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interviews#3 ミュージカル俳優・中井智彦 Part1

  俳優、歌手、表現者として活躍している中井智彦。芸大在学中にブロードウェイで観たミュージカルがターニングポイントとなって、2007年に『レ・ミゼラブル』でデビュー。その後、2010年から5年間劇団四季に所属するなかで、『美女と野獣』で野獣を、『オペラ座の怪人』でラウルを演じ、それぞれ500回もの公演を行った実績を持つ。
 そんな中井さんがデビュー15周年を迎えて、初めてのEP『Singer Song Actor』をリリースし、ライヴ・ツアーを東京、大阪、名古屋で行った。私は、中井さんがナビゲーターを務めたJ-WAVEの番組『WE/LIVE/MUSICAL』の構成を担当したことで、一緒に仕事をすることとなった。ミュージカル俳優や演出家をゲストに迎えて、トークする番組で、中井さんの優しく、真面目な人柄に触れてきた。だから、今年主演したミュージカル作品『PIANIST』で「うるせ~!!」だったかな、大きな怒鳴り声をあげる中井さんを観てすごく驚いた。
 それも新たなチャレンジとして、中井智彦の過去・現在・未来についていろいろ話をうかがった。

デビュー15周年を迎えての現在地

――中井さん、15周年を迎えていかがですか。何周年という節目を大事にするタイプですか。それとも単なる通過点ととらえていますか?

「15周年で初めて過去を振り返りました。5周年、10周年とあったはずですが、多分これまでは振り返りたくなかったんだと思います。特に劇団四季を退団した後は、これからどう進んでいくのか、どこへ向かうのか、とにかく前を向いていかないといけない。どこか恐怖心があったんだと思うんですね。だから、15周年を迎えて、過去を振り返られている自分にビックリしていますね」

――過去を振り返ることが出来るようになったきっかけは、何かあるんでしょうか。

「ミュージカルの舞台に限らず、ライヴ制作、オリジナル作品、ラジオ番組など、いろいろなことをやらせていただくなかで、多くの人と触れる機会に恵まれました。劇団を退団した直後は、人と触れ合うことにも自分の考え方が相手にどう受け止められるのか、そこに一種の恐怖心があって…。そのなかで多くの人の支えがあったし、力をお借りするなかで、人間のあったかさをすごく感じたんですよね。また、たくさんの舞台作品を観ることが出来て、それらを自分の中で消化していくなかで感じることがたくさんありました。そのなかで自分が感じる変化というのは、過去の自分と対峙出来たことですね。自分が一番触れたくないところは、無意識にうちに触れないよう避けてきたところがあったと思います」

――振り返った現在は、どんな思いを持っていますか。
「これからは、もっともっと創作をしていきたい。新しい作品にもトライしていきたい。15周年のライヴを東京、大阪、名古屋で行うなかで、これまでの中井智彦とこれからの中井智彦を自分のなかで強く感じることになりましたね」

――それでは具体的に創作したいことについて聞かせてください。
「自分が思い描いている世界を作品として作りあげたい、という欲求がだいぶ強くなるなかで、僕の中で明確になったのが脚本を書き、こういう世界観だからこそ、自分はこう表現したいと言うことを発信していくことです。それを音楽でやっているアーティストに憧れがあるので。たとえば、映画『アメリカン・ユートピア』を観た時のデヴィッド・バーンのカッコよさ。音楽には彼の生き様がそのまま込められているわけで。また、映画『エルヴィス』を観ても、彼はブラック・ミュージックを愛しているから、プロデューサーが企画したTVのクリスマス番組でもクリスマスソングを歌うのではなく、自分の魂にあるブラック・ミュージックを歌うあの場面、演出に僕自身結構震えました。もともとドキュメンタリー映画で観ていたので、好きなシーンではあったのですが。ミュージカル『レント』にしても、ジョナサン・ラーソンが自分とその周囲にある悲しいことや嬉しいことにフォーカスして作った作品で、それが僕の心をずっと揺さぶり続けているんですよね。
それらの作品を観るなかで、僕は、自分の言葉があるアーティストの歌に心惹かれるんだという気づきがあって、なぜ僕は歌が好きなのかを考えれば、考えるほど、こういった作品を作れるようなアーティストになりたい、という目標が出てきています」

コンセプトライブ『ワタシノコト』

――その具現化させた作品のひとつが11月20日に行われるコンセプトライブ『ワタシノコト』ですか?
「まさにそうです。僕が脚本を書いています。2人舞台になっていて、共演する樋口祥久さんとはミュージカル『ナイツ・テイル』でご一緒したのですが、ずっとおもしろい人だなと思っていて。稽古期間中とかも彼が踊る理由、僕が歌う理由とか、僕が自分の言葉を物語にしたいと思っていること、樋口さんがどう踊りで表現したいと思っているかとか、2人で結構話したんですね。そのなかで、僕らが抱えている問題だったり、息苦しく感じていることなど、これこそミュージカルの題材なのかもしれないとずっと思っていたんです。そこで、彼に「こういうことをやりたいんだけれど」と話したら、「私がすごく表現したいものかもしれないです」と賛同してくれたので、作ることにしました」

