ダーレク創世記(Genesis of the Daleks)あらすじ

ドクターフー旧シーズン12の4つ目のストーリー,Genesis of the Daleksは1975年に放送されました.当時のドクターは史上最も盛り上がりを見せた4代目・トムベイカー,旅のコンパニオンにはサラジェーンとハリーサリバン.とにかく番組として一番脂の乗っている時期に放送されたのがこのストーリーです.

それまで明かされてこなかった宿敵ダーレクの出自に迫る6話構成・計150分ですが,2005年以来の新シリーズにも並並ならぬ影響を与え続ける重要なエピソードなのです.とはいえ,そもそも旧シリーズのドクターフーは日本語訳が極めて少なく,あってもVHSの吹き替え版だけですから,原則英語で取り組むしかありません.原語版のDVDなどは手に取りやすい価格で流通していますが,今回はせっかくですから,物語の骨子だけでも日本語で紹介しようと思います.

※40年以上前の作品とはいえ最後までネタバレしています.ネタバレが嫌な方,ご自分で挑戦してみたい方はここで立ち去ることをオススメします.

一連の物語はハリー・サリバンとサラ・ジェーンの二人を連れた旅の折,4代目がガリフレイ中枢のタイムロードに引き止められ

「ダーレク誕生の時に遡り,その発生を阻止するか,攻撃的性質を和らげる,あるいは弱点を見出すなど,何らかの対策を講じよ.さもなくば未来においてダーレクを止める術はなく,宇宙は滅びる」

と依頼を受けるところから始まります.拒否権などありませんので,これを依頼と受け取るか恫喝とするかは議論の余地しかありません.

一行が仕方なく赴いたのが惑星スカロでした.この星はカレド(Kaled)族とサール(Thal)族と呼ばれる人型知的生命体が生息しています.(要は役者は人間だし姿形も人間だけど,いわゆるヒューマンじゃなくて宇宙人だよ!)この二部族は永きに渡る紛争状態にありました. 両陣営はドーム型の強固な保護膜で本拠地を守備しつつ,ドーム外に派兵しては,いつ終わるとも知れぬ小競り合いを続けていたのです.

ドーム外の危険地帯には,ミュートーと呼ばれる元カレド族の人々もいます.彼らは紛争初期に使用された化学兵器の影響で醜く変異してしまった結果,故郷を追われた難民の末裔達です.カレド族には徹底して蔑視され,サール族に捕まれば奴隷労働力として酷使される,どちらとも相容れない存在として,常に苦境に置かれる第三勢力でした.

ドクター,ハリー,サラの三名は戦闘区域に降り立ち,混乱の中で離れ離れになってしまいます. ドクターとハリーはカレド族に拘束され尋問を受ける事態に,サラは居合わせたミュートーと共にサール族に捕縛されました. 

カレド軍の中でもエリート集団である科学部門は,比較的分別を持ったハト派の職員たちと,天才ダヴロスを筆頭とした好戦的タカ派に分かれていました.
ドクターとハリーが異星人であることを知るや,「未知の情報を引き出せる」として穏便な尋問の続行を望むハト派の職員たちと,「不穏分子は即刻排除するべきである」と即時処刑を画策するタカ派の間で意見が割れたものの,目下ダヴロスが開発中の兵器である「駆動機3型」の運用試験で標的として始末することが決定し,束の間の猶予が与えられました.

尋問という形でドクターと対話をしたハト派の科学者達は,ダヴロスの取り組みが倫理にもとる,邪悪なものに変質しつつあると認め,ドクターに協力して駆動機3型の実用化を阻止する手筈を整え始めます.カレド上層部に働きかけたハト派科学者達は,ダヴロスの研究に監査を入れること,そして運用試験の暫時停止まで漕ぎ着けることに成功しました.

ところが,上層部の決定を受けたダヴロスは表向きには素直に従うそぶりを見せつつ,秘密裡に自らの研究を加速させました.人体実験でタコの怪物に変異した,カレド兵士の成れの果てを駆動機3型に搭載したのです.名をダーレクと改め,ますます強力な兵器へと仕立て上げていきます. Kaled→Dalekですからね.ネーミングは案外安直なのです.

さて他方のサラを捕らえたサール族は,紛争終結の切り札として,残存兵器を結集した巨大ミサイルの完成を急いでいました.危険な弾頭部分の組み立てをミュートー達奴隷に強制し,サラも作業に従事させられていました.「ひとまずダーレク開発は停止した」ことで安心したドクターは,サラ救出のためにサール側のドームに向かいます. 

時を同じくして,ダヴロスは内偵者を通じてサール族のミサイル計画を察知,カレド側ドームを強化することで万全の体制を敷きました.しかし,ここからダヴロスは類い希なる狡猾さを見せ始めるのです. まず,疲弊し戦争の早期終結を望むサール族中枢部と密会の場を設け,ミサイル防護策を講じたことを通達.紛争の更なる泥沼化を仄めかします.にもかかわらず,敢えてその対策を無効化する術を漏洩し「私も速やかに戦争を終わらせたい.よってあなた方の計画通りに攻撃を許し,多くの同胞を犠牲にする代わりに,戦後復興に注力させてほしい.共に平和を築こう」と持ち掛けるのです. 

