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【社会起業家取材レポ #24】水産業を通じて、地域と社会の成長を促し、持続可能なエコシステムを生み出す。

SIACの学生が東北で活動する社会起業家の取り組みを視察・取材する「社会起業家取材レポ」。今回は、SIA2022卒業生の下苧坪之典さんのもとへ視察に伺いました!


下苧坪之典さんについて

株式会社北三陸ファクトリー 代表取締役 CEO
岩手県は洋野町に生まれた下苧坪さん。一度は都市部でサラリーマン生活を送っていたものの、父親の病気もあり地元へUターン。しかし、そこには幼き日に大好きであったという原風景が失われてしまっていた…楽しい少年時代を過ごした地元の姿を取り戻すべく、廃退していた父親の会社を解体し、新たに水産加工販売会社を設立。ところが、チャレンジを始めた矢先に東日本大震災が発生。そのような逆境の中、復興ボランティアに努めつつ事業を拡大。売上が安定してきた段階で、世界で北三陸という地域のファンを作っていくべく、2018年に「株式会社北三陸ファクトリー」を設立。現在も代表取締役CEOとして「北三陸から、世界の海を豊かにする。」をミッションに掲げ、旗を振り続けている。

北三陸から世界の海を豊かにする

近年、気候変動の影響もあり、ウニの水揚げは大幅な減少傾向にある。特に、海藻が枯渇して藻場が砂漠化してしまう「磯焼け」は顕著で、全国的に漁業関係者の頭を悩ませる問題となっている。また、磯焼けの原因は昨今の気候変動のみならず、春先に身入りの悪いウニが昆布の芽を食い荒らしてしまうことでも発生する。これらの社会課題に対してアプローチし、水産資源を消費するだけではない、生み出す『再生型水産業』-Regenerative Ocean Farming- を掲げ、海の砂漠化を解決し地域の産業を創り出す「うに再生養殖×藻場再生」を国内外で展開している。

視察内容の紹介

仙台市からレンタカーに揺られること4時間。岩手県洋野町へとやってきました。休憩のためにコンビニに降り立つと潮の香りが。目的地に近づいてきたことを教えてくれました。海に面したとても居心地の良さそうな街です。

目的地である株式会社北三陸ファクトリーさんに到着。
始めに大きく社名の刻まれた建物でお話を伺いました。

このロゴの刻まれた建物は2021年から稼働している新工場(兼オフィス)です。こちらの工場でウニの加工を行っています。また、こちらの工場は「北三陸エクスペリエンス・ザ・ストア」と呼ばれる北三陸のこだわりの生産者が終結したセレクトショップが併設されています。工場直結の場所でとても魅力的な商品を多く販売しています。これには、ただ食するだけでなく、食材を産み出す北三陸の独特の自然や地形、季節を見つめ、生産現場の空気感を体感する。生産者の思想を理解し挑戦に共感する。それらを「まるごと味わい食べる」ような体験=エクスペリエンスを共有したいという思いが込められているそうです。現在は工場直営店は不定期営業のため、すぐお隣の「ひろの水産会館ウニーク」で人それぞれに発見し感じ取ることのできる、豊かで深い北三陸の食の楽しさを探索してみてはいかがでしょうか。

次に、実際にウニの養殖を行っているうに栽培漁業センターを視察しました。ここでは稚ウニの生産が行われていました。大きさは2,3cmほどで、とても小さくて可愛かったです。稚ウニはここで1年間ほど飼育され、海に放流されます。ウニはおよそ2年間沖合の漁場で育ちます。その後、全長約15kmにわたる『うに牧場(増殖溝)』に移植されます。ここで最後の1年間、天然の昆布やわかめ等の海藻を食べて美味しいウニに仕上がるのです。このウニは「洋野うに牧場の四年うに」と呼ばれ、北三陸ファクトリーでブランド化されています。

続いて北三陸ファクトリーの工場から車で1,2分。特に他と変わらないありふれた海岸に到着しました。私たちからすると何の変哲もなく見える海岸ではありますが、下苧坪さんの目には違って見えているようです。そこには、海辺で過ごした幼少期の自分の姿が映っているようです。

海の近くで少年時代を過ごしたという下苧坪さん。小学生の時には放課後は近くの海にダイブし、昆布の森をかき分けて泳いだのだと言います。また、海の底にいる貝を取り、その場で食べたりと、海の恵みと隣合わせの生活を送っていました。海の上を見ると多くの船が立ち並んでいました。かつて洋野町は船で世界をまたにかける旅人が多く寄港する港だったのだそう。

