2013年3月に大谷翔平の二刀流成功を予見していた落合博満
~ファンサービスをしない監督 落合博満は野球ファンに何を与えたか 第56章~
世間で大谷翔平が語られるとき、いつも思い出すのはプロ入り時の二刀流賛否論だ。
入団1年目、2013年のシーズン開始前に二刀流に賛成していたプロ野球OBはほとんどいなかった。
今、調べてみても、落合博満と王貞治くらいしか見つからない。
当時の風潮は「投手か打者のどちらかに専念しなければ成功しない」だったのだ。
それは、当然と言っても過言ではなかった。
二刀流で成功した選手は、今まで存在しなかったからだ。短期間、二刀流に挑戦した選手たちもいたが、結局はどちらかに専念して二刀流を断念している。
2013年3月、落合は、NHK『サンデースポーツ』に出演し、大谷翔平をこのように評している。
大谷のプロ1年目のシーズン前、こう語っていた落合。
この番組では、落合博満と大野豊を出演させている。NHKアナウンサーは、終始、二刀流での成功は難しいだろう、という論調で2人にインタビューしていた。
当時の番組の意図は、おそらく大投手大野豊に投手専任の意見を出させ、大打者落合に打者専任の意見を出させて、討論させようとしたのだろう。
大野は、NHKの想定どおり、大谷を投手として見てみたい、という意見を述べている。
しかし、落合が想定に反して二刀流大賛成を表明したものだから、NHKアナが困惑してしまう面白い映像になった。
シーズンに入ると、大谷は、落合の予見どおり、投手としても、打者としても並外れた才能を見せ始める。
投手としては13試合に登板して3勝0敗、防御率4.23。打者としては77試合に出場して打率.238、3本塁打。
この年の夏くらいにはもう大谷が二刀流として成功するかもしれない、という見方も増えてきた。
さらに翌2014年には投手として24試合に登板して11勝4敗、防御率2.61。打者としても87試合に出場して打率.274、10本塁打。
もはや、誰の目にも二刀流での成功が明らかになった。
この一連の流れを見ていると、先入観というものがいかに、人間の可能性を阻害してしまうかが分かる。
落合は、選手・監督時代から先入観を排除し、自らが目で見たものだけを信じ、すべての判断を下してきた。
選手としては前例のない打撃フォームで、前例のない三冠王三回を達成。監督としては、大打者でありながら投手を中心とした守りの野球で成功を収めた。
大谷と日本ハムは、落合と王くらいしか賛同者がいない、ほぼ四面楚歌の状況で、二刀流に挑戦し、成功した。
大谷を大事に起用した日本ハムの慎重なサポート体制は、特筆に値する。
先入観の排除。
前人未到の成果を上げるのに必要なことは、まずそこにあるのだろう。
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