Chageニューアルバム『feedback』レビュー

「令和にあえて昭和をリスペクト」
そんなキャッチフレーズで発売となったChageのニューアルバム『feedback』。

このアルバムを一言で表すなら「異彩を放つ個性の融合」だと思う。

元々、Chageの音楽は、異彩を放つ個性の輝きを際立たせる効果を持っている。
ASKA、石川優子、光GENJI、松井五郎、村上啓介といった個性豊かな才能との融合によって、音楽業界で一時代を築いてきた。

それは、ソロ活動が中心になってからも変わってはいない。
このアルバムのサウンドプロデューサーとして迎えた西川進と力石理江は、近年のChageソロの両輪と言っても過言ではない。

2人とも、作れる音楽の幅が広い。
トリッキーなロックから、じんわり涙ぐませるスローバラードまで、いとも簡単にこなしてしまう。

そんな2人とChageによって制作した『feedback』は、昭和の音楽をアップグレードして、時代を超えた令和の最新音楽に姿を変えている。

1トラック目「Kitsch Kiss Yeah Yeah」のイントロは、少し聴いただけで分かる西川進サウンド。
ビートルズ世代の人々なら、マージービートの名曲群を思い浮かべるのだろうが、私は、MULTI MAXの音楽が脳裏によみがえってきた。
「MULTI MAXのテーマ」「愛がお前をすくい投げ」「官能のEsplendida!」などだ。Chageがこれまで作り上げてきた音楽にルーツを見い出してしまう。
松井五郎が珍しくこういうタイプの楽曲に作詞をしているのも新しい。

3トラック目の「Mimosa」も、一聴しただけで力石理江サウンドと分かる個性を持っている。じんわりと沁み込んでくる優しいサウンドから、トリッキーとハッピーを兼ね備えたリズミカルなジャズサウンドへ。
それに加えて、Chageの歌いだしは、ビートルズの「Hey Jude」を彷彿とさせて、愛情溢れる詞とともに伝わってくる。

4トラック目の「Love Balance」に前野健太を起用したのは、意外だった。
前野健太は、『Chage fes 2015』に出演したミュージシャンで、個性的な風貌とサウンドが印象に残っている。
しかし、「Love Balance」は、Chageのメロディー、前野健太の詞、西川進のアレンジという、それぞれの持つ強烈に個性的な部分が絡み合って、今まで聴いたこともないような幻想的な楽曲に仕上がっている。

新曲は、これらの3曲ではあるが、今回のアルバムは、昭和の楽曲カバーが自然に入り込んでいる。


「悲しき願い」(尾藤イサオ)1965年
「好きさ好きさ好きさ」(カーナビーツ)1967年
「あの時君は若かった」(スパイダース)1968年
「たどりついたらいつも雨ふり」(モップス)1972年
「二人だけ」(キャロル)1973年


昭和生まれの私でも、よく知っているのはスパイダースの「あの時君は若かった」くらい。1965年から1973年までに発表された楽曲群なので、私より下の世代の人々にとっては、どれもが新曲に聴こえるだろう。

中でも私の印象に残ったのは「たどりついたらいつも雨ふり~あのとき君は若かった」のメドレーだ。
昭和の楽曲であるにもかかわらず、西川進のアレンジによって、全く古さを感じない令和の楽曲に生まれ変わった。

2曲とも音楽史に残るメロディーなのだが、何といっても歌詞が心に響いてくる。
どちらも、CHAGE and ASKAとは全く関係ない歌詞なのに、歌詞の中にCHAGE and ASKAの境遇と重なる部分がところどころにあって、彼らの歴史を思い返してしまい、泣けてきてしまったのである。

そして、Chageの60代とは思えない張りと艶のある声と、いまだに進化し続ける表現力に驚かされる。
これは、このアルバムの6トラック、計8曲のすべてにおいて感じる印象だ。

また、アルバムの中で最も古い楽曲は、「悲しき願い」の1965年発表で、新曲の3曲は2019年発表だから、実に54年間にわたって、Chageが触れ合ってきた音楽を凝縮していると言っても過言ではない。
Chageが54年間、様々な音楽を自らの体に取り込み、唯一無二の音楽が出来上がった事実を、多くの人々にじっくり味わってもらいたい。


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