強化人士4号

強化人士4号、彼について語るのは難しい
主人公スレッタと同じくらい謎の多い人物で、何だかんだ主役だから丁寧にキャラを掘り下げられ、それでいて「先入観からの誤解」を、魔女裁判における偏見として視聴者にも体験させようとしてくるこの作品
そのせいでスレッタのキャラクターは、わかるようでわからない、でも理解しようと丁寧に観察すればその人なりに何か見えてくる、そういう描写の仕方がされている

が、それは主役で尺が十分使えるから成り立つ話、1クールの半分、6話で出番がなくなった4号にはそんな掘り下げをする暇がなかった

それでも、スレッタと最も心を通わせ近づき、最後には自分とは違う、と反発して争った彼だからこそ、その後のスレッタの描写と合わせて似ている部分、違う部分が見えてきて、それなりに彼を知ることができる

更には彼と同じ顔と声、似た境遇に放り込まれたもう一人、強化人士5号の2期での本格的な活動で、更にそのキャラクターが対照的に明かされていくものと期待している

今回は、そんな2期の前に4号についてまとめてみたい

全てが謎のキャラクター

「強化」「人士」の謎


強化人士、というもの自体が謎で、そのまま乗ればデータストームとか「呪い」とか呼ばれる反動で、身体に悪影響を及ぼし死んでしまうモビルスーツ「ガンダム」その呪いに対抗するために「強化」を施したのが強化人士、おおむねそういう解釈で間違いないと思う

「人士」は中国語で「地位や教養がある人」と出るので、4号が出てきた1クール序盤では「影武者として成り代わるエラン・ケレス本人の代役が務まるような知識と教養を身につけている」という意味かと思った
事実彼は非常に難しい哲学書を読んでいると、実際に存在するその本が確認でき、どのページを読んでいるかわかるようにまでされていた

ところが、いざ本物のエラン・ケレス(ここでも愛称のエラン様と呼ぶことにする)が登場してみると、難しいとは言えそんな厭世的な、人生を空虚だと論じる哲学書を読むタイプではなかった
更に4号の後に登場した5号は、エラン様以上にそんな本を読むタイプでもなく、あれが「人士」たる一環として与えられたアイテムではなく、4号自身のキャラクターを示すアイコンだと判明する

記憶に関する謎

同じく生い立ちについても、世をはかなむ本を読むだけあって過去について語らない、どころか記憶がないらしいとわかった

これに関して「強化」の一環で、顔をエラン様に似せるため整形している他、バイオテクノロジーとナノテクノロジーも使われているとされているため、イメージで「記憶を操作、消されている」と思われていた

ところが、後に出現する5号は「押せば落ちるな、あれは」をはじめ、女性を口説くという行為を理解している(慣れているとは言えないが)ということで「強化人士として改造されたのちに、ナンパ術を学ばされた」などという面白設定でもない限り、過去の記憶を有していると思える

4号に関しても、6話の最後で分かるが「母の思い出らしい夢」を見ている。そのことに対しベルメリアは「またうなされていた」としか言わない
記憶を人為的に改ざんや消去していたなら、「あなたひょっとして嬉しいの?」という疑いとともに、心境の変化が記憶を取り戻したことによるものだと連想しないものだろうか?

また、その思い出した母との記憶では、古びて壁がめくれ、レンガがむき出しになった暗い部屋で、焼いただけで何もついていないケーキと思しきものに、ろうそく代わりにマッチを一本刺しただけの、恐らく誕生日だろう光景が映された

あまりにも貧しい光景だが、それを鮮明に思い出した4号は「僕には何もないと思ってた、けど、そうじゃなかった、そうじゃなかったんだ」と言い、スレッタへの憎悪、やっかみが嘘のように消えていた
このことから、その記憶は同じ強化人士として何も持たないスレッタに共感や同情したけど、実は持ってた事への羨望と反転した恨みを忘れられるだけの大切な記憶、自分だけの愛された記憶だと思われる

