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琉球廻戦 5

【伍】


舞浜兄弟と呼ばれたにも関わらず、奥から出てきたのは男二人と女一人であった。二人の男は全く同じ中肉中背、眼鏡をかけた一重瞼に短髪であり、おそらく一卵性双生児かと思われる。この二人が暑川の呼んだ舞浜兄弟で間違いはなさそうに見えた。しかし問題は二人の間に仁王立ちしている一人の女である。

それは身の丈にして3メートルはあろう巨大な生物であった。全身が鋼の様な筋肉に覆われており、現代人とは思えない角ばった骨格が肉体越しにも見て取れた。容貌はネアンデルタール人に酷似しており、落ち窪んだ両の眼は野生的な輝きを放っている。身につけている衣服が鮮血のような赤いワンピースである事と、口に差した赤い紅がその生物を女であると辛うじて分からせていた。


「はは、いつ見てもおもろいスリーショットや。」

暑川はそう呟くと舞浜兄弟に自らが殺害した女と知念の死体を処理する様に命じた。


「人間ヲ吸ワセロ!!」


舞浜兄弟の中央に立つ女がそう叫んだ。

「興奮しないで、ママ。今から吸わせてあげるから。」

舞浜兄弟の片方が女を宥めた。どうやら女の正体は兄弟の母親であるらしい。

「おっかないのお。ま、チャッチャと片付けたって。」

「にいちゃん、ママに命令してあげて。」

弟と思われる方の舞浜が兄に向かってそう言うと、兄はカッと眼を見開いて母親に命令した。

「人間を吸え!!」

次の瞬間、舞浜母は知念の口にディープキスをする様にして唇を重ね、物凄い勢いで一気に吸引した。

豊満な贅肉を孕んだ知念の亡骸はみるみるうちに萎んでいき、次第にベキベキと骨が砕ける音を立てながら干したスルメの様に変形していき、最後はホロホロと身が崩れて風化した。

ゴックン、と知念の体液を飲み込んだ舞浜母は、続いて同じ様にして女を吸引して風化させた。

「ははは!天晴れや!いつみても人間業とは思えん。いや、人間とちゃうんやろな、最早。」

暑川はショーを観覧したかの様に手を叩いて舞浜兄弟達を絶賛した。

「ところで組長、僕たちを呼んだのはただの死体処理だけではないんでしょう?」

舞浜弟が暑川に問いかけた。

暑川はニンマリと笑みを湛えて言った。

「当然や。ワシの可愛い彦をもう一回捕まえて檻に戻す。その為にはその女の力が必要や。」

「しかし組長、彦の脱獄を手伝った飼育係が居るんじゃなかったですか?まずはそいつの素性を調べるべきでは?」

「阿呆!そもそも彦は脱獄しようと思えばいつでも檻を破って出て行く力を持っとるねん。つまりその飼育係は脱獄とは関係無い。他でもない彦自信が、脱獄する目的があって檻を破ったに決まっとるんや。その目的は定かではないにしろ、彦のスピードならあっという間に沖縄を脱出しよる筈や。その前に彦を捕獲するで!」



彦が檻を破って外へ出て行った理由は何なのか。それが分からないままではあったが、暑川と舞浜親子は彦奪還へ向けて動き始めた。

彦、暑川、舞浜親子、そして島袋を巻き込んで、後の歴史に刻まれる【琉球廻戦】の火蓋が切って落とされようとしていた。

つづく

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