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【光彩を放つは、新たな優位性】2023-24シーズン インテル序盤を紐解く

こんにちは!TORAです🐯

今季セリエAも12節を終了し、リーグ日程の1/3を消化しようとしています。

今回は代表ウィーク中にインテルの序盤を振り返って整理しよう!をテーマに据えた戦術考察記事。

小難しいワードを扱うのでなるべく噛み砕きますが、反面、誤認や誤解が生じるかもしれません。何かあれば是非ご教示ください!

ではいってみよう!


●基本メンバー

”5試合以上出場した選手”のみを抽出しました(時間ではなく試合数)。

右CBはパヴァ―ルよりも(WB起用含めて)ダルミアンが出場していますが、負傷離脱がなければ今後スターティングを務める機会が多いのは前者でしょう。

ダルミアンもCB/WB両方でスターティングにふさわしい総合力を持っていますが『その彼がバックアッパーであること』の価値こそインテルの自慢。

●今季は何が良いの?

・一層

セリエA:10勝、1負、1分
CL:3勝、1分で4節終了時点でグループステージ突破確定

リーグ戦での勝点の落とし方が気になるものの、評価を付けるのであれば「大変よくできました」が妥当でしょう。

なんだかんだスカッドの入れ替えが多かったですし、移籍市場での予想外もあった(九十の乱)。

後者は結果的に「これで良かった!」と強がりではなく心からそう思えるものですが、とはいえ色々後手に回ってしまったツケは小さくない。

そんな慌ただしい汗だくの猛暑を過ごしたのに、すぐにエアリズムを着直してサラっとシーズンインできたクラブへの拍手はしっかり送りたいのが僕の評価です。

では具体的に何が良いのか。

今回はボール保持局面に焦点を当てて、段階的に掘り下げていければと思います。

まずは一層。広く浅い領域のおはなし。

シモーネ・インザーギ体制の練度と選手の優位性。

詰まるところはこのセンテンスがすべてを内包すると考えます。

ただ、流石にざっくりが過ぎるというか、便利に逃げているのでもう少し踏み込んでいきます。

・二層

シモーネ体制は今季が3年目。

3年目のスタートを切れたのはロベルト・マンチーニ第一次政権以来。彼は2004年に就任したので約17年ぶりです。

今やお馴染みのシステムである3-5-2自体は5年目突入!と、時間と経験による積み重ねは小さくない。

この3-5-2という点で明確かつ具体的にブラッシュアップした点は心臓部

中盤底、つまりアンカーポジションの属人性が強かったインテルは、そこに番人を付けられたり、負傷などで選手を失ってしまうと深刻な機能不全に陥ってしまうことが少なくありませんでした。

コンテ時代のELファイナルでの敗戦、シモーネ政権1年目のブロゾヴィッチを欠いた冬の大失速あたりが特に嫌なアイコン。

しかし、今季はアンカー、つまりチャルハノールという心臓に封じられても、別ルートからの血流ポンプアップがより安定的になりました。

その具体的なルートを言語化するために、二層からさらに降りていきましょう。

・三層

心臓部が封じられたとしても出せるカードの種類とその強さは今季の特徴のひとつ。

何パターンか挙げてみます。

最もキャッチ―なのは右IHバレッラが最終ライン(付近)に降りて『第二の心臓』となる手札。

モード:バレッラ第二の心臓

バレッラが最終ラインに降りて発信者となり、代わりに右WBが高い位置を取る。

特にスタメンのドゥンフリースはビルドアップ耐性に難があるものの、高い位置でのプレーでゴールやアシストなどの分かりやすいスタッツを残せる選手なので、この設計の恩恵を最も感じていることでしょう。

今季はインテリスタも「誰?笑」と疑うほど覚醒中ですが、この設計が後押しであることに疑いようはありません。

反面、以前よりも低い位置でプレーする濃度が濃くなったバレッラは”分かりやスタッツ”がどうしても減ってしまい、「不調なのでは?」と不安を覚えるインテリスタも多数存在します。