5号のことと合わせて、4号の記憶がないのは人生をはかなんで、過去の良かった記憶から希望を持たないように自ら封じたように思える

という風に、全てが憶測で、ある程度「これだ」と断言できるほど確かなものがない謎だらけのキャラクターなのである

氷じゃない「氷の君」

マネキンとして振る舞っていただけの王子

その無表情無反応さから「氷の君」や「マネキン王子」と呼ばれた4号だが、前述の通り記憶や感情を自ら押し殺し、何に対しても期待を抱かないようにするために、あえてそう振舞っていたと思う

これを一番示すのが6話のスレッタに対する憤り。あれが勝手に抱いた自分の期待を裏切った、という八つ当たりでしかないのは「君が魔女なら切り抜けられるはずだ」と、3話では「自分の期待に応えられなければそれまで」という立場からスレッタを試している

その期待に応えたスレッタだからこそ、それが裏切られたと思って5話6話の憤りになるわけだが、スレッタは別にやりたくて決闘を受けたわけでも、4号の期待に応えるべく決闘に勝ったのでもない。その意味でもミオリネやグエルと同じで、スレッタの言動から勝手に自らの問題と重ね合わせ、答えを見出して勝手に救われている

氷でもなく人の機微に敏い

氷の君と呼ばれるほど怜悧で人を寄せ付けず頼らない4号だが、2話で「彼女、本当に魔女なのかな」と、事もあろうにシャディクに相談している

この当時はまだそれぞれのキャラクターの掘り下げがなく、特にシャディクは女を侍らす自信家で実業までこなすやり手のプレイボーイ、という印象だったが、後にミオリネのことだけを思い続け、取り巻きのシャディクガールズにも下手すれば一切手を出してない男だと分かる

そう、スレッタが自分と同じガンダム乗りで、データストームにやられてないなら同じ強化人士だ、同じ可哀そうな人間だと、初めて共感し合える相手を見つけたと思った4号は、けど確信が持てなかった

そこで、他人に相談する性格でない彼が相談した相手がシャディクだ

何故相手をシャディクに選んだのか?これも理由は明かされていないのでまた勝手な憶測になるが、シャディクと自分とに共通点を感じたからではないだろうか

シャディクはミオリネのことになると、大事にし過ぎて急に奥手になり消極的になる
4号も同じ、スレッタのことが気になって仕方ない、初めて分かり合える相手かもしれない、けど違ったらどうしよう、期待して裏切られるのが怖くて悩んでしまう
そんな似たような境遇を、何となく感じ取ったから相談する相手にシャディクを選んだのではないか

4号は進める子

そんな葛藤を持ちながらも、ガンダムパイロットと知るとペイルCEOらの命令もないのに即座にスレッタに近づき差し入れをし、実習のメンバーが集まらないと聞くと手助けを申し出た

シャディクは慎重になりすぎて、怖くて実行に移せず何年も気持ちをくすぶらせたままだったが、4号は自らの気持ちに戸惑いや葛藤を抱きつつも、進むことを諦めることができなかった

この差は恐らく、彼が唯一持っていた、思い出した「母との記憶」によるものだと思う

その事を思い出せば「愛された」という確かな記憶が自信になり、無償の愛を信じて進むことができたのだろう

シャディクだってサリウスからそれを受けているはずだ、養子とは思えないほどサリウスはシャディクに気を使っている様子が見える
けどそれを信じて甘えるには、シャディクの生い立ちや立場は厳しくて、条件付きでないと愛されない、という気持ちが強いのだろう

条件が付かないと愛されない、認められない、と思うのは4号も同じ(というかベネリットの子たちは大方そうじゃないか)で、3話でスレッタに「君が魔女なら~」と不利な条件を放置するのも、それに応えられないなら自分と同じ立場で分かり合える相手じゃない、という試し行動だ

けどそんな奥手な4号、実は学園でも一番進める子だった
ガンダムに乗っていると知るや、自分と同じ存在かと思った4号はペイルCEOが確認のため接触を命じるより先にスレッタに接触を始めるという非常に積極性に富んだ面を見せる、この点で「氷の君」という評価は、彼が本来の自分を抑圧していたことへだと分かる

