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湾岸戦争の後の日常。
9.11の時に警察署にいたのか、職業訓練所にいたのか、もうあまり覚えてない…。
確か、9.11は、10年続けた会社でデザイナーを辞めた年…。
で、熊本警察署に社長の桜井さんの面会に行ったのが、湾岸戦争の時。
それは、確か、デザイナーになる直前の事。
爆発は、アニメーターの金田功が描くものによく似ていて、頭の中で物理演算でもする機能がついてる人だったのかなと、今なら思う。
近代戦争の映像をモニター越しに見ながら、全部現実離れした世界だなと思っていた。
就職も続かず、やっと働き始めたイベント会社。現実味のない世界の中で生きていた頃だった。
何も出来ない私は、何も考えず。
何も社会の役に立つこともなく。
汚い大人たちの思惑の中で右往左往していた。
桜井さんは、ベンツを売るディーラーに勤務してたけれど、そこから訴えられ、横領で逮捕された。
しかし、横領したはずの彼の手には、お金は残っていない。
高級車であるがゆえ、禁止されている値引をして、その差額を会社に入れることが出来ずに、横領したとして逮捕された。
桜井さんは、逮捕される前に、スカウトされ、イベント会社の社長に就任していた。
みんながバブルの時代の脆く崩れやすい夢を抱えて生きてた時代。
湾岸戦争の闇の中に伸びていく光の先で、人が死んでいる実感もなく、テレビをぼーっと眺めて、桜井さんの愛人に、保釈金を出してもらうように話していた。
ヤクザのような、イベント会社の出資者は、もりくんは、愛人に信用されとるけん、話ばつけてきてくれんね。
そう言ってゲラゲラ笑った。
桜井さんがいなければ、せっかく夢見たイベント会社で大儲けの夢が潰えてしまうからどうしても保釈をとりたかったらしい。
テレビには、重油が海に流れ出して、油まみれになった海鳥の映像。
飛ぶことも、海に浮くこともできそうになく、震えていた。
愛人?
いや、違うよな。
桜井さんは、あの人を愛していなかった。
出資者のヤクザみたいなおっさんが、桜井さんに入れ知恵していた。あの女、金持っとるけん、お前、温泉にでも行って寝てこい。
そんな話をしたそうだ。
一回めは抱かんやったばってん、二回め旅行した時はしたらしかもんなー。
まるで、獣の種付けのような口調で、出資者の男は豪快に笑いながら話す。
油まみれの鳥。
爆炎で煤けた一般人。
異国の空の花火のような対空砲火。
警察署のだだっ広いホール。
面会した時の、照れくさそうな桜井さんの顔。
自分の中で何か感情を、 感じたかったけど、僕の感情は全部麻痺していた。
バブルは弾け飛び。
皆が怯えていて。
皆が愛に飢えていた。
愛を性欲に置き換えてみたり。
フィリピンから来たぴちぴちの体に張り付くような服を着た、どぎつい化粧の女の子を純粋な女の子だと思い込もうとしていた。
何もかもちぐはぐで、僕もみんなも疲れ果てていた…。多分。
僕は、その時も、今も、何もできずに、誰も助けることが出来ず。
正しいことをひとつも見つけることが出来ずに行き場を無くしていた。
あれから、自分は何一つ変わっていない。
純粋なふりをして濁り、第三者のふりをしながら、間違った方向に誰かを導こうとする。
ひとは、何も変わらない。
生きてる限り同じ間違いばかりを繰り返す。
飽きることなく。
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