しかし、バーティカルさが売りのチームにおいて彼の貢献は明白。

スタッツサイトFBrefによると、バレッラは「Progressive Passes」というパススタッツの回数がルイス・アルベルトに次ぐリーグ2位

これはゴール方向に関連した条件がいくつか付与されたスタッツで、至極簡単に言えば「バレッラがいかにゴール方向へのパスを付けている」ことの後押しとなります。

キャッチ―なスタッツは減りましたが、その分、縁の下の力持ちとなっており、セリエA大識者が仰る『スーパーバレッラ』への道を邁進していると捉えていいでしょう。ファンとしてはちょっと寂しいけれども。

続いての手札はこちら。

モード:IHのお引越し

IHが逆サイドへお引越しし、密集を作るパターン。

後述しますが、個人的にはこの機能性が今季インテルの象徴だと思っています。

基本的には右IHが左にお引越しするパターン。つまり、またバレッラですね。

ここでもどちらかと言えば、左IHやWBへボールを配球する側であることが多く、やはり今季のバレッラはパトロネージなタスクが主であることが窺えます。

特にCLグループステージ2節のベンフィカ戦には刺さりまくりました。

CLといえばこんなパターンも。

モード:フラッテージシステム

スクデットシーズンの中盤設計のリメイク

ペナルティエリアへの侵入やラインブレイク、ギャップを突くなど、フィニッシュ役やその囮になれる動きが抜群に上手い”襲撃者”フラッテージを高めに配置

代わりにムヒタリアンが低めに位置して、アンカーのチャルハノールと横、もしくは、浅い斜め関係を築くことで、フラッテージのビルドアップを担保するやり方です。

3節のザルツブルク戦では右CBパヴァ―ルと右WBドゥンフリースの縦の入れ替わりで相手守備の基準点をさらに乱す+αも積極的でした。

現状、このモードがハッキリと「機能した!」と評価できるのがこの試合くらいですが、バレッラが最終ラインに落ちてドゥンフリースを上げるカードと対をなす存在で、使い分けできる意義はあまりに深い。

その他、相手のプレスを誘引して一気に縦にギアを入れる。盤面をひっくり返すお馴染みの疑似カウンターもスカッド由来のディテールチェンジをした上で脅威であり続けています。

モード:プレス誘引→疑似カウンター

セールスポイントは色々ありますが、特に言及したいのはラウタロとテュラムの新ツートップ

基本的には背番号と逆でラウタロが9番、テュラムが10番タスクですが、お互いの本業がありつつも仕事をクロスできる万能性由来の補完は過去随一で相手からしたらこの上なく鬱陶しいでしょう。

さて、主なパターンを紹介しましたが抑えておかなければならないのは、これらが今季から急に始まったことではない点

疑似カウンターはコンテ時代から続くメインウェポンのひとつですし、フラッテージシステムも結局はスクデットシーズンの復刻。バレッラが最終ラインに降りるのも逆サイドへのお引越しも”今季から”ではありません。昨季もちょいちょいやってました。

でも、なにか今季は”一味ちがう”。

--なにが一味ちがうのか?

「良い意味で再現性が薄くなった」が僕の考え。

もちろん事前プランはあるんでしょうが、相手の打つ手、試合の状況、スコア、流れなどで手札を切る/切り直す回数が増えました。

ハード面は変わらずインテル流の3-5-2。横よりも縦志向で、数多くの3-5-2を採用するチームの中でも幅を取る配置が特徴。

ただし、ソフト面がより柔軟に。同じパンチでもストレートなのか、フックなのか、アッパーなのか、デンプシーロールなのかを自分たちで選択して繰り出せる。この幅も奥行きも一段上になったと見ます。

--どうして一段上になったのか?

この言語化こそが、記事の核。

そして、今季インテルの最も分かりやすい成長ポイントだと考えます。

●成熟した優位性

--どうして一段上になったのか?

