フラワーカンパニーズ「深夜高速」レビュー ~悩める10代に最も聴いてほしい 曲~

 このミュージックビデオを見た人は、おそらくその内容に大きな衝撃を受けるだろう。
 様々な人々の遺影と、現在の人生を楽しむ姿が交互に映し出される。
 これは、楽曲が伝えているメッセージを映像で表現した秀逸な作品だ。
 生きてきたからこそ、現在がある。生きてきたからこそ、喜びや楽しみを味わえる。そんな強いメッセージだ。

 鈴木圭介がこの楽曲を制作したのは、30代に入ってからである。
 主人公は、深夜に高速道路を走りながら、自らの人生と重ね合わせる。目の前の数十メートルしか見えない暗い道を走る今の自分と、暗闇の中、少しの光を頼りに希望と不安を抱えながら走る人生。
 このまま走り続けて、果たして明るい未来が訪れるのだろうかと自問する。

 2番に入ると、主人公は、10代の頃を思い浮かべる。ひとり悩み続けた10代を。
 詞には書かれていないが、そのメロディーと歌声から、おそらく主人公は、10代の頃、死を考えたのだと思う。
 しかし、死なずに生きることを選んだ。
 そして、今、あのときの生きるという選択を誇れるだろうか、と自問する。

 そして、3番で、主人公は、過去の悪事や悲しい出来事を懺悔するように思い出し、高速道路を走りながら気づく。
 こうやって、過去のいろんな出来事を思い出しながら、未来へ走り続けられるのが、実は幸せなのではないか。
 それに気づき始めた主人公が歌うCメロは、魂がこもっていて前へ進む勇気と輝きに溢れる。

 Cメロの後、大サビの前半では、それまで歌っていた、幸せを探す言葉が消える。歌わない空白に、行間のような意味を持たせている。
 そして、大サビの後半のラストだけ、実感を込めて「生きててよかった」と幸せそうに歌う。

 この楽曲の詞は、文学である。その一節一節が、類まれな力を持っている。
 詞のどの部分に魅力を感じるかは、人それぞれだろう。

 私が最も魅力を感じるのは「十代はいつか終わる 生きていればすぐ終わる」だ。

 10代は、人生の中で最も悩み深き世代だ。経験すること、学ぶことのすべてが初体験ばかりで、1年毎に人間関係も変わる。

 ときに死にたくなるほど悩むこともある。人間関係、勉強、進路、体調、様々な競争……。
 繊細な人は、様々な悩みが重なって、心身に不調をきたすことも多いだろう。

 私の高校時代は、まさに悩みの宝庫だった。
 1日1日を何とか乗り切るのが精一杯で、余裕なんて全くなかった。
 だから、死にたいと思ったことも1回や2回ではなかった。

 現在は、社会人の生活を20年以上続け、あっという間に終わってしまう1日1日をそれなりに楽しく過ごしている。決して、やりたいことばかりをやっているわけではないが、大人になって仕事をすれば、毎年、ある程度の繰り返しでしのげるようになり、余裕は増える。世界は広いから、逃げ場もいっぱいある。
 なぜあのとき、あんなに悩んでいたのか、と馬鹿らしくなってしまう。

 今思えば、本当に10代はすぐ終わる。
 あんなに長く苦しく感じていた10代なのに、終わってしまえば、すぐ遠い過去になっていく。
 だから、決して10代で自ら死のうとしてはならない。

 あの一節だけで、私は、そんな大きなメッセージを感じている。
 私は、この「深夜高速」を、死にたいくらい悩んでいる10代が1人でも多く聴いてくれることを願う。

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