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ChageニューEP『青い空だけじゃない』レビュー

『青い空だけじゃない』は、全編にわたって、十川ともじが編曲を担当するChageソロデビュー25周年記念作品だ。
CHAGE and ASKAの名曲「SAY YES」や「YAH YAH YAH」の編曲でも有名な十川ともじは、1998年のChageソロデビューシングル「トウキョータワー」の編曲も担当した。
同年のChageソロデビューアルバム『2nd』でも、十川はラストを飾る「僕が見つけた気持ちのいい場所」を編曲していて、現在でも「トウキョータワー」とともにChageの代表曲として人気が高い。
Chageと十川のコンビは、名曲製造の黄金コンビといっても過言ではない。

1曲目に収録となった「幸せの不条理」は、2023/7/30の先行配信シングル発売の段階で大きな反響があった名曲だ。
私が十川ともじのイメージとして持っていた、キーボード・ピアノ・ポップスといったイメージを大きく覆してきた。

ロックなギターリフを前面に押し出したアレンジ。近年の楽曲の中でもトップを争う名ギターリフだと感じたほど。
まるで不条理を音にしたかのようなギターリフだ。

そこに、熱く不穏で艶のあるChageの美メロと歌声。そして、道ならぬ恋を連想させる詞。
今の幸せを感じ合えば感じ合うほど、墜ちて行き、その果てに待っている結末は、もはや考えたくもないほど暗い。

Aメロ、Bメロでは自らの感情を吐露し、一気に高揚するサビは、第三者的な遠景からふたりの姿を映し出す。
そして、サビの最後では、再び嘆くような吐露。
素晴らしい構成である。

2曲目は、新曲の「笑顔見せて」。
底抜けに明るいメロディーと詞、アレンジで統一されたポップな作品だ。Chageは、アルバムにライブで盛り上がる曲を入れてくることが多く、この曲はまさにライブの最高潮で披露するにうってつけの楽曲だ。
よく「動のChage」「静のChage」と言われるが、この曲は「陽のChage」と言えよう。
愛する人を喜ばせたいという想いがシンプルに伝わってくる。

3曲目は、2023/8/15に先行配信シングルとして発表になったアルバムタイトル曲「青い空だけじゃない」のアルバムバージョン。シングルバージョンに比べ、豪華なスキャットと演奏を加えたアウトロが入っており、聴きごたえがある。

長い人生の旅がテーマだろうか。夢も愛も、青い空ばかりを見せてくれるわけじゃなく、曇りや雨のときもあって、それでも走り続けて笑顔へたどりつきたい旅路。
そんな長い道のりを情緒豊かに描いている名曲だ。「青い空」の「青」は、青春の「青」と重ねているようで、夢や希望にあふれていた青春時代が永遠でない儚さを浮かび上がらせている。
ChageとtheSoulの河野健太郎の作詞・作曲。
ChageがAメロ、Bメロを担当し、河野健太郎がサビを担当したとのこと。
十川ともじのアレンジも、ピアノサウンドを中心に据えて、キーボードの様々な音を駆使していて、チャゲアス時代を彷彿とさせます。
「幸せな不条理」が動のChageだったのに対し、「青い空だけじゃない」は静のChage。
Chageは、ファンの想いをくんで、新曲を作るときは動と静の両方を意識しているようだ。

4曲目は、まさかアコースティックバージョンがあったとはと驚かされる「幸せな不条理-Acostic Ver.-」。
ピアノサウンドが前面に出て、アコースティックギターが絡み合うという、熟成されたサウンドとなっていて、こちらの方が今まで私が思い描いていた十川ともじのイメージに近い作品だ。

通常バージョンが若い男女を思い浮かべるのに対し、アコースティックバージョンは、壮年の男女を思い浮かべてしまうのは、やはりアレンジの妙だろう。

そして、本編ラストを飾るのは、Chageのデビューシングル「トウキョータワー」の25th Ver.。
Chageは、メジャーデビューから19年目でソロデビューしており、まさかその後、ソロ活動が中心となってソロ25周年のときには毎年のように新作を発表しているとは、当時全く想像すらしていなかった。
未来は、誰にも予測不能だ。

Chageソロ25周年を記念してリミックスされた「トウキョータワー」は、イントロが41秒もあるというSNS全盛時代にはまずない構成に驚かされる。
きっと主人公の男女がこれまで長く抱えてきたどんよりとした感情を表現したのだろう。
それだけじゃなく、全編にわたってアレンジによる表現力の進化を感じられ、当時の技術では実現しえなかった演奏が新たに加わって、楽曲に厚みをまとっている。

ボーナストラックの「青い空だけじゃない」配信シングルバージョンとコンパクトにまとまった「トウキョータワー-25th Ver.-(Radio Edit)」が加わった全7曲のアルバム。

レコーディング & ミキシング エンジニアには第65回グラミー賞の最優秀グローバル・ミュージック・アルバムを受賞した小寺秀樹が担当しており、世界に通用する作品となっている。
そして、1曲を2度楽しめるのが3曲もある、という新たな価値観を示したアルバムでもある。
振り幅の広いChageの音楽を知るには最高の作品だ。

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