結論から言えば、

関係性優位・機能性優位が成熟し、さらなる光彩を放っている

と考えています。

この『関係性優位・機能性優位』というワードを扱うには、”リレーショナルプレー(ファンクショナルプレー)”という概念を先ず説明しなければなりません。

・リレーショナルプレー(ファンクショナルプレー)について

“リレーショナル・プレー”とは何か?~7つの戦術パターンから新たなパラダイムを読み解く~ | ディ アハト (theletter.jp)

細部に知りたい方は日本でこの理論を発信した第一人者である結城康平さんの翻訳記事をご覧いただきたいのですが、誤解を恐れず一口で言えば『総じて、コンビネーションを指す概念』だと僕は思っています。

ポジショナルプレー派閥に抗争するように立ち上がり、そして広がったコンビネーション派閥。

この概念バトルは別に新しいものではなく、例えば、ゾーンプレスを生んだアリーゴ・サッキ監督と稀代のファンタジスタであるロベルト・バッジョの対立はまさにこの例でしょう。

そして、欧州のポジショナルプレーが理論体系化しマスに広がったのと同様に、南米のリレーショナルプレーも理論整備され、ロジックのマス化を目指しているのが”今ココ”です。

多くの人も言及していますが、個人的に対立するものではなく、むしろ両立するものでしょ!と思うのですが、

「コンビネーションが選手のポジショニングのための機能でしょ」のポジショナル派。

「ポジショニングはコンビネーションを活かすプレーのための機能でしょ」のリレーション派。

という主張が存在し、そしてやっぱり対立しておりまして、僕は

どっちやねん

と混乱し、咀嚼し切れてなかったので、これまで関連ワードを扱うことはほとんどありませんでした。

しかし、今季のインテルを言語化するときにこのロジックは避けて通ることができずと考えていてあらためて膝を突き合わせた次第です。

さて、ポジショナルプレーはその理論を構成する要素が存在します。

位置的・数的・質的優位やレストアタック・レストディフェンスなどが代表的。

※レストアタック、レストディフェンスについて
再現性を生み出したり、質を担保する配置と、”僕は”解釈しています。後者が分かりやすいので例えてみましょう。
ボール保持で相手陣地に押し込んだ際に3-2-5のような陣形になったとします。この際、3-2の部分がレストディフェンス。攻撃のスイッチややり直しを保証し、被カウンターに備える予防機能を持つ要素。ポジショナルプレーには欠かせませんよね。

同様にリレーショナルプレーにも構成要素が存在します。こちらも詳細は上記翻訳記事をご覧頂きたいのですが、ざっくばらんに表現すると下記の通り。

1)基礎原則はパス&ゴー(ワンツー)

2-1)パス&ゴーのための斜めの並び(階段みたいな非左右対称配置)。

2-2)パス&ゴーの際、中継の選手が”スルー”をするとより強力に。

3-1)ボールサイドの密集と逆サイドの孤立(いわゆるオーバーロードとアイソレーション)。パス&ゴーや階段、スルーは選手の接近によって最も促進される。

3-2)密集空間が過密になり焦げ付いた際、あえて逆サイドに展開せず、中央と同密集サイドでボールを展開し、ヨーヨーのように行ったり来たりすることで、階段配置を生み、基礎原則のパス&ゴーに回帰する。

ポジショナルプレーが再現性や安定性を生み出す”規律”だとすれば、リレーショナルプレーは混沌や不協和音を生み出す”自由”のスキーム

「いや、パス&ゴー(ワンツー)とかリレーショナル派じゃなくてもポジショナル派もやるでしょ」

「そもそもポジショナルとかいうワードが世に出る以前から、当然のプレーでしょ」

筆者個人のファーストインプレッションは上記の感想だったのですが、今季インテルを見てると不思議とこのリレーショニズムを強く感じるのです。

・なぜリレーショニズムを感じるか

ここで振り返りたいのが『モード:IHのお引越し』。右IHバレッラが左IHに加勢する殴り方。

ボールサイドに人を増やすことでの密集、バレッラが低めを担保することでの非対称設計はリレーショナルプレーを構成する要素と挙げられている点に合致します。

そして、スルー。

正確に記すと『Corta Luz』。光を奪う、が直訳ですが、意訳で飲み込みやすくするならば「DFの予想を騙し、ベクトルを折るためのプレー」と認識するがいいと考えます。少し長いか。

