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レビュー:『here's that tiny days』

先日、仕事を辞めて時間ができたので、今年初頭のリリース時より書こうと思いつつ時間に追われ放置していたtiny popのコンピレーションアルバムについて感想など書いていこうと思う。

1.午前十時の映画祭/mukuchi

西海マリことmukuchiの一曲目。アルバムのリード曲にふさわしい高揚感を湛えた曲。これまでの楽曲より聴かせることを前提とした、ポップスらしいポップスだと思った。山田さんのライナーノーツにも書いてありますが、ドラムが以前のようなポコポコ音からクラブ寄り?になっているのが大きな要素だったのでしょうか。ショボはドラムに起因する。あと気づいたんですが、他の作曲者はソフトランディングで曲を終わらせるけど、マリさんの曲は曲の終わり方がデモっぽい感じで打ち込みが急に終わるのがポップスに魂を売り渡してない感じがして良い。この曲を聴いて学生時分に散歩がてらに時々観に行っていたパルシネマしんこうえんや元町映画館を思い出した。気合を入れて無駄なことをするのは大事なことです。


2.食卓/mukuchi

野球。個人的には子供の頃に興じたゴムボール野球(ポン球と呼んでいた)を思い出す曲です。淡々とした曲なのですが、君の打ったボールがグラウンドをこえて”どこまでも どこまで〜も”という歌詞の譜割りが白球の描く弧、または滞空時間を非常にうまく捉えていて素晴らしいと思います。同様に、私の投げたボールはキャッチャーミットすり抜け”どぉこかに どぉこかぁに”の部分はボールのバウンド、そして遠ざかっていくそのリズムをうまく切り取っている。球拾いなどいない、二人だけの私的な野球の映像が観えた。名曲。


3.オアシスの一部分/mukuchi

三曲目。この曲が一番ショボいポップス然としている。景色がどんどん切り替わっていく様は、子供の頃に何かのおまけでついてきたシャッターボタンを押すと中の絵がクルクル切り替わっていくカメラと似ていますね。あれはスライドカメラという名前があるそうです。


4.Ghost/SNJO

昨年は八面六臂の活躍ぶりで頼もしいばかりのLocal Visionsの若頭。この曲は2018年にLVからリリースされた『未開の惑星』のタイトルトラックの続編。同様に昨年リリースされた『Diamond』収録のAliveも2017年リリースの『SF』収録、Gazeからの引用が見られる。過去作のメロディを引用しつつまた別の形の楽曲になるのは手塚治虫のスターシステムみたいで良い。SNJOくんの一番の特長は歌心があるという部分で、クラブミュージックに接近しながらも最終的にはポップス、歌謡としても回収できてしまうのは他のDTM作家との大きな差となっている。個人的にポップスは口ずさめてなんぼだと思っているし、実際に、メロディが口をついて出てくるような曲が多い。素晴らしい才能。


5.Days/SNJO と ゆnovation

SNJOくんと鍵盤奏者・シンガーソングライターのゆnovationとの共作。サンバ調の楽曲はそんなものは微塵も感じさせないが、ライナーノーツにも記載されているように『ある程度ある』など、ゆnovationの楽曲にも共振した、ある意味での諦念を含んだ曲だろう。Days、日々はハレとケの繰り返しである。SNJOくんにとってのハレの日はライブの日かもしれないし、音源のリリース日かも知れない。もしくは仲の良い友人たちと会う日かも知れない。自分にとってはYu-Kohなどまさにそれだったし、いつまでも留めておきたい記憶だが、日々はそれらも押し流していく。人生のほとんどがケ、いわゆる生活パートで構成されるのだからそれも仕方がないのだが、そういった日々を否定も肯定もせず受容する姿勢はtiny popと呼ばれる何かを構成する一要素なのかも知れない。


6.Blue Fish/wai wai music resort

もはや彼らのアンセムと言って差し支えないであろう名曲。ノルジスチ音楽の土着的で強いリズムをテーマにしたこの曲は、複雑なリズムが重なり合う構成なのにそこに乗ってくる歌詞も難解(lisaさんもお兄ちゃんの歌詞は難しすぎると言っていた)。それでも日本語ポップスとして成立しているのはエブリデくんのリズムへの理解の深さ故だろう。歌詞を見ていくと、

