤー2019副賞:福島銀行
経営者がやっちゃった部門 大賞:スペースバリュー
経営者がやっちゃった部門 副賞:オウケイウェイブ
ユニークIR部門 大賞:ソリトンシステムズ
ユニークIR部門 副賞:テンポスホールディングス

でした!
※社名のところをバフェット・コードへのリンクにしていますので、もし案件前後の株価の推移などをご覧になりたい場合はご参照ください。


今回の選考は、一部を除いて本当に熾烈な争いでした。相対評価をする中で論点を言語化することができて私たち委員の理解も強化されましたし、読者の皆様におかれましてもそうであったならば企画した甲斐があったなぁと思います。

企画が企画なので、ノミネート作品におかれましては個社名を(それもネガティブな方向で)挙げてしまいました。挙がった案件は時間も資金も人手も限られる中で、どうにか最善手を模索された結果だったかもしれません。また一個人ではどうしようもない外圧によってやむにやまれず意思決定をした案件だったかもしれません。

願わくばただの批判的論旨として受け止められるのではなく、教訓として本事案からの学びをくみ取っていただけたら望外の喜びです。

また、極力公表事実に基づいて公平・公正なコンテンツになるよう努めておりますが、関係各所の皆様にはご不快な思いをさせてしまう表現があることも否定できず、この場を借りてお詫び申し上げます。

なお本企画についてのご質問等や、掲載内容に事実と異なる記載がある場合などは、本noteを通じてご連絡いただけますと幸甚に存じます。

Appendix

ここからは、クソIRオブザイヤー2019で副賞に輝いた福島銀行の開示について、もう一段掘り下げて考察したいと思います。法的な面と開示ルールの観点からも触れておきたいと思います。

「開示」を巡る論点整理となり示唆に富む内容となりますが、2,500文字ほどのボリューミーな感じになってしまいました笑

【法的な論点】
・リーク時点で福島銀行は法的な開示義務を負っていたか?
・開示の方法として自社サイトは妥当だったか?
・追認するという開示内容は妥当だったか?

【結論】

・東証の適時開示の観点からは要件には当たらず、追認のプレスリリースは福島銀行の経営判断だったと整理できる
・フェア・ディスクロージャールール(FDルール)の観点だと、「資本業務提携」の事実に関して公表義務を負っていた可能性が残る。そしてFDルール上の開示義務があった場合には、開示の方法としては自社HPでの開示も許容される
・追認内容については適切だったか疑問が残る

【理由】

★東証適時開示ルールの観点

まず、リーク時点で「決定事実」(機関決定がない)とはなっていないので、東証の適時開示対象には当たらない。そして、東証は「適時開示」に該当しない開示申請がTDnetでなされた場合、「PRでやってください」と取り下げを求める運用もある。したがって「適時開示」の観点からすると、「資本業務提携」の事実についてコメントするかどうかは福島銀行の経営判断だったと言える。またその方法については、リーク時点での東証とのコミュニケーションで適時開示ではなくPRとして出すという結論となり、自社HPでの開示を選択した可能性がある。

もっとも、適時開示に当たらない場合でも内容に重要性が認められる場合にはTDnetでの開示を東証から要求されるケースはあり、本件もそうであった蓋然性が低くはない。なにせ資本提携が絡んでいるのだ。福島銀行が東証に相談をしたか否かは重要であるが、それは当事者にしかわからない。相談した上でのPRだったならまったく問題はないが、そうではないとしたら自社サイトのみでの開示を選択したのは拙速だったと評価されても不思議はない。


★金商法FDルールの観点

適時開示とは別に、リーク時点でFDルールの適用があったか否かについても整理したい。

✓FDルールの概要

a. 発行者が、b. 重要情報を、c. 取引関係者に、d. 伝達する場合、e. 意図的な場合は同時に、f. 意図的でない場合は速やかに、g. 公表しなければならない。