インテルの試合を見てるとラウタロのスルーバレッラがヒールやアウトサイドでパスのベクトルを変える印象、強くないですか?

定量的な根拠はなく主観オンリーになってしまいますが、個人的にはカルチョ界でトップを争うほど多いと思っています。

即興性を発揮させるこれらの手段は”混沌の設計”と評価することができ、これこそが一見「当然のことじゃね?」と思ってしまうリレーショナルプレーのロジカル面なんでしょう。

他、ミラノダービーでの3点目。カウンターの起点となったのは”ヨーヨー”の極みのようなプレーです。選手も接近し過ぎなほどに近い。

https://x.com/Inter/status/1703400914676318223?s=20

アタランタ戦で話題になったチャルハノールのスーパーパスによるPK誘発も同様にリレーショニズムを感じ取ることができます。

チャルハノールの技術にすべてを持ってかれますが、やってることはパス&ゴーです。

ドゥンフリースとのレーン被りのポジションから、決して短くない距離をランニング。その場に”居る”ではなく、”入っていった”ダルミアンのプレーはポジショナルプレーではなく、リレーショナルプレーと表現するが腹落ちします。

このように振り返ってみると個と個がジャムセッションするゴールの質と量は増えていると考えています。

定量的な根拠はありませんが、インテルをずっと追っているファンとして肌感だけで主張できるほどに。

もちろんゴールだけではありません。

シモーネ体制一年目は、インテルの3-5-2史の中で最もポジショナルプレーを打ち出していました。

ボール保持ではベースの3-5-2から、根本の部分で瞬間的に4-4-2になり、相手の撤退守備攻略時には2-3-5と可変していく中で、選手自体は流動的にポジションチェンジしますが、3-5-2や2-3-5という配置そのものの維持は徹底。

今季もやっぱりガワは従来の3-5-2

横よりも縦志向だし、WBは幅を取るし、ドリブル突破なんてチャラついたものに目をくれず、クロスという任侠道をただ進みます。

しかし、今季はバレッラのお引越しに代表されるように配置そのものを壊したり、密集などによって配置を歪にするシーンが増えている。

ハード面はやっぱりインテル流の3-5-2。けど、ソフト面のカードが増えた。しかもこれまでとは違う絵柄で。

これが「良い意味で再現性が薄くなった」に紐付き、そして、冒頭に繋がります。

シモーネ・インザーギ体制の練度と選手の優位性。

練度によって高めた優位は、つまり、関係性(=リレーション)優位と機能性(=ファンクション)優位。

コンビネーションがさらに向上し、
ロジカルに発動できるような機能がある。
その優位性が強い。

この出力の高さこそ、今季インテルの強さと考察します。

コンビネーションが良い!連携が良い!って言うは易しなんですが、筋道を立てた論拠を示すことが難しいと思っています。少なくても僕はめちゃ難しい。

とはいえ、コンビネーションや連携はポジショナルだの、ティキタカだの、どん引きカウンターだの、どんなサッカーをやろうとも必要不可欠なエレメント。

その理論の発展はサッカーという競技の進化に繋がり、理論の認知が広がれば視聴者はサッカーという無限性のあるスポーツをさらに堪能できるのではないでしょうか。

インテルがそれをリードしてくれるような存在でありますように。

以上!

ということで!つまり!!インテルは!!超仲良し!!!!という記事なのでした!!!!!

最後までご覧頂きましてありがとうございました🐯

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