フレンチ・ディフェンス③ 3. Nc3〜ルビンシュタイン・バリエーション(3. ... de)〜フォート・ノックス・バリエーション

 イオリです。
 この記事では1. e4 e6 2. d4 d5 3. Nc3から始まるラインの分岐の続きを解説していきます。

 前々回の記事で見てきたように、3. Nc3 Nf6はクラシカル・バリエーションというのでした。

(参考図1:Classical variationは3. ... Nf6まで)

 そして、前回は3. Nc3 Bb4を見ましたね。これはワイナウアー・バリエーションと呼ぶ、と言いました。

(参考図2:Winawer variationは3. ... Bb4まで)


 本稿では(3) 3. Nc3 deより始まるラインと、黒の3手目のそれ以外の選択肢について、一緒に見ていければと思います。

(基本図:3. Nc3まで)

 基本図までの手順:1. e4 e6 2. d4 d5 3. Nc3
 この図もだんだん見慣れてきましたね、そんなことはありませんか?フレンチは曲者なので敬遠されることも多く、また初学者向きではないと断ぜられることも多いオープニングですが、黒を持って白に色々と細かい技を繰り出すことができる妙味があり、また後手を引いた時の駆け引きの幅を広げるという点でも、非常に学びの多いラインであると思っています。私は初学者の時こそフレンチを学ぶべき、とすら思いますね。なぜなら、始めてすぐのときにぶち当たる壁が「黒番で何をすればわからない」だからです。その体系的かつ明瞭な答えと、考え方の道筋をフレンチ・ディフェンスの歴史は示してくれるでしょう。

 早速いきましょう。

(図1:3. ... deまで)

 図1までの手順:基本図より3. ... de
 白がe4にナイトを利かせましたが、黒はブレずにdeと取り込みます。この手から始まるラインをAkiba Rubinsteinの名を頂いてルビンシュタイン・バリエーション(Rubinstein variation)と言います。RubinsteinもSzymon Winawerと同じくポーランドのプレイヤーですが、これはフレンチ・ディフェンスですよ。

(図2:4. Nxe4まで)

 図2までの手順:図1より4. Nxe4
 これを取ってNxe4と使うのはほぼ必須でしょう。これで白はeファイルを、黒はdファイルをセミ・オープンとしました。

(図3:5. ... Ngf6まで)

 図3までの手順:図2より4. ... Nd7 5. Nf3 Ngf6
 ルビンシュタインで歴史的に最も支持されてきたのはこの4. ... Nd7のラインです。Nd7〜Nf6と使ってgポーンを崩さずにナイト交換に持ち込みつつキングサイドを開ける順ですね。

(図4:6. ... Nxf6まで)

 図4までの手順:図3より6. Nxf6+ Nxf6
 白は盤面を落ち着かせ伸び伸びと駒組みをする余地を手に入れましたが、黒としては効果的にc7ポーンを突くことで嫌味を生み出していきたい局面です。

(図5:7. Bd3まで)

 図5までの手順:図4より7. Bd3
 白はセオリー通りにBd3と白マスビショップを使いながら0-0を用意しました。

(図6:7. ... c5)

 図6までの手順:図5より7. ... c5
 Bookで最多なのはここでもうc5を突いてしまう手順だと思います。個人的には私はこの順が好きではないのですが、その辺りは後述しようかと思います。手代わりも色々考えられる局面で、0-0を用意しながらBg5のような手に備えておく7. ... Be7や、c5をよりソリッドにするための7. ... b6など、工夫のしどころでしょう。

(図7:8. ... Bxc5まで)

 図7までの手順:図6より8. dc Bxc5
 現局面の白の選択としては8. dcと清算しておく手が多いですが、黒が手順に黒マスビショップを使えるので、嫌なら替えて8. Be3のような手も考えられます。

 4. ... Nd7の過去の対戦数は多いですが、ルビンシュタインでホットなのは下に示すように、替えて4. ... Bd7と使う手です。

(図8:4. ... Bd7まで)