そんな様々な国の旅人や海水浴客で満たされていた港の姿が下苧坪さんの瞳の奥には映っていたのでしょう。ところが、今の海を見ると、昆布やおいしそうな貝達は見当たりません。それどころか海の周りには柵が建てられてしまい、海に飛び込めるような雰囲気などありません。

一度地元を出た下苧坪さんが地元に戻ったとき、この現在の海岸の様子に愕然としたのです。そして、「あの原風景をこの手で取り戻したい。そして今の子どもたちにも体験させてあげたい。水産で栄えたこの地域で、子どもたちの人間性をより豊かにするためには、あの原風景が絶対に必要だ。」と考えました。こうして、ウニを起点に事業を展開する、現在の北三陸ファクトリーができあがっているのです。この海岸には下苧坪さんの捉える社会課題、そして起業しその解決に尽力している原動力がありました。

インタビュー

Q:理想の洋野町を教えてください。
A:世界中の人が洋野町に訪れて欲しいなと思ってます。そしてウニや商品の販路を洋野町で完結させられるようにしていきたいです。

現在は世界各国に洋野からウニを届けているわけですが、逆に世界中の人がこの町に訪れてウニを輸出しなくてもいい未来を作っていけたらいいなと考えています。全世界からこの町にウニを食べに来てもらう仕組みができれば、地域経済を盛り上げることもできますし、この町に住みたいと思ってくれる人も増えるかもしれないですよね。そういう場所に洋野町をしていくというのが目標ですね。すごくシンプルですよ。そして、この町にはブルーカーボンもたくさんあります。ブルーカーボンの聖地と呼ばれるような地域にしていくことで、漁師の皆さんも潤っていく。それと同時に、僕たちは世界の人たちが「洋野町に行こうぜ!」みたいな感じでここに来れる町にする。そして、その時に来られる場所を整備していくのが直近の夢ですね。

Q:社会起業家としての価値観について教えてください。
A:別に、自分が社会起業家だとはあまり意識していないんです。

自分が社会起業家だとはあまり意識していません。
ただただ、好きなことをやらせてもらっているだけだと思っているんです。しかし、ただ好き勝手やるというのではなく、僕がやろうとしていたこと・この先やろうとしていることが、世のため・人のため・社会のために役に立つかどうかということを考え、そしてそれが地域の・水産業の持続的発展に繋がるのかどうかということを、判断基準として持っています。それは、対取引先 ・対仕入先・対社内全てに向き合うということです。そして、それが最終的に全て自分に返ってくると考えています。このような価値観は、これまで、さまざまな生産者さんやお客さんと対話をし、海と向き合う中で形成されていったものなのかなと思います。

取材・執筆担当:木津裕人・伊藤匠人

視察を通して

下苧坪さんを取材するうえで学びたかったことに『社会起業家と呼ばれる方々に対する解像度を上げる』という点がありました。下苧坪さんは生まれ育った洋野町の原風景がなくなってしまっていたことに対して社会課題を見出し、これを解決するために現在のビジネスモデルを展開してきました。

私自身、東北地方に進学し、様々な東北の魅力に触れてきましたが、一方で、多くの地域が廃れ気味であるとも感じていました。課題先進国である日本でもさらに課題先進地域と呼ばれることも多い東北。その中で課題の解決モデルを創り上げ、世界規模の課題へと応用していくという、東北の弱みを強みへと転換するようなビジネスに触れ、自分自身、また改めて東北の地域課題へと向き合ってみようと考えるきっかけとなりました。

(木津裕人)

下苧坪さんの大事にしている「洋野町の原風景を取り戻したい」という言葉にはただ「海を綺麗にしたい」だけではない、たくさんの想いが詰まっていると感じました。下苧坪さんが少年の頃に当たり前にあった人生を豊かにしてくれたあの景色や体験を日本中、世界中に記憶に残る思い出として届けたいという洋野町への愛がひしひしと伝わってきます。

そして、下苧坪さんは私たちのようなまだ何者でもない若者の挑戦を応援してくださいました。「自分の中にしっかりと想いを持ち、自分の力で行動を起こし、挑戦することが大事。」そんなお言葉を頂き、自分の想いや夢としっかりと向き合い挑戦して、いつか下苧坪さんと一緒に何かお仕事などが出来るように精進しようと強く思いました。

(伊藤匠人)

編集後記

下荢坪さんと北三陸ファクトリーの仲間たちが描くVISIONには、『洋野町への想い』『幼き日の原風景への憧憬』『北三陸を世界へ』ここに書ききれない様々なストーリー・想いが詰め込まれています。ストーリーと想いのつまったウニ。おいしいはずです。これこそが地域を盛り上げる最強のブランディングなのでしょう。

うに、買えばよかった...

(木津裕人)

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