クルド語・クルマンジー方言とソラニー方言の違い(ざっくり)

先日「ソラニーどう?クルマンジーと比べて」と聞かれた時、全く的を射た返しができず…。そのことを反省して(汗)ひとまず両者の違いについて現時点で思うことをまとめておきたいと思います。

クルマンジーは1年、ソラニーは半年ほどやっただけなので、初歩的・雑駁なことしか言えないけどご容赦ください (カジュアルに聞かれた時のための頭の整理です) …とお断りを入れつつ始めたいと思います。

クルド語の方言区分

その前に両者の説明を簡単に…。クルド語には主要な方言としてクルマンジーとソラニーがあると言われています。
(他にもあるみたいだけど割愛)

■クルマンジー方言 (北部クルド語)
トルコ、シリア、イラク・クルディスタン北部など。話者人口1500万人程度
■ソラニー方言 (中央クルド語)
イラク・クルディスタン地域の大半、イラン西部など。話者人口600万人程度
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%83%89%E8%AA%9E

地理的分布

では改めて両者の違いについて。


文字が違う(ラテンvsアラビア文字)

クルマンジーはラテン文字でとっつきやすい。ソラニーは通常アラビア文字(ペルシア文字のがより近いかも)を用いるので覚えるのが大変。 

名詞の性の有無(あとエザーフェの種類)

クルマンジーには名詞に性(男性名詞・女性名詞)があるが、ソラニーにはない。

クルマンジーでは名詞が目的語や前置詞の後などに来た時に格変化するが(斜格)、その接尾辞が男性・女性・複数形で異なる。
この点ソラニーの場合はそういう違いはない。(別次元の難しさはあるけど… ※)

またクルド語にはエザーフェという、修飾語が後ろに続く時に名詞につく接尾辞があるのだが、それもクルマンジーでは名詞の性(と複数形など)によって色々と形が異なり、複雑でしんどい。
一方ソラニーは何でも単純に"-i(ی)"をつければ済む。ラクチン。

代名詞がかなり違う

日本語の方言を考えてもあるあるかもだけど、代名詞もかなり違う。
「私」はクルマンジーは"ez/min"(主格/斜格)に対してソラニーは"min(من)"だけだったり?
「あなた達」なんて"hûn/we"に対して"êwe(ئێوە)"だし。
指示代名詞も「これ, あれ」はクルマンジーは"ev, ew"に対して、ソラニーは"eme(ئەمە), ewe(ئەوە)"だったり。

…というかそもそもソラニーの代名詞周りは謎というか、クセがすごい。難しすぎてまだまだよく分かってないので引き続き頑張って勉強中。(※)

語彙は共通点も多いが違うところも

そもそもクルド語は正書法が徹底される状況にはなく、表記の異同が大きいというのは前提としてあるのだけど。
クルマンジーをやってからソラニーをやってみると、単語は6-7割くらいは一緒な感じがする一方、全然違うのもあったり、若干違うけど割と連想が効くのもあって面白い。

目につく法則めいたものとしては;
・v-w(و)
水 av-aw(ئاو) リンゴ sêv-sêw(سێو)
夜 şev-şew(شەو) 唇 lêv-lêw(لێو)
客 mêvan-mêwan(مێوان) など
・e(ە)⇔i(-)
小麦 genim-ginim (گنم)
キュウリ xiyar-xeyar(خەیار)
(私は)します dikim-dekem(دەکەم) など
・音が一部抜ける 特にd(د)など
橋 pir-pird(پرد) する kirin-kirdin(کردن)
もの tişt-şt(شت) 小さい biçûk-çûk(چووک)
馬 hesp-esp(ئەسپ) など
メタテーシス(音位転換)
(雰囲気"ふいんき"みたいに入れ替わるやつ)
雪 berf-befr(بەفر) 友達 heval-hawřê(هاوڕێ)? など
・無声音-有声音
医者 bijîşk-pijîşk(پژیشک) 
雑誌 kovar-govar(گۆڤار) など

全然違くてビックリした例は;
山 çiya-şax(شاخ) 石 kevir-berd(بەرد)
犬 kûçik-seg(سەگ) 本 pirtûk-kitêb(کتێب) など
あと同じ語だけど意味が少し違う例も;
若い=ciwan/جوان=美しい
市; 町=bajar/بازار=市場
クルド民俗舞踊=govend/گۆڤەند=結婚式 など

…というように、違いも違いとして楽しむことができる(かも)


(※補足) ソラニーの接尾辞人称代名詞・語尾人称代名詞(「ポスト能格型言語」の特徴?)が、まだよく分かってない…。

クルド語・クルマンジー方言は過去形で能格といって、なんか主語と目的語の形がひっくり返る的な現象が起きる。(雑に英語で例えると"He meets me."を過去形にすると"Him met I."になるみたいな) (代名詞だけでなく名詞も目的語では斜格に変化するが、これも同様に入れ替わる)
これがソラニーはもうひと癖あって、目的語の語尾のほうにちょろっと主語を表す代名詞マークがついたり(名詞の格変化なのか…?)、目的語がない場合は動詞の方にそれがついたり(えっ動詞の活用語尾なの…?)、と非常に特徴的なのだが、まだつかみ切れてない…。
『クルド語文法(クルマンジー方言)』ではおそらくこの点を指して、ソラニーを「ポスト能格型言語(post ergative languages)」と記述している(と思う)のだが、この辺はもう少し習熟してきたら改めてまとめ直したい…。


以上、文字が違う、名詞の性の有無(格変化・エザーフェが違う)、代名詞(のクセ)が違う、語彙はそこそこ一緒だけど違うところも色々ある…こんなところですかね。
次に聞かれることがあったら、しどろもどろにならずにうまく答えられるといいなと思います(笑)

また最後、勉強不足でそれこそしどろもどろにも程がある補足をつけてしまいましたが(汗) この辺もきちんと整理できたらまた改めてまとめ直したいと思います。

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