 図8までの手順:図2より4. ... Bd7
 フレンチを選択する黒は初手に1. ... e6と突いたせいで白マスビショップの働きが悪く、そのためにWinawerなどでは白からQg4と好位置にクイーンを張る攻め筋が生じていましたね。

 この4. ... Bd7は次にBc6と手を続けて、早々に働きの悪い白マスビショップも活用していこうという趣旨です。

(図9:5. ... Bc6まで)

 図9までの手順:図8より5. Nf3 Bc6
 白を持っては難攻不落の布陣、ということで装甲部隊本部を有する米国の陸軍基地の名にちなみ、このラインはフォート・ノックス・バリエーション(Fort Knox variation)と呼ばれています。このアイデアは1902年のCapablancaのプレイを礎とするもので、黒の標榜する守備配置の一例はBd7〜Bc6〜Nbd7〜Ngf6〜Be7〜0−0という流れです。ピースの連結が非常に良いので黒陣の理想形はとても堅固なものとなりますね。私は時々黒を持ったらフレンチを指しますが、そのサブ・ウェポンにしています。

 黒5手目のBc6は3. ... deで釣り出してきたナイトに当てた先手になっている、というのもこの進出の即妙なところですし、任意のタイミングで黒からエクスチェンジを仕掛け、テンポを失うことなくcポーンが突き出せるのも良いですね。cを突くのはフレンチの黒の宿願ですから。
 手損を耐えて6. Ned2と躱すことをよしとするかはプレイヤー次第ではありますが、ここではキャスリングを用意しつつe4に利きを足す6. Bd3を見てみましょう。

(図10:6. Bd3まで)

 図10までの手順:図9より6. Bd3
 実際この局面になれば、この手を選ぶプレイヤーが多いです。6. ... Bxe4という手も数年前までは時々見ましたが、2手かけて出してきた白マスビショップをわざわざここで切ってしまうメリットがあるかと考えれば、すぐに清算する必要性もないので先の理想形を目指し6. ... Nd7とする方が勝るでしょう。

(図11:7. ... Ngf6)

 図11までの手順:図10より7. 0-0 Ngf6
 白が7手目にキャスリングをする順はこの進行では根強い人気があります。この瞬間、黒から7. ... Ngf6という手が来るのですが。

 これを8. Nxf6+と取る手は8. ... Qxf6と流れで黒にQを使わせながら0-0-0まで許し、あまつさえd4のポーン及びf3の地点への重圧までかかるとあって白としては代わりがあるなら自ずから進んでやりたくない手には思います。

(図12:8. ... Qxf6まで)

 図12までの手順:図11より8. Nxf6+ Qxf6
 このタイミングなら、次にBxf3とB-Nのエクスチェンジを仕掛けても良いですね。なぜならBxf3はB-Nのエクスチェンジをしながら白のクイーンを攻める手だからです。9. ... Bxf3を10. gfと取るようでは、白陣は自在な構築を諦めたも同然です。fファイルに出来るダブルポーンが重く、f3にあってはクイーンの、f4にあっては黒マスビショップの進路を阻害するだけでなく、キャスリングを済ませたキングの天井が吹っ飛んでいることで黒からいつでも縦の利きを活かしたチェックが入る危険に晒される羽目になります。

 なので9. ... Bxf3は10. Qxf3とクイーンで取ることを強いられますが、10. Qxf3 Qxf3 11. gfとどのみち白は宮殿の天井を吹き飛ばされますし、クイーン同士が早々に退場して戦力差が縮まるため、0-0-0を見せている黒サイドへの攻め手が少なく黒がやりやすい形だと思います。

 チェスは白番の方が圧倒的に有利で、白と黒の勝率は統計の取り方にもよるでしょうが4:3、上位になれば5:3ほどになるでしょう。とすると黒を引いた時点で負けない、つまりドローを目指しあわよくば勝ちに行く、というスタンスは決して間違いではないわけです。ゆえに戦力差を縮め、アプローチの少ない状態に持っていき、白が功を焦って来れば冷静に刺しに行ける、という点でフォート・ノックスは極めて合理的な作戦と言えるでしょう。