夜の/淵に/沈ん/だ 黒い/水に/映る/影は 揺れる/棕櫚の/木

というように全て三文字単位で分割でき、タタッタ/タタッタ/タタッタと非常に歯切れ良く聴こえる。上記Aメロ部に限らず曲全体として、既存の日本語ブラジリアンポップスにおける歌とリズムの齟齬をかき消すように細密に設計されている点はtiny pop云々以前に素晴らしい仕事だと思った。また最後のサビ部分”睫毛が目頭に施しを与えてる”もスネアが裏に移動してくるところもたまらなく良い。あとBlue Fishは何の魚だろうという疑問があったけど多分グッピーだと思う。


7.牛の記憶/エブリデ(from wai wai music resort)

はじめタイトルを見て小川美潮&山村哲也の『犬の日々』オマージュなのかなと思った。童謡的な世界観だけどキリンジっぽいおしゃれな音づかい。情景の描写や色の転換がシンプルに伝わってくる歌詞。しかし”ももいだす””ももだち”のももとは何だろう?気になりつつ今まで聞いていなかったな。

話は変わって、昔ブラジルの農村へ信仰を伝えに行っていたことがあるという老年の修道女から聞いた話。現地では様々な教育をする以外にも牛の世話などをしていたそうだが、農場内で牛が死んでいると、どこからとも無く牛たちがやってきて、死体の周りを円を描くように集まり、仲間の死を悼んでいる姿を何度か目にしたと言っていた。それがどうしたという話だけど、牛は賢いなあと思う。


8.見えるわ/ゆめであいましょう

ゆめであいましょうは歌へのこだわりがすごい。昨今の女性ヴォーカルからゼロ年代J-POP性またはインターネット性を取り去るのは非常に困難な課題だと思っていたが、ゆめであいましょうは見事に「歌謡曲」を現代に取り戻し、楽曲は架空の記憶を呼び起こさせる。DJ目線での発掘が進むニューミュージックや歌謡のフィールドにおいては、いわゆる踊れる楽曲、ビートのある楽曲ばかりに焦点が当てられてきたが、ゆめあいはそういった発掘路線ともリンクしない異質な存在になっている。あと最近はシンセやサックスなどの吹きものに押されてる印象があるけど最後にギターソロがあるのが良い。fushityouさんが弾いてるの?


9.シャンマオムーン/ゆめであいましょう

プラスティック・エキゾ歌謡。シャンマオムーンが一番好きです。やや喉を絞った中華意識のヴォーカルが良い。蒲原さんは歌い分けがすごいと思う。こういう表象っぽい歌い方誰から始まったんでしょうね。


10.誰もが誰かに/ゆめであいましょう

フォークミュージックの世界を見事に再現している。70年代の青年が作った歌詞なのか。YouTubeで昔の邦楽フォークやニューミュージックを聴いていると、昔のフォーク及びニューミュージックおじさんたちが一様にこの頃の音楽には心があるだとか、今の音楽はなってないか好きなことを言っている様子が見られます。おじさんたちにゆめであいましょうを聴かせてあげたい。


11.ウェルウィッチア/feather shuttles forever

前職のとき朝の6時半に家を出て23時とかに帰ってきてたんだけど、この曲は冬の夜明け前のひっそりとした空気をはらんでいて心情的に一番合っていたので、わざわざこの曲を最初に聴いてからアルバムの一曲目に戻るという聴き方をしていた。この曲のサックスはすごく上品な聴こえ方をするので好きだ。またマリさんの歌詞は自分の住んでいる土地柄もあり、情景がしっくりくる。あとウェルウィッチアを調べたらグタグタの葉っぱが出てきたので驚いた。

はじめてマリさんと山田さんの演奏を観たのは2016年の神戸のspace eauuuだった。お客さんは3人だけであそこはアルコールも出ないのでジンジャーエールの瓶を片手にグラグラ揺れながら観ていた覚えがある。ちょうどこの曲と同じような音のヘッドレスギターで演奏をしていた。シーンとしていてちょっと気まずいぐらいのとてもプライベートな空間だった。お客さん3人の内1人は知っていたけどもう1人は誰だったんだ。あの日は終演後、初対面だった山田さんと少し話してCDを安く譲ってもらったりした。あのとき出来た縁が今までなんとなく続いているのはすごい。2年後の七夕会ではまたspace eauuuでフェザシャト、SNJOくん、tenma tenmaさん、そして我々といった、LVとbuが揃う(ツジオさんも確か来ていた)という今思えばYu-Kohに至るきっかけとなる一夜もあったりして、フェザシャトとのつながりが現在に大きく影響しているのは確かだ。今はマリさんも山田さんも活動はストップしている(人生は様々あるので)けど2人がまた活動を再開してくれるのを期待したい。


以上です。

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