可能性としては、以下のパターンが考えられる。

A 福島銀行が、投資家等の第三者に意図的に伝達し、公表をしていなかったが、何らかの形でリークしたケース

➡︎この場合は、そもそも伝達時点で公表しなければならない。リーク時点よりも前にFDルール違反になっているためそもそも法的にアウト。ただし、投資家等に守秘義務を負わせる形で伝達した場合は、公表の必要はない。
守秘義務を負った投資家等が守秘義務に違反して伝達してしまった場合は、以下のBと同様のルール。

B 福島銀行が、投資家等に意図的ではなく伝達をしていたが、何らかの形でリークしたケース

➡︎この場合は、伝達したことがわかった時点で公表をすれば良いので、少なくともFDルールの適用としては速やかに「公表」したと言い得る。
また、公表内容も伝達した内容と同程度のものであれば問題ない。
なお、FDルールにおける「公表」は、インサイダー解除の「公表」とは異なり、自社HPでも良いとされている。
もっとも、「意図的ではなく伝達される」ということはただのチョンボである。電話口でうっかり言っちゃった、漏らしちゃった、リップサービスでほのめかしちゃった、そんなところだと推察できる。情報統制がずさんだと評価されるケースである。

C 福島銀行以外の第三者(例えばSBIの担当者)が、投資家等に伝達してしまっており、そこ経由でリークしたケース

➡︎この場合は、福島銀行としては残念ながら貰い事故の形になる。FDルール上は公表の必要はない。仮に漏洩者がSBIだったと仮定しよう。SBIはFDルールに則り公表をしなくてはならなくなる。しかしSBI側としては、SBIの自社サイトにはプレスリリースが載るが福島銀行の自社サイトにはプレスリリースが載らないなんてことになると公平性を欠くため、その事態は避けたいと考えるはず。そうなるとSBI担当からせっつかれて福島銀行が「追認」に至った可能性は否定できない。公表の内容としてはSBIと平仄を合わせることになるため、どこまで内容を出すべきだったのかは外部からはうかがい知れない。

D 日経がお漏らし報道してしまったケース
すなわち、SBI・福島銀行・日経間で事前に開示について何らかの握りがなされていたが、コミュニケーションがうまく行かず報道が先走ったケース

➡︎日経にお土産を渡すことで報道をソフトにコントロールするということは存在する。もし仮に本件がSBIによるリークで、「今後の一連の地銀のグループ化について他紙より先んじて情報をリークする。ただし報道解禁は機関決定から適時開示までの間にしてくれ」みたいな握りがあったが、日経担当者が功を焦って機関決定前にお漏らし報道してしまったケースなどである。この場合は日経の脇の甘さに加えて3社間での情報管理に疑義が生じる。会社側の対応は基本的に前述Cと同じ。


★まとめ(と追認の是非)

以上みてきたように、Aのケースでない限りは、本件はリークに対する開示上の法的な議論はないと考えられる。

もっとも、BやCやDの場合には開示内容に議論の余地が残る。無事決議される見通しが相応に高かったのだろうし、実際にも無事に可決されたから良かったものの、とはいえ正式な機関決定のないものを追認しちゃって良いんだっけという話がある。

リーク時点で期待感から株価は形成され、万が一にも否決される可能性がゼロではないものについて概ね事実と追認することでさらに株価が動き、もしも否決された時にはまた株価が大きく動くため、安易な追認は不要に市場を混乱させることに繋がる。

一般にはリークに対して「現時点でそのような機関決定の事実はない」や「報道が出たが当社が発表したものではない」や「発表すべき事実が生じたら公表する」などと出すことが多く、それ以上は語らない。それが通例として採用されている背景には、不要な市場の混乱を生まないようにという配慮からだと考えられる。

もしも報道内容とまったく同じリークだったのだとしたらもう「報道の通りです」って出すしかないが、それにしたってもうちょっと丁寧なコミュニケーションをプレスリリース上で表現して欲しかったなぁと切に願う。

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