 なので図12からの白の継続手としては9. Be2とビショップを引きながらd4に女王の庇護を与えるものが考えられますが、そもそも8. Nxf6+が理に適っていないムーブと言えます。

 フォート・ノックスは堅さと柔軟性を併せ持っているのが特徴で、対策を知らない白に苦戦を強いる非常に良い黒番の戦法だと思います。では白を持って相手がフォート・ノックスを志向してきたらどうすれば良いのか、それが皆さんの気になるところでしょう。
 黒番でフォート・ノックスを採用する研究をしていて、末恐ろしい手だと思ったものがひとつあるので、勿体ぶらずにご紹介しましょう。背景の研究はもはや初学者用ではありませんと断言しておきますが、その考察は詳述いたしますし、洗練され始めたラインを駆使することは勝率を上げ、チェスをプレイすることの喜びにつながるものと確信しています。

(図13:6. Neg5まで)

 図13までの手順:図9より6. Neg5

 白は6手目にNeg5とナイトを使ってf7を攻めます。これは黒にとって脅威的な手です。逆にいうと目下のところ、これが黒を持っていなせればフォート・ノックスを採用する利は潰されないのではないか、と思いますが、研究と対策は日進月歩なのでどうなることやら。
 6. ... Bxf3はフォート・ノックスの理念に則した自然な手に見えますが、7. Qxf3とされるとf7に余計にピースの利きを足されたようになり黒不満です。

(図14:7. Qxf3まで)

 図14までの手順:図13より6. ... Bxf3 7. Qxf3
 Qf3は黒のf7に利いているだけでなく、Qxb7の脅威も残しており、これに同時に対応するには黒は白の目を盗んで2回ピースを動かす必要があります。8. Qxf7+のK、Q、R責め欲張りセットが黒としては地獄のお子様ランチなので7. ... Nf6は必須ですが1回しかピースを動かせないようでは8. Qxb7を止められませんね。

 不用意に出てきた感のあるNeg5を責めて追い返し、あわよくば手得しようというアイデアはどうでしょう?例えば6. ... h6は手軽ですね。

(図15:6. ... h6まで)

 図15までの手順:図13より6. ... h6
 結論から述べると、黒の取り得る選択肢の中でも最悪のムーブのひとつです。しかしこの手が招く災厄の帰結をお見せすることこそ、白の6. Neg5の狙いの優秀さを示すことになると思うので、お付き合いください。
 白の継続手は容赦ないナイト・サクリファイス、7. Nxf7です。

(図16:7. Nxh7まで)

 図16までの手順:7. Nxh7!
 このナイト・サクリファイスが6. Neg5を採用してきた白の最も厄介な攻め筋ですので、ゴキブリを見て「飛ばれたら嫌だな」と思うのと同じくらい念頭に置いておいて欲しいところです。
 この手はただ捨てに見えますが、QとRの両取りなので黒には7. ... Kxh7しかありません。しかしすぐに8. Ne5+のチェックが跳んでくるのですね。

(図17:8. Ne5+まで)

 図17までの手順:7. ... Kxh7 8. Ne5+
 将棋には「三手一組」という、手を考えるときの基本となる概念がありますが、Nxf7 Kxf7 Ne5+はまさしく一組の3ムーブそのものでしょう。幾度となくこのトリアスが以後陰に陽に出現するので肝臓に緑の焔で刻みつけて置いてください。このNe5の特筆すべきところは、不可避のチェックでありながらd7〜c6と使ってきた白マスビショップを責めており、つまるところこれが成功するなら初手e6で動きが悪くなってしまう白マスビショップを効率的に使おう、というフォート・ノックス・バリエーションそのものが全否定されてしまう可能性を秘めている、というところにあります。
 黒のキングの逃げ場はf6、e7、e8ですが、畦から行くも田から行くも同じ、シェイクスピアが歓喜するほどにどれも酷い結末です。短編から見たければ8. ... Ke8、尺が欲しければそれ以外ですね。

(図18:8. ... Ke8まで)

