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『車輪の下』へルマン・ヘッセ読了。十代の価値について考えた。

この小説には周囲の人々からの期待を一身に背負って、その軋轢の中で心を踏み潰されていく少年が描かれている。

小説には車輪が度々出てくるが、これは否定的で抑圧的なものを象徴していると考えられる。

多分、自分もそうなんだけど、どんな人も、学校に通いながら自然と抑圧を受けているんだと思う。
私の場合は、学校は楽しい場所であったという認識よりもそういう面がよく思い出される。
学校は、常に知的好奇心とか学びの歓びを教える場所であればいいのに、
常に敗北感とか諦めとかそういうものばかりだったように思う。楽しいこともあったけど。
こうして人格を破壊されて敗北の味を知らしめられ、強制的な制限を受ける。
「お前らしさ」なんて要らない、みんなと同じような、求められる解答をして求められる行動をする、「求められる人間」になることを期待された。
少しでも規律を破ると激しい叱咤を受けなければならなかった。これは教師たちの憂さ晴らしにしか思えないくらい、私たち生徒のことを考えていない叱咤だった。生徒をビビらせるために竹刀を持ち、声が大きく威圧的な態度の巨漢もいた。わざわざ、望んでもいないのに叱ってくれた。それによって愛情など感じるわけ無い。取るに足らないことで叱られ過ぎた。叱られないために「ちゃんとすること」を強制された。愛情のある叱咤は、たまに母親がしてくれた。これも私をうんざりさせたが、教師などに叱られるのはその何倍も苦かった。
彼らは常に私の敵だった。授業なんて言って教壇に立っているが、何も教えなかった者が殆どだった。自称進学校だった我が母校。教師にも学校にも憎しみが募った。それを無視して無関心を装っていた。

読者様に教員を職業とする方がいたらお叱りを頂戴しそうな未熟者な発言をしますが、教師になんてどうしてなろうと思うんだろうと思いますね。私の友人にも教員志望が二三人いましたが。
生徒を自分の格下に置いて「先生」と呼ばせる。知ったふりをして教える。生徒も知ったふりをする。生徒のことを見ているふりをして、何も分かっちゃいない!
「ここの点数が落ちましたね。もっと時間を裂いた方が良いでしょう。こっちは上がりましたね。この調子で……」そんなの自分で気付けるさ。ていうか、どうしてあんたに指図されなきゃいけないわけ?って思ってた。あんたがいくら私の成績をよくするための助言をしたところで、そんなの私の成績を1ミリも改善するわけないって思ってた。


模倣は嫌われるが、優等生であることを求められた。点数で人の優劣を決める際には敗北するしかなかった。


何のための勉強か?ーーテストでいい点数を取るため。
何でいい点数を取るのか?ーーいい成績を貰うため。
何でいい成績を貰うのか?ーーそうするべきと思ったから……。

私には分からなかった。義務だった。勉強は知的好奇心のためにするべきなのに、あの教室にはそんなものはなかった。圧力以外のなにものも無かった。
学校を出ても、家族や親族から期待される。塾に押し込まれて、あの感じやすい貴重な時代に朝から夜まで勉強することになる。そうすることで得られるものが何かあると信じていた。「輝かしい将来」のためにそれを耐えてきた。

ルールだったり、モラル、義務、あるべき姿とか、ふさわしさとか、文武両道といったスローガンとか、こういった、何の役にも立たない取るに足らない屑に抑制されたために、犠牲にしてきたあらゆる欲望は、今となっては取り戻すにはもう、遅すぎる。

私はいつも悩んでいた。
なんでも、高校生になってから、私は優秀だった入学当初の成績を、半年も待たずに落としてしまった。素行は普通だったが、授業態度もテストの点数も、周りと比べるまでもなく悪かった。

私は何に悩んでいるのか分からなかった。単に、義侠心やパンクファッションのためにこんな態度を取っているのだと考えていた。
私は何も知らなかった。
あの時はあれが普通だった。何もかも監視されて、集団の一員として生活するために抑圧を享受させられていて、それが正当だと思っていた。

今、『車輪の下』を読んでこんなことを考えた。
もしタイムマシーンがあるのなら、高校一年生の私に会いに行って、「この小説はお前のために書かれたんだよ」と伝えたい。
そしたら私の人生も少し楽だったかもね。

あらすじ
ハンスという少年は、田舎に育ちながらも天才的な才能を持ち、エリート養成学校である神学校に2位の成績で合格する。町中の人々から将来を嘱望されるものの、神学校の仲間と触れ合ううちに、勉学一筋に生きてきた自らの生き方に疑問を感じる。周囲の期待に応えるために、自らの欲望を押し殺し、その果てに、ハンスの心身は疲弊していく。勉強に対するやる気を失い、神学校を退学。その後機械工として出直そうとするが、挫折感と劣等感から自暴自棄になり、慣れない酒に寄って川に落ちて死ぬ。

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