――脚本の進捗状況はいかがですか?
「グァ~っと一気に書けちゃったんですけれども、途中でちょっと違うな、もっと言いたいことはこうだったなとか、何回か構成をやり直しています。最終的にようやくカタチが出来た感じですね。その過程で、ずっと僕視点で書いているから、樋口君のことはよく見えるんですよ。彼の葛藤はこうで、思い描いていることはこうで、というところをずっと書いていたら、樋口君のことしか書いていない台本になってしまって(笑)。彼のことは、そこまで書いておきながら、自分が抜けているなと思って。自分のアイデンティティとか、弱さとかを文章にするのって結構つらいんだなと知りましたね。途中でわかったのは、自分との対話が出来ていなかった台本になっていること。本能的に触れてはいけない、という信号を出している場所に、思い切り飛び込む作品になりました」

――ご自身と対峙し、掘り下げるなかで感じていることは?
「なんとなく歌って、なんとなく踊る。そのなかで言葉がパフォーマンスに見えてしまうことへのわだかまりを実は、ちょくちょく感じていて。(ロンドンの)ウエストエンドで観劇した時、彼らがウソをついていない感覚に感動がありました。なんで歌うとかではなく、彼らの中に言葉が存在している。だから、ウソがなく、その役者がその人としてしゃべることで脚本とうまく絡み合っている。そういう芝居を作りたくて。『ワタシノコト』では樋口君は、彼の言葉としてセリフをしゃべっている感覚があります」

『ワタシノコト』

――中井さんから見た樋口さんは、どんな方ですか?
「作品の中でも樋口君は、特徴的な踊りをする人で、いわゆるモダン・ダンスです。もともとはジャズ・ダンスから始めた人で、個性的なダンスにずっとダメ出しをされ続けるなかで、自分にはこれしかないという思いから海外に渡ったところで、モダン・ダンスに出会い、彼の表現が開花したんです。『ナイツ・テイル』での彼が踊りの中に生きている感覚を見ていて、好きになったのですが、彼自身が100%の内面を出しながら踊れる場所が、実はあまりないんじゃないかと感じていて。その全てを受け入れて、演出家のジョン・ケアードが作ってくれたのが『ナイツ・テイル』だったと思います。
 『ワタシノコト』では彼が彼のまま踊れる場所として、(チラシの写真にもなっている)舞台を公園という設定にしました。自分の踊りをしながら、「本当の私の踊りを認めてくれない人の方がおかしい。なんで、これがわからないんだ!!」という怒りの感情をぶつけていく。彼は、そこで発散をして、また集団で踊る輪の中に戻っていくんです。その一方で、僕は売れないシンガー・ソングライターという設定。誰かに向けて歌うのではなく、自分が納得したいから歌を作るという意固地な性格。そんな2人が公園で出会うところから物語が始まります」

――音楽は、中井さんが作詞をして、長濱司さんが作曲をしているんですよね?
「いつも海外作品では翻訳された日本語詞という課題があるのですが、『ワタシノコト』は、日本語のグルーヴを生かすための音楽作りをしているので、どんどん先に言葉が進んでいく感覚があります。そして、僕が書いた歌詞に長濱君が曲をつけてくれるのですが、もともと僕との仕事ではアレンジを担ってくれているので、最初はどんな曲が生まれてくるのか、長濱君も僕も謎でした。それがすごくオシャレで、ジャズっぽさもあるシックな曲を作ってくれて。しかもセリフと歌の境目がないような曲ばかり。なかには『同調圧力』というゴリゴリの、バキバキのロックな曲もあります」

――まだ上演前なので、気の早い質問かもしれませんが、オリジナル作品は、今後のライフワークになりそうですか?
「自分は何を伝えたいのか。自分の生き様のなかで感じる葛藤と劣等感をいうものを乗り越えて、一歩先に進めるようになった自分というのが、15周年にして今見えてきているので、『ワタシノコト』は、そこにフォーカスした作品です。オリジナル作品を作ることは、自分の声を発信することであり、それが多分僕が歌う理由にもなっている気がします。今後、また新しい作品を作りたくなるかもしれないし、『ワタシノコト』をブラッシュアップすることになるかもしれない。そこはまだわからないです」

Part2は、2023年に出演する『ジェーン・エア』や15周年記念EP『Singer Song Actor』についてうかがいます。お楽しみに!!

中井智彦コンセプトライブ【ワタシノコト】
11月20日(日) 
昼公演:13時30分開場 / 14時開演
夜公演:17時30分開場 / 18時開演
会場:吉祥寺ROCK JOINT GB
配信もあります。
詳細は、中井智彦オフィシャルサイト
https://www.nakaitomohiko.jp/