 図18までの手順:図17より8. ... Ke8
 白はここから黒を即詰みに討ち取る手順があります。ぜひ一度考えてみてください。
 私のノートではオープニング理論を数回にわたって教示して来ましたが、チェスをやる上でオープニングはもちろん大切であるものの、それだけでは足りません。詰ませる、詰まないようにするといったエンディングの処理技能の鍛錬もチェスの上達には避けて通れぬ道です。向後はそうしたエンドについても少し触れていこうとは思っていますが、こうした流れで登場させることもあるかもしれません。

 本筋ではないですが、将棋には詰将棋、という終盤力の練習問題がありますね。チェスでは「プロブレム」といってやはりそうした類のものがありますが、詰将棋とプロブレムが明確に違う点がひとつありまして、それはチェスでは「必ずしもチェック(=王手)の連続でなくて良い」というものです。詰将棋は詰め上がりまで全ての手が王手である必要がありますが、チェスはそうではない、というところが面白いですね。しかしながら、図18からの詰め上がりはすべてチェックでメイトまで持っていけます。なので即詰みに討ち取る手順がある、と申したわけです。

 あと、このようにオープニングからのラインですぐにメイトが絡んでくるものを研究すると、「このラインは詰みまで研究されている」……などと自分がとても深いことをしたようなことも言えるのでおすすめです。論文や研究といったものは内容もさることながら、時に見せ方も大事ですからね。

 私が滔々と無駄話をしている間に黒を詰ませられましたか?それでは見ていきましょう。
 白がまずやるべきは9. Qh5+ですね。頷いていないあなたはここで再び手を止めていただいても構いません。エンド解説ではないのでいきなり正解をお見せしてしまいますので。

(図19:14. Be3#まで)

 図19までの手順:9. Qh5+ g6 10. Qxg6+ Ke7 11. Qf7+ Kd6 12. Nc4+ Kd5 13. Qf3+ Kxd4 14. Be3#

 というわけで図18はmate in 6すなわち6手詰みが発生していました。一本道なので比較的わかりやすいメイトだったと思います。Ne5には黒のKd7という逃走経路を潰した意味合いもあるようです。
 8. ... Ke8は頓死しました。8. ... Ke7を見てみましょう。

(図20:8. ... Ke7まで)

 図20までの手順:図17より8. ... Ke7
 これは9. Ng6+が当意即妙な一手です。KとRのダブルアタックなので、h8のルークを殺せることが確定しました。

(図21:8. ... Kf6まで)

 図21までの手順:図17より8. ... Kf6
 これは次に9. Qg4と出て、10. Qf4+ Ke7 11. Qf7+ Kd6 12. Nc4+ Kd5 13. Qf3+ Kxd4 14. Be3#のmate in 5を見せるのが良いでしょう。10. ... Ke7からは先ほどのメイトと同じ動きでしたね。なので先ほど考えて頂きました。
 黒は10. Qf4を防ぐための9. ... Ke7や逃げ場を用意する9. ... Qe8くらいでしょうが、こうなってはかなり辛いものがあります。

 黒は6. Neg5には極めて慎重に立ち回らなくてはならないことがご理解いただけたでしょうか。
 では黒は6手目に何をしましょう。
 6. ... Bd6は理念通りの手ですし、Nxf7 Kxf7からのNe5+をビショップで取れるようにする意味もありますが、この筋書きはどうでしょうか。

(図22:6. ... Bd6まで)

 図22までの手順:図13より6. ... Bd6
 今までの極端な悪手ほど悪くないですし、現状の最善のひとつではありますが、これでも7. Nxf7のサクリファイスが入ってしまうのが嫌なところです。

(図23:8. Ng5+まで)

 図23までの手順:図22より7. Nxf7 Kxf7 8. Ng5+
 e5に跳ねなくてもチェックはかかる、というのが白の主張です。g5にはBc1が利いているので8. ... Qxg5はうっかりです。
 次に9. Nxe6とされると黒のクイーンに当たってくるので、8. ... Ke8よりかは8. ... Ke7の方がe6に紐がついて感触がいい気がします。

(図24:9. Bc4まで)

