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【思い出】凶暴なサルと命をかけて戦った話
あれは小学校の頃です。
私は毎年の夏休みに、祖父母の家に遊びに行く習慣がありました。
祖父母は半端ないレベルの田舎に住んでいるので、おのずと大自然と触れ合うこと自体を楽しむ子どもになっていました。
店がない、自販機もない、公園もない、若者もいない。
人間の数よりも畑にいるウシガエルのほうが多いのですから、そりゃ大自然がベストフレンドになるわけです。
そんなありふれた夏の、ある快晴の日。
私は、大きなポリタンクを持って、川の源泉を目指していました。
水を汲むだけで楽しい年頃でしたので、私は存外うきうきでした。
村を横断する川の源泉はとても澄んでおり、その川から汲み上げた水を味噌汁にして飲むのが最高に美味しいのです。
喉の渇きで目がキマッていた私は、何が何でも水を飲んでやると変に意気込んでいました。
じりじりと照りつける太陽。
車の通らない日焼けした道路。
いかにも暑苦しいといった風景の中、遠くから水のころころとした音色が聞こえてきます。
ようやく着いた!
いてもたってもいられず、走り出す私。
あの冷たさ。
あの涼しさ。
頭に焼き付いたおいしい水の記憶をなめ回すように想起し、ポリタンクを身体にぶつけながら走っていきます。
しかし、楽しい夢に浸っていられたのはここまででした。
ピタッと足を止め、「えっ」と声を漏らす私。
心臓がバクンと波打ち、背中に冷たい感覚が走りました。
なんと視線の先にサルがいたのです。
あっ、殺される。
幼心に恐怖を感じた私は、ゆっくりと後ずさりしました。
私は敵ではありませんよ。
どんな馬鹿でも分かるような素晴らしいジェスチャーを披露し、後退していく私。
しかし、サルはどうしようもないほど頭が悪いのでしょう。
怒ったサルは歯茎をむき出しにし、クラウチングポーズくらい前傾姿勢になったのです。
私は膝をガクガクさせ、怯えました。
こんなの、勝てるわけない。
圧倒的な実力差の前では、ただ恐怖に震えることしかできませんでした。
しかし、窮地に立たされた私の脳裏に、突然ある声が響きました。
「そのポリタンクに水を汲むんだ」
そうだ、私は何のためにここに来たのか。
水を汲んで持ち帰り、水を堪能しなければ、ここに来た意味はないのです。
私には絶対に譲れない夢がある。
そう思うと、サルに立ち向かう勇気が湧いてきました。
今にも飛びかかろうとするサル。
ポリタンクを強く握りしめる私。
穏やかな大自然の風景とは似つかない目に見えない緊張感が、辺りを包み込んでいきました。
サルとの戦いは激戦となりました。
サルは私を追いかけ回し、あらゆる場面で常に有利を保っていました。
まるで私を追い回すこと自体を楽しんでいるようでした。
しかし、私は「奇声」という素晴らしい技を体得していたため、追いかけ回される度に、腹から声を出しました。
大気の震動にたじろぐサル。
徐々に蓄積したサルの中の恐怖心が、ついに臨界点を超え、サルは森林の中へと消えていきました。
こうして無事に帰宅した私ですが、今考えると非常に危ない経験でした。
皆さんはサルを見かけたら逃げましょう。
戦闘になってどうしようもなくなったら、奇声を上げましょう。
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