差はあった

その瞬間、マスクの下から漏れる嘆声が場内を揺らす中、私は脳裏に妙な映像を思い浮かべてました。ゼーレみたいなおじさんたちが円卓を囲みながら、微かに安堵のため息を漏らす姿。「ああ、これで選考が楽になった、言い訳が出来た…」と思わなかった選考委員は居ない筈だと勝手に邪推した訳です。

はっきり言っておきますが、私はKOKOにもかなりの肩入れをしております。前にも書きましたけど、2018年の時点では、KOKOは「かなクリが近々取ってくる筈の2枠目に対して、恥ずかしくないレベルに達しておくこと」が最重要課題だった。それが、「トップを追い落とす」というイニシエーションも無いままに、突然「日本を背負って立たなきゃいけない」ポジションに放り込まれちゃった。いきなりぽーんとハードル上がるし、国別やらショーやらでは「年長組」として競技以外の所でも頑張らなきゃいけなくなっちゃって。前王を駆逐してその座についた訳じゃなく、「空いたし誰も居ないから貴方座ってよ!」と言われて座らされた玉座。これ、相当辛い筈…。

バルバラ・ブーザル=ポリ(トリノ五輪でコケたパートナーを睨みつけてた美女)先生に溺愛されて、パートナーいなくなっちゃった後も「一人でもいいからうちで練習してなさい!」って厳命されてた美里ちゃんに比べたら、尊くんのスケーティングは「うん、頑張れ…頑張れ…」といつも拳振り回して応援しなきゃなんない感じのものだった訳だけど(ちなみに、美里ちゃんの元パートナーって、今をときめくイタリアのシャルレーン/マルコのマルコのお兄さんらしい)。何とかして弱点克服して少しでも上に行けるように、と、本人たちも連盟や指導チームもそりゃもう必死に頑張ったと思う。そして、努力に応じてじわりじわりと点数も上がってた。
特に去年。コロナのせいで行ったり来たりが出来なくなったことは、むしろ尊くんのスケーティングの安定にかなり大きく寄与したんじゃないかと私は思ってて。国籍変更も上手く行き、何か一つぽん、とステップアップしたような感じはあった訳ですよ。正直欣喜雀躍しましたもん。「おお!これは!」って。

ただねえ。うーん。うーん。
今季、いざ「そこそこ土台作りが見えてきた」状態で現れたかなだいを前にしちゃうと、これが。基礎力が。
報道ではほとんど見えない、見せてもらえないエッヂの角度やスピードが、残念ながら桁違いなんですよねえ。私も永遠のド素人だけど、かなだいのワンフットのエッヂ、「なるほど『ダイスケをアイスダンスにちょーだい』と海外のコーチに言われてたのってこれのことね…」とため息が漏れるぐらいに深くて滑らかで。KOKOにも肩入れしてますが、一方で双方シングル時代からのかなだいファンでもある私。「何とかして贔屓目を抜きにして、フラットに…フラットに…」といくら心で念じて観ても、なんつーか「そんなに違うか…結成2年目なのにこんなにも差があるのか…」と口あんぐりでした。
今回の、転倒ありの全日本に限って言っても、かなだいを「エラーのあった日ハムVS楽天戦」だとすると、KOKOは「ものすごく緊迫したいい試合をした甲子園の準決勝」だった。「何としてでも決勝にコマを進めてやる」というKOKOの気合は素晴らしかったし、本当に緻密に戦術戦略を立てた(それが個人の好みに合うかどうかはともかく)いい演技だったんだけど、いかんせん基礎的な技量は圧倒的に前者の方が上、みたいな感じ。特に…素人がこんな事言うのはもう本当に自分でもううううう、なんだけど、男性のフットワークの差があからさまに出てしまうステップシークエンスで差が見えちゃった。たった2年目にしてRDのパーシャルで堂々と哉中ちゃんをぶん回し始めた大ちゃんと、凄く凄く頑張ってるけどまだエッヂがフラットなたけちゃん。連続して観てしまうと、違いがあまりにも明確で辛かった。あのレベルになると、鍛錬を超えた才能の問題になってしまうのか…と、呆然。
転向2年目VS結成6年目、という事を考えたら、この大きな差異はもう驚天動地の事で、実際に現地で観てた人はそういう(ほころびの見えたプロと、感動的な高校野球的な)印象を得たんじゃないかなあ。

それでも「ものすごく頑張った高校野球」を選んだ連盟は、要するにそっちの方を重視した、ということですわな。
ズエワ先生は「スタンディングを選考基準に入れるのはおかしい」って苛立ってらしたし、それもまあそうなんだけど。こんなことになるのであれば、「今季ランキング」を最初から外すべきだった(ある意味、「今季ベストスコア」と被るしね)。最初から、「実績重視、これまで日本を支えてきたり枠取ってきた大功労者(これはもう本当の事。KOKOは凄い事した)KOKOにアドバンテージ与えておくからそのつもりでね」ってはっきりしておいてくれた方が、むしろすっきりしたと思う。半端に2-2になるような偶数の基準を置いちゃったがために、ぐちゃぐちゃになっちゃった。女子もそうなんだけど(こっちはガチで腸煮えくり返ってる)、選考に非常に恣意的な揺らぎを置いちゃったがために、選手の方に批判が集まるような姿勢になってしまった訳で。本当にスケ連の狡さ馬鹿さが鮮明になってしまって、それを丸ごとKOKOが被る形になっちゃったのが腹立たしい。今回、本当にどっちのチームも頑張った。それは間違いない。なのに、連盟がグダグダしたせいで「選ばれた方」がネガティブな言質の渦に巻き込まれているの、本当に見るに堪えない。

ちょっと今年末で忙しいので、後日追記しそうだけど(笑)。とりあえず今のモヤモヤとかなだい/KOKOの(私が観て感じた)差だけは置いておきたくて、急いで書いて投げときます。ううう。
今言える事はKOKO五輪頑張れかなだい4CC&世選頑張れ、だけなんだけど。

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