 図24までの手順:図23より8. ... Ke7 9. Bc4
 テンポを握り続けることは大事です。白の9. Bc4はショートキャスリングを見せつつ焦点であるe6に駒の利きを足す動きですね。
 そして、この手があるから私は6. ... Bd6に代わるベターないしベストがあるならそちらのバリエーションを使いたい、と思います。ここで黒はe6を守ることを要求されていますが、これをこなすにはBc6をd5またはd7に動かさなくてはなりません。しかし考えてみればBc6をここまで呼んでくるのに黒は序盤に2手かけたわけで、その投資を咎められるのが不快です。

 さて、ここで9. ... Bd5かBd7か、というところですが、ここは前者しかないでしょう。9. ... Bd7のラインの方が消極的で、推奨しない手ですが、白から憂慮すべき新しい狙いが発生していることがわかりやすいので、まずこちらを見せます。

(図25:10. 0-0)

 図25までの手順:図24より9. ... Bd7 10. 0-0
 ここでのショートキャスリングが絶好です。というのは、これで次に白はRe1とルークを使ってさらに黒のeファイル、特にe6の地点に利きを集中させることができるからです。
 進行例としては10. ... Nf6 11. Re1や、10. ... h6 11. Nxe6 Bxe6 12. Re1といったところでしょうか。

(図26:9. ... Bd5)

 図26までの手順:図24より9. ... Bd5
 こちらの方が強気です。本来、Bd6-Bd7や図26のBd5-Bd6のような、ビショップ・ペアが並んだ状態というのは非常に強い支配を可能とする好形なのですが、ここでは瞬時に10. Bxd5が入ってきます。これに対して10. ... edは11. Qe2+が激痛なので、黒は一工夫しましょう。

(図27:10. ... Bb4+)

 図27までの手順:図26より10. ... Bb4+
 ここでBb4+とチェックをかけながらdファイルを開けるのが、Qxd5というディスカバード・アタックを可能にする手です。
 以下11. Bd2なら11. ... Bxd2+ 12. Qxd2 Qxd5 13. 0-0に落ち着かせることなく13. ... h6が今度こそ、です。
 11. c3には11. ... Qxd5を先に入れ、g2を狙いましょう。これをケアすべく12. 0-0としてくれるならビショップを引いて、白がナイトを犠牲にした、という結果だけが残り黒としては上々です。12. cbと取ってくるのが本線ですが、12. ... Qxg2 13. Rf1で白のショートキャスリングも潰し、局面も落ち着いてこれも黒の溜飲が下がりそうです。13. Qf3ならクイーンを消し合ってドローに近づけることができますね。

 もうひとつ、黒が6. ... Bd6を替える候補を挙げておきます。

(図28:6. ... Nd7まで)

 図28:図13より6. ... Nd7
 これは攻防の起点になり得る重要な一手です。Bd6と合わせてe5に利かせ、先述した白の0-0〜Re1のようなeファイル攻めに備える術もそうですが、将来的に、Bd3と出てくるビショップにNc5と当てて追い返しながらテンポを奪い返すような攻めもここから生まれます。

 6. Neg5のバリエーションでは黒はNxf7からのサクリファイスにどう対応するか、が肝でしたので、それを見ましょう。

(図29:8. ... Ke8まで)

 図29までの手順:図28より7. Nxf7 Kxf7 8. Ng5+ Ke8
 図23〜24の局面と違って、Nd7の一手が入っているので、ここで8. ... Ke7は自分のクイーンの進軍を完全に止めてしまうことになるため、ここでは8. ... Ke8とします。

(図30:9. Bd3まで)

 図30までの手順:図29より9. Bd3
 9. Bd3は0-0を見せつつ、10. Qh5+ g6に11. Bxg6+という技をかけるのを準備した抜け目ない手です。ちなみに11. Bxg6+に11. ... hgをやりたいのは痛いほどわかりますが、12. Qxg6+ e7 13. Qxe6#で頓死します。
 というわけで9. ... Qf6も必須でしょう。

(図31:9. ... Qf6まで)

 図31までの手順:図30より9. ... Qf6
 ここで白からは10. Qe2や0-0〜Re1が考えられそうです。
 10. Qe2〜0-0なら黒には時間的余裕が生まれるので、Nb6〜Kd7〜Re8と使います。Nd7を急ぐひとつの理由がこれで、Ra8をなる早で活用したい、というところです。

