コロッケとアランソンのダイヤモンド

 人間はとにかくきらきらしたものが好きなんですよ。なんでかは知りませんが有史以来人間はつやつやきらきらしたものを追い求めてきました。人類の歴史は武器の次に宝飾品の歴史と言ってもいいと思います。石たちはまず武器として、やじりや、ナイフとして人間の手に持たれ、次に身を飾るものになりました。皆さんご存知の勾玉や、いまでいうビーズなどは人間と何千年以上も付き合っているのです。

 トルコ石、ひすい、ルビーなど天然で石の色がうつくしいものがまずもてはやされました。みなさんおなじみのダイヤモンドなどは、カッティングと研磨のテクニックが確立された中世以降に高い価値が付きだします。最初はドーム型のカットや、ローズカットなどと呼ばれる素朴で、かわいらしいものが多かったのですが、17世紀に今のブリリアントカットの原型が見出されてからは、まさに宝石の王様の名に恥じない愛されぶりです。服飾品にまったく興味のない人間でも、ダイヤの名を知らぬ人はいないでしょう。

 ブリリアントカットというのは、今の形になったのは実は20世紀に入ってからなのですが、ダイヤモンドの輝きを一番引き出すといわれているカッティングの方法です。ダイヤの輝きというのは種類があって、雑に言うと入ってきた光を表面ですぐに跳ね返すちかちかした輝き、ちょっと中で反射させてからのギラッとした輝きと、入ってきた光をダイヤモンドの中で何回も反射させて、きらきらという細かい、しかもプリズムの効果で虹色の輝きにさせるというものですが、このブリリアントカットは虹色キラキラにもっとも特化したカッティングで、石の持つ反射の特性から数学的に導きだされたというだけあり、すばらしい輝きを叩き出します。

 ところで、前述したようにこちらは数学的見地から導き出されたカッティングです。また、ダイヤモンドは以前ちょっと書いたように、デビアス社という会社がガッチリ権利やらなにやらを抑えておりまして、価格の面はもちろん、その品質にもしっかりとルールがあります。4Cという言葉を聴いたことがある人もいるのではないでしょうか? これはアメリカ宝石学協会というのが定めたものですが カラー(色)、クラリティ(透明感)、カラット(重量)、カット(研磨の質)という四つのCでダイヤの質を決めましょうね、という話です。で、世の中にはブルーダイヤやブラックダイヤなどのウルトラレアなものもありますが、大体は無色で含有物がなく、透き通っていて、大きくて、きれいにカットされたやつの評価が高いということになります。別に不満は無いです。透明で大きくてちゃんとカットしてあるダイヤ、きれいですしね。

 しかし、わたしも所持してない身で言うのもどうかとおもうんですけど、つまんないんですよね。きれいなだけのもの、皆さんどうですか? 愛せますか? まあくれるっていうならぜひいただきたいんですけど、なんか不動産とか、株券とか、金の延べ棒とか、そういうのとおんなじように見ちゃいそうで、イヤなんですよね。もうちょっとケレン味がほしいというか、付け込む隙がほしいとおもっちゃうんですよ。キラキラしたものは好きだけど完全無欠の美人で心も優しい人のそばにいると疲れちゃうというか、わたしよりもっとふさわしい人がいると思います、お付き合いできません!! ってなりませんか?

 そんなあなたにお勧めなのがダイヤモンドって名前だけどダイヤモンドじゃないやつです。個人的にはハーキマーダイヤモンドとアランソンのダイヤモンドがおすすめですね。ちなみにハーキマーダイヤモンドはハーキマーって所で採れる形がきれいな水晶の結晶のあだ名です。そしてアランソンのダイヤモンドは、ガラスです。

 上でご説明したとおり、キラキラしたものには透明度と屈折率というのが深く関わってきます。透明であればあるほどなかに光がいっぱい入り、屈折率が高いほど内側で反射を繰り返しキラキラと輝く、と思ってください。ガラス自体は透明で屈折率もそこそこ高いのですが、これをぐーんと引き上げるワザがあります。それは鉛を入れることです。ただ、鉛をガンガンに入れるのは、今は人体への影響などをかんがみて(ガラスに入っちゃうと殆ど影響はないと言われているんですが)あまりしないことが多いです。なので、とびきりの有鉛(ペースト)ガラスはアンティークやヴィンテージにあります。

 アランソンのダイヤモンドは19世紀のフランスで産まれたガラスのフェイクジュエリー。工房ごとに成分に多少の差があるとされ(すこし青みがかったほうが人間の目には美しく見えるということで、鉛以外にもさまざまな成分がふくまれているという話です)さらに画期的だったのは透明のガラスの裏側に薄い金属の箔を貼り付け、反射の具合を高めたことです。しっかりとした文献に当たって調べたわけではないので、フォイルというテクニックのスタート時期はちょっとわからないのですが、鉛分量とフォイルという特徴でこのガラスが語られることは事実です。(ダイヤへのフォイル加工は18世紀からあるっぽいです)

 でもまあ、ガラスなわけです。しかし19世紀のフランスのジュエリーには、びっくりするぐらいこのガラス製のものがあります。王妃様の持っていたジュエリーが、ガラス製なんてことがあるわけです。金属部分には、もちろん金や銀が使われて!わたしはこれを見ると、コロッケを思い出します。コロッケを思いついた人ってすごいと思いません? お芋はふかせば食べられるわけですが、それをさらにつぶして、ひき肉やらなにやら細かくしたものを混ぜて、パンを乾燥させて砕いたものをつけて、さらに油で揚げるわけですよ。意味が解らなくないですか? どんだけ暇やねん、と思いませんか? ガラスの輝きを生かすために工夫をして、ダイヤモンドを飾るような土台を貴金属で作るというのも、同じ傾向を感じるんですよね。フランスの底力っていうんでしょうか。

 金の台でガラスを飾るなんて、もったいないという人も居るでしょう。しかし、この鉛の入ったガラスと言うのは、いいんですよ。ダイヤとはぜんぜん違う光り方をするのです。私の印象を書かせていただくと、ぬめりけのある、独特のぎらつきが感じられる光り方をします。ぎらり、ぎらりと輝いて、人間の心の底の、宝石に対する欲望に染み込んでくるような、そんな光り方です。コロッケもコロッケ以外にはない美味しさですからね。同じ感じがします。いまはより簡略化されて庶民まで広がっている、と言うのも込みでね。ガラス製のジュエリーはいまでもたくさんあります。でも、フランス産のものに限らなくても、古い鉛の多いガラスを手にすることがあればぜひ光を反射させてみてみてください。あなたのおばあさまや、ひいおばあさまが使ってらっしゃったブローチなんかがおうちにあればぜひ手にとって見るのをお勧めします。虜になっても、責任は持ちませんが。

 下記はおまけ文章。ヴィンテージとアンティークってどうちがうの?という話です。べつにググっても出てくる話なので実質投げ銭ボックスです。

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