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【社会起業家取材レポ #21】 すべての人が「好き」と出会い、「好き」と生きる ~視察レポート編~

SIACの学生が東北で活動する社会起業家の取り組みを視察・取材する「社会起業家取材レポ」。今回は、SIA2022卒業生の荒木義彦さんにお話を伺いました!

インタビュー編はこちら


荒木義彦さんについて

子ども時代に趣味としていたゲームをきっかけにプログラミングに出会う。37歳の時に営業職から転じて、本格的にプログラミングを生業とし始める。現株式会社アイティプロジェクト代表取締役。東北の子どもたちに向けて体験機会を提供する活動「ロボサバ」「とうほくプロコン」「PCN仙台」など情熱を持って取り組んでいる活動は多岐にわたる。『すべての子どもたちが誰1人取り残されることなくICTの体験をすることができる社会』を実現することを目標に掲げ、イベントやプログラムへの参加をきっかけとして人生で何か1つ"楽しい!"と思えるものを持って生きていってほしいという願いが荒木さんの活動力の源となっている。子どもたちからは、親方と呼ばれている。

子どもの将来の選択肢を広げるICT教育

荒木さんは都会と地方で子どもが様々なことに触れる機会に大きく差があるということ(=子どもの体験格差)に課題を感じており、その1つとしてプログラミングを知る機会を挙げています。小中学生の時期にプログラミングというものに触れることで、将来の選択肢を増やすというのが荒木さんの様々な取り組みの根本にあるものです。

現在、荒木さんは小中学生向けのワークショップやコンテストの開催など、ICTの体験機会を提供する取り組みを行っています。

具体的な活動内容としては、小中学生対象のプログラミングコンテストである「とうほくプロコン」や、プログラミングを一から学び実践してみる総合的かつ長期的なプロジェクトである「ロボサバ」といったものがあります。ここでは、代表的な取り組みであるこの2つの活動を紹介します。

①とうほくプロコン

2019年から仙台高等専門学校とPCN(プログラミングクラブネットワーク)仙台の共催で行っている小中学生対象のプログラミングコンテスト。当初は「みやぎプロコン」という名称で開催していましたが、昨年度(2022年度)から対象エリアを東北全域に拡大し、名称を「とうほくプロコン」に変更。よりたくさんの子どもたちにプログラミングを身近に感じてもらうために活動しています。

プログラミングコンテストへの参加だけでなく、ワークショップや放課後ICT体験などのものづくり体験イベントも年間通して数多く開催しています。他にも、「地域課題をITで解決」というテーマで、自治体から集まった「地域の困りごと」を斬新なアイデアとITの力で解決する作品も募集しています。

また、今年度(2023年度)から新たな試みが始まりました。「学校部門」を新設し、1つのテーマについて学校単位で作品を応募することができるようになりました。最優秀校にはトロフィーを贈呈します。また、新たに「オーディエンス賞」を開設。最終審査会の来場者の投票結果をもとに受賞者を決定する賞です。審査員の評価だけでなく、来場者の声も反映されるようになり、さらなる盛り上がりが期待できそうです。

②ロボサバ

ロボサバの正式名称は「ロボットサバイバルプロジェクト」。「『つくる』『学ぶ』『競う』3つの体験を軸に、子どもたちのクリエイティブな力を育む総合プロジェクト(https://robosava.jp/about/より引用)」です。ロボットや電子工作、IoT(センサープログラミング)など、モノづくり体験の機会の提供を行っています。ロボサバの特徴は短期間で基本内容の履修が可能ということです。最短で1か月~2か月で大会に参加でき、気軽に始めやすいことも大きな特徴です。

年間を通して本部主催の大会や公式認定の地方大会などのアウトプットの機会がありつつ、自分のペースで学べる『つくる』『学ぶ』機会も常に提供されており、いつからでもプログラミングを始められる仕組みになっています。

視察内容の紹介

荒木さんの活動への想い

荒木さんは、ICTやプログラミングという分野で教育に携わっていますが、子どもたちに将来クリエイターやプログラマーになってほしいというわけではないと言います。

活動するにあたって、荒木さんは「小さいときに楽しいと思えることを見つけてほしい」という想いをもっており、その1つとしてプログラミングに触れる機会を子どもたちに提供しているそうです。

また、都会に比べて地方ではそういった教育機会が圧倒的に不足しているという現状があり、すべての子どもに体験機会を提供したいという想いのもと、宮城県を中心とした各地で活動しています。

小学校での活動の様子

2023年9月12日。宮城県山元町にある山下第一小学校の放課後の教室を使って行われている放課後ICTクラブへ視察に行ってきました。時間になると小学生が元気に走って入ってきて、開口一番に「親方、今日はこれ作りたい!!」と荒木さんのもとにキラキラした目で駆け寄ります。

