アルプス一万尺が心配でたまらない
アルプス一万尺。日本人なら誰もが一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。
「こやりの上」や「アルペン踊り」といった、大人になってもいまいち意味の分からない歌詞にのせて、2人1組で手遊びを行いながら、「さぁ踊りましょ ヘイ!!」と言いながらランランランラン歌い踊る、今考えれば奇行ともとれる遊び歌である。
そんなアルプス一万尺、この有名な一番の後に29番まで歌詞が付けられていることを、皆様はご存じだろうか。
THE 虎舞竜のロードですら13章で完結している中、アルプス一万尺はさらに16番多い、29番である。往生際の悪さがはなはだしい限りである。
ただこのアルプス一万尺。その歌詞をたどっていくと、何か違和感を感じずにはいられないのである。
まず1番か7番くらいまでは、有名なアルペン踊りで始まった後、山登りの情景を丁寧に歌ったとてもきれいな曲になっている。例えば、2番は「岩魚釣る子に 山路を聞けば 雲のかなたを 竿で指す」という、山登りの途中で出会った少年との会話、3番だと「 お花畑で 昼寝をすれば 蝶々が飛んできて キスをする」という、美しい自然のふれあいを歌詞にしている。
そこからテントを張って星空を眺める6番、かっこうの鳴き声で目覚める7番と、自然の中で山登りを楽しむ様子を、景色の描写で表現する。一つ一つの歌詞は短いものの、それぞれが表す情景は端的で無駄がなく、とても美しいのが印象的だ。ただ、8番で歌詞の雰囲気が少し変化する。
突然、女の子の袖を染めてあげたいという歌詞が現れるのだ。しかもそれだけではない。次の9番で、この違和感は決定的なものに変わる。
この歌、本当にただ単純に山登りを楽しんでいる人の歌では、無い。
「ランランラン」という陽気な掛け声に紛れて、何か大きな闇を感じずにはいられないのである。
しかもそれだけではない。これまであんなに丁寧に山の風景を歌っていたにもかかわらず、ここからはしばらくは心理描写が続いていく。
昨日までテントから眺める星のきれいさを歌っていたとは思えない歌詞である。
さらに13番に至っては、「お花畑で 昼寝をすれば 可愛いあのこの 夢を見る」と3番で蝶々にキスをされているのと同一人物とは思えない暗い歌詞に変わっているのだ。
彼が生きて帰ってこれたのか、心配になるほどに。
ちなみにこの曲の27番にこんな歌詞がある。
キジを打つというのは、登山家の隠語で「小便をする」という意味。
なのでこの27番の歌詞はこうなる。
「槍ヶ岳の頂上で オシッコしたら 2手に分かれて高瀬と梓川へ 流れたよ ヘイ!!」
心配して、損した。
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