サラと無事に再会を果たしたドクターはこの密談の場に居合わせ,戦慄します.罪なき多くのカレド市民が犠牲になってはいけない,とドクターはサール側に留まってミサイル発射阻止を試み,ハリーとサラの二人は急ぎカレド側に戻り,ダヴロスの裏切りとミサイルの脅威を伝える…はずでした.ドクターの決死の行動空しく,ミサイル発射は行われ,カレド族の本拠地は火の海に.ハリーとサラは「運良く」カレド側ドームに到着出来なかったために無事でした. 

ドクター一行の生存を除き,すべてはダヴロスの思惑通りに進んでいます.彼は巧妙な自作自演を始め,同胞であるはずのカレド族を壊滅状態に陥れ,研究の邪魔をしたハト派がミサイル被害を招いた裏切り者であるとして処刑し,同時に残った軍部の戦意高揚に成功.密かに敵対勢力からの信頼を得た上で油断させることにまで可能にしました.実に鮮やかに両陣営の権力を掌握したわけです. 

こうなるとノリノリのダヴロスは報復という名の奇襲攻撃を仕掛けるべく,ダーレクのメンタルをさらにいじり,良心・倫理観・慈悲の概念を排除しました.この新生ダーレク達の圧倒的戦力を派遣し,サール本拠地を壊滅させていきます.辛うじて逃げ延びたドクターたちと,サール族やミュートーの生き残りが協力関係を築き,ダーレクの勢力拡大を食い止めようと戦力をかき集めます.

タカ派科学者の中にもダヴロスの暴走に怖じ気づいて二の足を踏む者が出てくるようになったころ,カレド再潜入の糸口を探っていたドクター一行は再び捕らえられてしまいます.この時初めてダヴロスはドクターという知性を認め,腰を据えて対話をしました.ドクターを脅して,未来におけるダーレク敗北の事例を吐き出させ,「過去である今から対策を練っておく」と言うダヴロスに対して,「戦車としてのダーレクは問題ではなく,中に蠢く冷酷無比な生物こそが全世界の脅威である」と説得を続けるドクター.ダヴロスは「中の生命体は生存本能を極限まで高めただけ.本能に従い戦い続け,いずれ全世界の支配階級に座す運命にある」さらに「ダーレク以外の命が滅びたときこそ,真の平和が訪れる」と反論し,両者の主張は全くの平行線をたどる結果に終わりました.

サール側ドーム内を全滅させたダーレクが帰還し,「ダーレクは役目を果たした,永き戦争は終わった」とダーレク停止を要求する元タカ派の日和組の面々.密かに日和組の助力を得て囚われの身を脱したドクターは,ダーレク培養室を発見します.「今ならダーレクを根絶やしに出来る.しかし,遥か遠い未来において,ダーレクという共通の敵を前に友好を築く種族だって現れる.そも,出来るからとやってしまっては,私もダーレクと同じではないか」と苦悩するドクター.

日和組の要求を,またしても受け入れたふりをするダヴロスは,全員で冷静に議論しようとうそぶき,主要人員を一堂に会する機会を作りました.今や絶対多数派の元タカ派・現日和組は,「まともな精神性を備えた兵器としてのダーレクなら残してもよい」などと言いだしますが,それすらも今のダヴロスの理念に背く主張でした.最終的には多数決でダーレクの永久凍結が決まったものの,当然ながらダヴロスは反対派をあぶり出すため値踏みをしていたに過ぎなかったのです.ダヴロスの理想に共鳴しない者は全員ダーレクに抹殺されました.

ドクターが手にしている虐殺の導火線は,突如攻撃性を増し暴れ出したダーレクが起爆させてしまい,大半のダーレクが培養室ごと自滅しました.ドクターは辛くも己の手を汚さずに済んだ,その決断を迫られることも免れた,とも言えるでしょう.現存種はすでに稼働しているダーレク数十体を残すのみとなりました.

ダーレク達はこの時点で種としての自我を確立し,生みの親のダヴロスをも劣等種と判断,攻撃を開始します.カレド族や,異端のダヴロスをも超越したダーレクへの対抗手段はもはや見つかりませんでした.戦力に乏しいドクター・サール・ミュートー連合は,苦肉の策として爆破生き埋め作戦を計画します.今まさにダーレクが世界に解き放たれんと展開を始めたその時,生き埋め作戦は決行に移されました. 

目下の脅威は去りました.こうしてダーレクは地下で力を蓄え,憎悪を養い,待つのです.千年後,再び地上に現れるその時を… 

さて,ドクターは指令を完遂することは叶いませんでしたが,ダーレクの歴史の歩みを変えることには成功しました.「この先何が起こるかはわからない,しかし,やがてくる巨悪登場の暁には,きっと善いことも起こるはずさ」と自分に言い聞かせるように語り,物語は幕を閉じます.

以上がダーレク創世記の全容です.このドクターの介入こそ,のちのタイムウォーの引き金になったともいわれ,ダーレクが抱くタイムロードへの一際激しい敵愾心の根源であるとされています.旧シリーズにおける屈指の名作であるとともに,新シリーズの方向性にも大きく影を落とす,大変重要なエピソードでした.


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