小学生たちは、教室に入ってくるとすぐにプログラミング機器の組み立てに取り掛かります。その周りには幅広い年代の大人の姿がありました。活動をサポートしているスタッフには近所のお母さん方や宮城に移住してきた方など様々な方がいます。皆さんもともとプログラミングに詳しかったわけではなく、スタッフになる際に一から学んだそうです。しかし、スタッフの方々は「教える」のではなく、あくまでも「サポートする、手助けをする」という感覚だそうで、確かに一緒に楽しんでプログラミングをしている様子がうかがえました。スタッフの方々の子どもたちへの想いを感じるとともに、子ども自身が主体的に学ぶということを大切にされているのだと感じました。

ロボサバ大会の様子

そのおよそ3週間後(2023年10月1日)、今度は荒木さん主催の「ロボサバ大会」を見学。私たちも大会運営スタッフとして参加させていただきました。スタッフには大学生などの若い人から大人の方など幅広い年齢の方がいて、皆さんで協力して運営をしていました。

大会に向けて会場にどんどん人が集まってきて、大会前にも関わらず多くの子供たちがロボットを動かして練習をしていました。この大会は、年に複数回開催されていることから、大会経験者の子供たちはコースに合わせた独自の作戦を練って来ており、動作確認などを行っているのだそうです。個性・戦略は十人十色で見ていて驚かされるものも多く、私もワクワク&楽しい気持ちになりました。

時間になると、司会の方と荒木さんが前に立ち、大会説明などが始まりました。淡々と説明するのではなく、子どもたちの士気を煽るような・楽しくなるような喋りで、とても盛り上がった状態で大会がスタートしました。

大会が始まるとプログラミングの機械を使い、その場で子どもたちがプログラミングをしロボットに指示を出します。そして3つのコースをこなしてポイントを獲得していきます。そして、今回の大会では、今までになかったトラップとして落とし穴のような「裏ボスの穴」というものが付け加えられました。事前に策を練って来ていた子どもたちは、策が機能しなくなり苦戦していました。どのコースでも何度も何度もチャレンジしている子どもたちの姿が見られました。色々と試してみても成功できず頭を抱えていたり、上手くいって喜んでいたりと、様々な子どもたちの表情を見ることができました。親御さんたちは子どもが頑張っている姿を写真に撮ったり、温かい目で見守ったり、一緒に楽しんだりと、子どもに寄り添いながら参加されていました。

大会の時間はあっという間で、もっとやりたいと言わんばかりの子も多い中、採点・表彰が行われました。結果は接戦。同じ点数の子も多く、少しの違いで点差がついていたりしていました。成績優秀者の子は表彰され、景品をもらい、嬉しそうに写真を撮っていました。一方、惜しくも表彰まで届かず悔しそうな子もいました。

大会後、「また参加する!」と親御さんにいう子どもたちの声を何度も聞きました。荒木さんは、親御さんとも子どもたちとも親しげに話をしており、大会の魅力だけでなく、人と人との関係性もとても大切であると感じさせられました。

視察を通して

視察で伺った小学校でのプログラミング活動では、子どもたちがキラキラとした目でロボットが動いている様子を見せに来てくれました。私たちが小中学生のときはプログラミング教育が普及しておらずロボットなどの機械に触れる機会もほとんどなかったので、将来の選択肢としてそもそもプログラマーなどという選択肢が浮かびませんでした。早い時期から多くの選択肢を知っていることは、将来を考え始めるときに大きな宝物になるだろうと思います。子どもたちに様々な体験できる機会を提供することの重要性を改めて感じた時間でした。
(稲葉福音)

私は実際に現場を視察してみて、大人たちの熱い想いと子どもたちの可能性無限大の思考力・表現力・吸収力とが響き合って相乗効果が生まれていると感じました。視察中、参加していた子どもたちに話を聞いたところ誰1人としてやらされている子どもはいませんでした。1人1人が関心の向くままに楽しんで作業に取り組んでいました。荒木さんが目指す、体験機会を経て自分が楽しいことを見つける子どもの姿がそこにありました。荒木さんらも子どもたちの純粋に物事を楽しむ姿や素直で率直な言葉から学ぶことは多いそうです。子どもが体験機会を得るだけではなく、大人も共に成長する姿を間近にみることができた貴重な体験でした。
(中島幸)

私は荒木さん主催の「ロボサバ」にスタッフとして参加させていただきました。私の役割はロボサバのコースの審判だったため、間近で子どもたちの取り組む姿を見ることができました。大会では子どもたちがその場でプログラムを打ち込んでいて、正直プログラミングを難しいことと考えていた私にとっては衝撃的でした。子ども達は運営が仕掛けたトラップに事前に練ってきた作戦が使えなくなっても、何回も何回もチャレンジしていました。そして子どもたちは、やる気に満ちた・悔しい・楽しいなどたくさんの表情を見せてくれました。また親御さんたちも楽しそうにしていました。そんな風景に感動をすると同時に、私も何かにチャレンジしたいと思わせいただきました。また、プログラミングに対する固い考えが和らいで、私もプログラミングをしてみたいと思いました。本当に良い経験になりました。ありがとうございました。
(原田紗希)

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