(図32:10. 0-0まで)

 図32までの手順:図31より10. 0-0
 間違ってもここで「あ、d4浮いてるやーん」なんて飛びついて10. ... Qxd4としてはいけませんね。11. Bg6+ hg 12. Qxd4とクイーンを搦め捕られてゲーム・セットです。

(図33:10. ... Bd6まで)

 図33までの手順:10. ... Bd6
 10. ... Bd6があたかも竹のように、黒陣に強度と柔軟性を与える手です。具体的にはe5に黒のピースが利きまくっているんですよね。ところでこの手、黒く靭い竹、ということで「煤竹バリエーション」でいきませんか?みなさまご検討ください。chess.comのアナライズとかで「Susutake variation」と表示される日を心待ちにしてます。

(図34:12. Re1まで)

 図34までの手順:図33より11. Nxe6 Qxe6 12. Re1
 10. ... Bd6はe5の地点に利きを足した手、と言いました。ということは、黒からe5を突く順すらある、ということですね。具体的にいうと、Ne7〜e5のような手順でしょうか。
 なので白はここでe6を除去し、手順にクイーンを引き摺り出してそこにRe1とルークを当てる選択肢がひとつあります。クイーンをルークでピンされ黒は窮地に陥ったようですが、ここまで白の数々の罠を潜り抜けてきた黒がここで潰れるようでは面白くありませんね。ここでは面白い手があります。

(図35:12. ... Be5やで)

 図35までの手順:図34より12. ... Be5
 d4の利きにビショップを差し出す12. ... Be5が面白くて、13. deと取ってくれればピンが解除されますし、dポーンのc5への脅威がなくなったため、13. ... Nd5と跳ねる手がBd3に当たってきます。以下、14. Bf1 Qg6とすれば一気に黒優勢が見えます。
 なのでここで白からも13. Bf4と出てぶつける空中戦の模様となる順がありそうですが、以下13. ... Kd8 14. Bxe5も14. ... Nxe5と取り、15. deはやはりeポーンが邪魔で黒は詰まない形となりそうです。

 長くなってしまいましたが、最後にもうひとつお付き合いください。白が11. Nxe6としないで他に手はないか、というところです。

(図36:11. c4まで)

 図36までの手順:図33より11. c4
 これは何か黒から楽しい仕掛けがあったら良かったのですが、残念ながら一感での11. ... Nf8より妙味のある手はなさそうです。
 白11手目c4は次にd5と突き出して戦況の打開を目指すものですが、11. ... Nf8はe6に利かせることで白からの12. Nxe6 Qxe6 13. Re1という筋を消しておく狙いです。
 以下12. d5 ed 13. cd Bxd5 14. Bb5+ Bc6 15. Re1+という順で白はRe1を実現させようとするでしょうが、15. ... Ne7 16. Ne4 Qe5 17. Nxd6+ Qxd6 18. Qh5+ Qg6 19. Bxc6+ bcと、形勢を損なうことのないように互いのピースダウンを狙っていけば黒を持って非常に負けにくい形であるでしょう。

(図37:3. Nd2まで)

 図37までの手順:1. e4 e6 2. de d5 3. Nd2

 今まで3回にわたり、白3. Nc3の手順を見てきましたが、白にはここで3. Nd2としてe4を支える手もあり、この形はタラッシュ・バリエーション(Tarrasch variation)といいます。このバリエーションについてはまた項を改めて解説しようと思いますが、今日紹介してきた3. Nc3 deのバリエーションは、この3. Nd2でも3. ... deとして4. Nxe4を誘い、ルビンシュタインへと黒の意志でトランスポーズさせることが狙えるというのも覚えておいていただきたいポイントになります。

 今回は少し長く、また重たい内容となりましたが、消化不良を起こさぬよう、よく咀嚼し血肉として頂けたらと思います。
 末文ながら、ノートやTwitterのフォロー、リツイート、知り合いへの(強引な)推奨など、どんどん拡散して頂けたら幸甚の至です。

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