ミオリネ並みに相手を煽れる

相手を察する能力の高さは煽りにも表れている
ミオリネに対し「僕は君に興味ないよ」と言ったが、他ではミオリネの方が煽ってレスバに勝つのに、ここではたった一言で沈められた。その前の「君はわかりやすすぎると思うけど」と合わせて、やはり他人に関与しないだけで、相手の心情を察する能力はかなりずば抜けている

これに比べると「押せば落ちるな、あれは」と、完全に引いていたスレッタに対して頓珍漢な感想を述べる5号は、同じ強化人士でも別人過ぎるし、表面的性格はともかく、相手を理解する能力なら4号の方がハニートラップに向いている

「鬱陶しい」という言葉の真意

そんな相手の気持ちを理解できる、ミオリネのこともたった一言で痛いところをついて黙らせられる4号が放った「鬱陶しいよ君は」だが、これはスレッタの真意をついているのか?

実は鬱陶しいスレッタ

これはミオリネの評価でもあり、ミオリネがそう評したのは4号のそれがあった後だから、関係性は逆と言える
けどやっぱりうざったい、好きになった人には一途でまっすぐ進んでくるから場合によっては鬱陶しいと言える
「私はミオリネさんのこと信じてました」と抱き着きに行ったり「うちのミオリネさんがすみません」と保護者面したり、そういう面はある。それをあのわずかな付き合いで見抜いたのなら、観察眼は本物だ

鬱陶しいは自虐?

けど、さすがにその鬱陶しい面は見せる前だった。ミオリネへの懐きは4号がいなくなってから依存が高まったせいだし、4号へ鬱陶しく進んだのはそう言われた後の5話だった
そう考えると、あの「鬱陶しい」という評価は、自分と同じだと思った4号の自身への評価だった可能性はないだろうか?

どう考えたって4号の言動と鬱陶しいは結び付かないが、それは劇中の「氷の君」となったエランへの評価、そうなる前の彼は案外鬱陶しく進んでくるスレッタと似た子で、過去にそういう評価を受けたのかなと
少ない付き合いで掴みどころのないスレッタに対しては、的確というより自分が言われて傷ついた言葉をぶつけたのかも

事実としてCEOに接触を命じられる前からスレッタにグイグイ進み続けた4号の姿勢は、スレッタと同じく「鬱陶しい」ものだ

「やっぱり君は鬱陶しいよ」の「やっぱり」も、勢いで鬱陶しいって言ったけどやっぱり、という意味に聞こえなくもない

4号の本音

シャディクは6話でのエランに「らしくない熱さじゃないか」と評したが、あれこそが本来の「らしい」エランだった
そこを見抜けてない、というのがシャディクらしいということは、ミオリネに手を出せずずっと待っていた彼女に振られたことでもわかる
らしくない、とは誰もが思っただろうが、それをシャディクに言わせたこと、そのシャディクに4号は心境を吐露してシャディクの本質を見抜いていたこと、合わせると実にうまい演出だ

我慢を吐き出す4号

「ガンダムのために作られた使い捨ての駒だ」そのことを受け入れて諦めて見えた4号だが、それは諦めきれないことだった。だからこそ生きていることの虚しさを綴った哲学書を見て、自らを押し込めようとした、そんな気持ちがあの叫びには感じられた

「君は何でも持っている」で挙げたもの、家族、友達、やりたい事リスト、希望など、特にやりたい事リストのことを聞いた温室前では「たくさん叶うといいね」と無表情ながらに言っていたので、彼なりに応援しているのかと思った
けど実際は、生きる希望を持ってやりたいことをいくつも持っていることが羨ましかったのだ

もちろん羨ましいだけならあの時点でキレて決闘を申し込むことだってあったかもしれない。そうしなかったのは、やはり相手のことを思って祝福も嫌味も言える共感性の高さで、同類だと思ってたスレッタを応援する気持ちはいくらかあったのだろう
やりたいことの内容が他愛なさ過ぎて、生きる希望に満ちているとは言い難かったのも関係してそうだ

「君だけは否定してみせる!」この一言が言いたかったこと
自分と同じだと思っていたのに違った、そんなスレッタを認められず決闘を申し込んだ。スレッタに勝って否定しなければ、何もない自分を肯定するものが何もない、そんなみじめには耐えられない
それはスレッタも同じだった。特に声高に主張してないけど、スレッタも4号と同じく、彼を似た存在だと認めていた。彼からの拒絶は即ち、自分自身の存在の否定と同じだった

そしてスレッタにとっても、自身の存在理由の希薄さは秘かな不安と悩みであったことは、4号に否定されて落ち込んだ時、ミオリネに否定されて落ち込み、地球寮の皆も信用できなかった時に露見した

つまり6話の戦いは、お互いがお互いの存在理由を賭けた大事なものだったので、グエルが割って入った5話の決闘は「余計なお世話」だったのだ
4号にとってはペイルからの指示もあり、スレッタに正式に試合を申し込む口実としても必要な手順ではあったけど

なぜ憑き物が落ちたのか

決闘後憑き物が落ちたようになった4号、元に戻ったようで、その声色、話し方は、それまでの4号よりはるかに穏やかで優しいものだった

これは「母との思い出」を思い出しから

たった一つの思い出かもしれないし、それは象徴的な一つに過ぎず、もっと思い出したのかもしれない
どちらにせよ「何もない」と思っていた4号は、そのことで「何でも持っている」スレッタをうらやんで、拗ねてわがままをぶつけたのだ。何もないはずの自分に愛された記憶が、ないと思っていたものがあった、それだけでもう争う理由は彼にはなくなった
ちっぽけだろうがたった一つだろうが、それは重要じゃない

そんな自身のことを話した4号に、スレッタは「そんなのおかしいです」と言って話したスレッタの話の内容がかみ合わなかったので「スレッタは会話ができない」とする評もあるが、前述の通りスレッタにとっても4号は自分と鏡写しの存在、彼に何もないのだとすれば自分にも何もない、と認めるのと同義で、それは彼女のアイデンティティの否定になる。それは10話でポッキリ折られる弱いものだったが、だからこそ必死に否定して守らねばならなかった、話の意図がかみ合ってないと思っても

5号との対比

以上が4号に対する考え。他にもまだ多少あるし、5号の今後の活躍で4号との比較が増えてより浮かんでくる面もあるだろう。以下は現状で浮かんでいる5号との比較の部分

人生を諦めていない5号

2期PVの「むざむざ死ぬのはごめんだよ」の台詞からも、5号が4号と違って厭世的、生きることを諦める様子がないとわかる
けどそれも、最後の決闘で4号が叫んだ内容から「彼も決して生きるのを諦めていたわけじゃない」ことがわかる。いわば5号は「生きるのを諦めず生き方を変えた」状態なので、4号のその先を描くキャラクターにもなる

感情の機微が読めない5号

ハニートラップ要因として「性格の悪さ」で選ばれたはずの5号
しかし実際は馴れ馴れしい態度ながら、相手の気持ちを汲むことに関しては4号はもとより、アスティカシア学園の他のどのキャラより低そうだ
あの感じの鈍いスレッタにさえひかれてしまうくらいに
相手の気持ちを察してしまうから内罰的だった4号、相手の気持ちを察しないから外罰的な5号、今の所はその印象がある

任務で近づいている5号

4号は指令が来る前から個人的興味でスレッタに近づいたが、5号は最初からペイルの指示でスレッタに近づいている
いずれスレッタと関わることで、他のキャラと同じく自分自身の内面の問題に気付かされるのだろうが、そこに「自分から近づいたか、任務でやむなく近づいたか」の差が関係してくるのだろうか

「生きる」こと優先の人物?

「むざむざ死ぬのはごめんだよ」の他に「アーシアンのガンダムねえ、関わりたくないな」と言っている辺り、任務だろうが命が関わるなら放り出して逃げそうな印象がある。そんなことをしたらいずれペイルからの追っ手が来るだろうしやるかはわからないけど、明確に逃げ出したキャラが今まで出てきてないので、それもまたおいしいんでは

「心」を重視する?

これは自分の気づきではなく、他の人の受け売りだけど、10話で「そこに心はないさ」と、政略結婚など形式的であれば浮気しても許される、という考えなんじゃないか?
であるなら、逆説的に「心のある」関係性を認めている、それを求めているキャラではないか


これくらいかな。いよいよ今週末には13話スタート!

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